レベル999の勇者から逃げた大魔王は飼い犬になってスローライフを満喫する!?

蒼之海

第1話 200年振りの来訪者

 薄暗く伸びる通路の奥から、確固たる意思を持った足音が聞こえてきた。

 吾輩は記憶の扉を開いてみる。


 ……久しいな、200年振りというところか。


 ここまでくる輩なら、遊び相手としては丁度いいところだ。実際に退屈していたのは事実であるかなら。

 

 そう、吾輩は大魔王。

 この世界を実に千年もの間、支配している。

 圧倒的なパワーと魔力を持って魔物の頂点に君臨する、闇の王なのである。


 その吾輩の目の前に、人間のパーティーが姿を現した。

 ほほう、よい面構えだ。


「貴様が大魔王キールだな。覚悟は良いか。冥土の土産を持たせるほど、俺たちは優しくない」


 ……ふっ。皆同じことを言うものよな。


 200年前の勇者一行とやらも、似たようなことをほざいておったわ。

 もちろん吾輩の比肩する者などいない絶大な力の前に、一人、また一人と仲間は倒れ、最期は悔し涙を流しながら、消し炭になったものだ。

 その前の勇者も、またその前の勇者とやらも。


 実に、実にくだらん。


 今度こそ本当に吾輩を楽しませてくれるのだろうか。

 吾輩の住居兼住まいである、この「最終玉座の間」に姿を見せているのだから、門番を任せていたベリアルは倒したのだろうが。


 ……ククク、部下などいくらでも吾輩の禁呪魔法で生み出せるとも知らずに。


 吾輩の禁呪魔法に魔法陣や詠唱などは必要ない。今、この場でベリアル級の魔物を三体ほど、瞬時に出現させたら、此奴ら、どんな顔で泣き叫ぶのだろうか?

 いやいや。それでは吾輩の楽しみがなくなってしまうではないか。

 実に200年振りの来客なのだ。急いてはいかん。


 ゆっくり、ゆっくりと、楽しもうではないか……!


「……大魔王キールよ。何を一人で笑っているんだ。己の最期を前にして、気でも触れたのか」

「クククッ、これは失敬。何せここまでたどり着いた人間どもは久しいのでな。人間どもの感情で言うところの『感慨深い』というヤツだ」


大魔王オマエにそんな感情があるとはな。では忘れられない屈辱の記憶を抱いて、死ぬがいい。……いくぞっ!」


 勇者とやらたちは、戦闘体制を取り出した。

 後衛の魔法使い二人の杖に魔力が流し込まれて光り出す。戦士は大槌を振り上げて、先頭の勇者は切先を吾輩に向けた。


 ……まったく、人間という種族は死にたがりが多くて困る。


 吾輩は退屈しておったのだ。もう少し、話し相手にでもなってもらいたいものだ。


「……まあそう焦るな、すぐに殺してしまっては、吾輩の楽しみが減ってしまうではないか。ここまでの道中は、さぞかし苦難の道であったろう? どうだ、ここまでの冒険譚でも聞かせてはくれまいか? もし話してくれれば、お主らの体力や魔法力、ステータス異常などその他もろもろ、すべて回復してやってもよいぞ」

「心配無用だ。体力も魔法力も、全回復してある」


 ……ほう、そんな余力を残してここまで辿り着くとは。


 吾輩は素直に感心した。

 前の勇者一行も、そのまた前の勇者の一行も、そのまた前も。

 ここに辿り着いたときには、疲弊し切っていた。


 最強クラスの魔物を門番に据えていることも理由の一つであるが、この地下神殿を取り囲むように覆ってる森が、迷宮そのものになっており、上位クラスの魔物が跋扈し、即死に至るトラップがところどころに仕掛けられている。

 大魔王に対峙する前の最後の道のりとして、これ程までのものはなかろうて。


 ……それにしてもなかなかどうして。


 この勇者一行とやらは、その『迷いの森』を抜けて尚、万全な状態を維持できる余力を残していようとは。

 これは存外に期待できそうだ。きっと吾輩を少しは楽しませてくれるだろう。


「クハハハハハ! 『迷いの森』を攻略してその余力! 気に入ったぞ! クハハハハハハハハハハハハ」

「その森なら、83回攻略した」



 クハハハハハハハハハ……えっ? 今何て?

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