第19話 お砂糖を作ろう
ブルーフォレスト領の屋敷で田んぼと畑の様子を見ながら過ごす日々。
初夏が過ぎて夏が来る。
田植えが終わっても田んぼの手入れは終わらない。
苗の育ち具合を見て、水を抜いたり増やしたり。
雑草が生えていたら、すぐに駆除する。
苗が病気にかからないように細心の注意を払ってお世話をする。
私は毎日、田んぼの様子を見て過ごした。
もちろん田んぼにばかりかまけているわけじゃない。
芋や大豆を利用した料理・加工品の研究。
普及の為に商会へ赴いたり、農民たちに効率的な農作業を教えたり。
「ブルーフォレスト領で栽培できる作物の一つ、ビートからはお砂糖が取れますわ。さあ皆さん、やってみましょう」
私は農民の皆さんを村の共同台所に集めて、ビーツ糖の作り方を説明する。
手順は簡単。
ビートを細かく刻んでお湯に入れて一時間以上さらす。
するとお湯に「糖液」と呼ばれるお砂糖の元が抽出される。
ビートを取り出して糖液を煮詰める。アクを取りながら煮詰め、水分を蒸発させて濃縮させる。
すると次第に糖液が固まり始めてくる。固まり始めた糖液をお皿に移し、完全に固まったのを確認したら細かく砕く。
これで茶色いお砂糖「ビート糖」の完成だ。
「あ……甘い!」
「これはいいですね、とても美味しいですよ!」
村で働く皆さんはビート糖を試食してその甘さに感動する。
やっぱり砂糖のありがたみってすごいわよね。
農家さんの中には、今年からぜひ栽培したいと熱望する人すら現れたほどだ。
ビートの栽培面積を増やすことが出来れば……これは大きな産業になる。楽しみだわ……!
ビート糖を生成したという話は、その日のうちにラウル様にも伝えた。
するとラウル様は、とても喜んでくれた。
「砂糖は国内外で需要が高い嗜好品の一つだ。ビートから砂糖を生成できたとなると、その価値は大きいぞ。これはブルーフォレスト領の特産品になるかもしれないな! 問題は味の方だが……」
「はい。ビート糖を用いたお菓子を作りましたので、ご賞味ください」
その日の夕食後、私はさっそくラウル様にビート糖を使ったデザートを出す。
「どうぞ、ラウル様。ビート糖と豆乳を使用した『豆乳レアチーズケーキ』です」
「……これは美味しそうだ」
ラウル様の前のテーブルに豆乳とクリームチーズ、ビート糖とレモンで作ったレアチーズケーキが差し出される。
豆腐を作る工程で生まれる豆乳やおからは、ダイエットスイーツに使用させてもらっている。
普段はよりカロリーを控える為に、甘味はハチミツを使用させてもらっているけど、今日は特別だ。
ラウル様ご本人にビート糖の出来栄えを味わってもらいたい。
「いただきます」
豆乳レアチーズケーキをフォークで切り分けて口に運ぶ。
口に入れた瞬間、ラウル様の頬が綻んだ。
まるで初めて甘味を食べた子供みたいに、ラウル様は笑顔を浮かべる。
そして一口飲み込むと、感嘆の声を上げた。
「これは美味だ。豆乳のコクに、レモン汁とレアチーズケーキの酸味がよく合っている」
「ありがとうございます」
「そしてビート糖の甘味も絶妙だ。さっぱりとした味の中に甘さが濃縮されていて、とても深い味わいだ」
その後もラウル様はフォークを動かす手を止めない。
あっという間に皿を空にして、満足気な表情を浮かべている。
こんなにおいしく食べてくれるなんて嬉しいわ……私も作った甲斐があったというもの。
「いかがでしょうか、ラウル様?」
「うん。明日にでも商会長にビート糖を売り込む。それだけではなく、宣伝も大々的に行わせよう。そうすれば、ブルーフォレスト領の特産品として多くの者に売り込むことが出来る」
「そうしていただけると助かりますわ」
ビートの作付面積をもっと増やすことが出来たら、多くの人にブルーフォレスト産ビートの美味しさを知ってもらえると思う。
そうすれば、もっとたくさんの人に買ってもらえる。
そうすれば、農業が儲かるということでブルーフォレスト領の農業が盛んになる。
そうすれば、結果的に米作りに動員できる農民の数も増える。
つまり私の野望である、ブルーフォレスト領に黄金の稲畑を作るという私の夢も実現に近付くというもの。
「ブルーフォレスト領の農業は、もっと豊かになるのだな」
「ええ、必ずやそうなります」
私の言葉を聞くと、ラウル様は嬉しそうに微笑んだ。
そんなラウル様の笑顔に釣られて、私もつい笑顔が零れた。
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