第28話 米料理を考えよう

 私たちは全部の稲を収穫し終えると、刈り取った稲を藁で束ねて、稲架(はさ)に掛けて乾燥させる。


 稲架というのは、木を組んで作った稲を乾燥させる為の設備のこと。


 まずは柱となる木の杭を、交差させる形で田んぼの中に差し込む。杭がしっかり埋まったのを確認してから横木を設置して、稲が干せるようにする。


 そして左右の端から徐々に稲の束をかけていき、最後に中心部分にかける。



「よいしょっと……ふう、これで最後ね」


「ああ、そうだな」


「この稲架に稲をかけて自然乾燥させるんです。期間は約二週間。もちろんその間も稲の様子を見ながら、ちょうどいいタイミングで回収するのを見逃さずに、しっかり乾燥させましょう」


「はい、エルシー様。なんだかちょっとドキドキですね!」



 ラウル様やリリたちは楽しそうに笑った。みんな初めて経験することだから不安もあるみたいだけど、それよりもワクワクした様子が窺える。


 前世の日本では稲の乾燥には専用の乾燥機を使っていた。だけどこの世界では、勿論そんなものはない。だから昔ながらの天日干しをする。自然の風と太陽光で時間をかけて乾かす伝統的な手法だ。



「それと藁を干しているとお米を狙って鳥が来るから、案山子と鳥よけを設置しておきましょう」


「分かりました。では早速手配します」



 私の指示を聞いて、レノアさんがすぐに動いてくれた。エラルド王国には王国ならではの鳥よけがある。それを手配してくれるようだ。本当に優秀なメイドさんだわ。



「皆様のおかげで無事に収穫を終えられました。ありがとうございます」



 私が頭を下げるとラウル様が微笑んだ。



「それほど大したことはしていないぞ。皆で作業すればすぐに終わったしな。それに皆で作業して稲刈りをして……楽しい時間だったのは間違いない」



 ラウル様の言葉にリリが同意を示す。



「はい、とても楽しかったです! 農家の皆さんはこんな気持ちでお仕事をしているんだなって勉強にもなりました!」


「収穫の喜びは大きいですわね。食物に対する感謝もより一層芽生えます」



 リリに続いてレノアさんもそう呟く。他の皆も収穫を終えたことに満足感を覚えている様子だった。



「稲刈りの後は脱穀作業がありますが、それは稲の乾燥が終わってからです。今日は農作業でお疲れでしょうから、ゆっくりと休んでくださいね」


「はい! ありがとうございます!」



 それから私たちはブルーフォレスト家に戻る。その途中で私は考えを巡らせる。


 これから収穫したお米を使って料理の開発が始まる。そう思うと心が躍る。いよいよ念願のお米が食べられるんだ……!


 だけど、まだまだ問題はある。お米を収穫できるのはいいけど、お米に合うのは何と言っても和食。


 一応前世の世界でも、ピラフとかリゾットとかパエリアとかビリヤニとかガパオライスとか、海外の米料理もあった。でもあれって、ジャバニカ米とかインディカ米と呼ばれる品種だ。


 私が育てたジャポニカ米とは味も香りも粘り気も異なる。ジャポニカ米に合うのはやっぱり和食だ。


 でも生憎、エラルド王国には味噌や醤油が存在しない。どちらの作り方も一応知ってはいるけれど、私が知るやり方だと作る際には『麹』がいる。


 麹はお米から作る。つまりお米がない限り、この二つを作ることはできない。



「まだまだ課題は山積みね……」



 だけど私は諦めない。たとえ味噌や醤油がなくても、お米を簡単においしく食べる方法を知っているから。


 お米を簡単かつおいしく食べる方法……そう、“アレ”だ。日本人なら誰もが知っている“アレ”。コンビニに行けば必ず並んでいる“アレ”。


 お弁当の定番。専門店すら存在していた人気の携行食料。大人から子供までみんな大好きな料理。


 ……そう、おにぎり! 味噌や醤油がなくても、お米と塩さえあれば塩むすびを作れる。


 それに前にラウル様と一緒に町へ行った時、市場で輸入食品や調味料を売っているのを見た記憶がある。


 ブルーフォレスト領は交易が盛んな土地だから、祝日の市場では国外の食材や調味料が売られていることもある。


 輸入品のスパイスや胡椒と一緒に、胡麻が売られていたのを私は確かに見た。


 おにぎりには、あえて海苔を巻かずに胡麻をまぶすという技もある。ブルーフォレスト領で今から海苔を作るのは難しい。


 よし、決めた。胡麻と塩でおにぎりを作ろう。お米の乾燥が終わるまでの間に、おにぎりを作るのに必要な材料を集めておこう。


 そうと決まれば、さっそく明日から行動を開始しよう。目標は二週間後。お米の収穫から乾燥までの二週間以内に、おにぎり作りに必要な食材や調味料を揃えておきましょう。



「あのー、ラウル様」


「ん? どうしたエルシー?」


「実は折り入ってお願いが……」


「何だろうか?」



 私はラウル様に、あるお願いをする。すると彼は快く承諾してくれた。



「分かった。そういうことなら任せておけ」


「ありがとうございます! よろしくお願いします!」



 よし、ラウル様や皆においしいお米料理を食べてもらう為にも、明日からも頑張らないとね!

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