100万回抜いたねこ

不抜猫

第1話 女に自我のあるタイプの催眠は抜ける

 夜のサイスフィアシティを女が駆けていた。残業で遅くなってしまったのは迂闊である。上司の圧を跳ね除けられなかったのだ。


 上記を逸した労働時間でボロボロになってもなお全力で走るのには理由があった。

ここ数日、女は誰かにつけられている気がしていたのだ。


 不安になって警察に相談したが彼らは取り合ってはくれない。しかし、仕事を休むことは出来ない。ここサイスフィアシティでは休暇=死に直結するからだ。


 前方にぬっと人影が現れる。しまった。女の不安は的中した。使い古したジャンバーに包まれた丸いシルエット。暴食により肥大化したαタイプの弱者男性である。


 サイスフィアシティでは弱者男性の人権は認められていないため。発見しだいグループホースタウンに強制移住させられるが、時たま憲兵の追跡を振り切るものも現れるのだ。それらのほとんどは社会から見捨てられたストレスから脳が変異し潜在的なミュータントと化しているため非常に危険である。


 女はすぐさま踵を返して逃げようとするが、自分の体が動かないことに気づいた。バカな、覚悟は出来ていた。恐怖で脚が動かないなんてことはないはずだ。


「ぐへへ、動けないだろぉ」


 男の卑しい声が夜の街に響く。彼の手に握られたデバイスから怪しげな光が発せられている。男は催眠おじさんだったのだ!


「変態、気持ち悪いんだよ」


 女は強気に罵倒するがこうなってはどうしようもない。後はされるがままである。男が女に近づく、これからあんなことやこんなことが起こるのだ!これは期待できる!


 その時だった。


「弱者男性を見下している強気なビジネスウーマンが催眠により意識を保ったまま無理矢理汚いチンポをしゃぶらされる。『こんなの嫌なのに』と思いながらも強制発情させられた身体は抗えない。不快な快楽に翻弄されるがまま白濁に沈んでいく女の子。100万回抜いたねこれ」


 身体はホモサピエンス頭は猫。典型的な猫型ミュータントが闇から現れた。


「誰だお前は!」


「我が名は万城目ミリオン。又の名を100万回抜いた猫。又の名というのは股の名前ではなくもう一つの名前という意味だ」


「ほざけぇ」


 突如現われた猫型ミュータントに恐れることなく、催眠おじさんは無慈悲な自決強制催眠を発動。デバイスから発せられた光がミリオンの鼓膜に到達する。しかし何も起きない。人間専用の催眠術が猫頭に通じる道理はないのだ。


「ならば」なんという判断の速さ。催眠おじさんは自分自身に催眠をかけ、筋力を増強。ミリオンに襲いかかった。暴食により肥大化した肉体をさらに肥大化させ肉弾と化したそれが猫型ミュータントに迫る。


「百万回抜いたねこれ」


 だがそれをミリオンの代名詞である必殺技が迎え撃つ。1秒間に百万回抜く抜刀術の前では如何なる存在も無力。催眠おじさんは爆散した。


「ふぅ……またつまらぬ者で抜いてしまった」


 戦闘後にはいつも自慰行為の後のような賢者時間が訪れる。ミリオンが刀を抜く理由がそこにあった。しばし感傷に浸った後、ミリオンはその場を去っていった。


 取り残された女は未だ催眠の影響下にあり動けないままであるが安堵する。なんて日だろうか催眠おじさんに襲われるだけでなく。噂の猫型ミュータントと出くわすとは。ああ、そんなことより、明日の仕事には間に合うだろうか。心配だ。


 既に東から太陽が昇ろうとしていた。

 サイスフィアシティの夜明けは近い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

100万回抜いたねこ 不抜猫 @koromodeba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ