第三章

第20話 王都からの誘い

 盛夏が終わり、晩夏。


 そろそろ秋の訪れの気配を感じ始める頃。


 この頃になるとラウル様は、痩せすぎず太りすぎずの良い体型になってきた。


 身長は百八十センチ超の高身長のまま、豊かな金髪と青い瞳が美しい、色白で肌理の細かい美青年。


 それが今のラウル・ブルーフォレスト様だ。


 街を歩けば、以前とは違った意味で注目を浴びる。



「見て、ラウル様よ。……なんてお美しいのかしら」


「おとぎ話に出てくる王子様みたいだわ……」


「お隣にいらっしゃるのは、未来の奥様のエルシー様ね」


「エルシー様のおかげでラウル様は痩せてお美しくなられたのよね」


「それに画期的な方法でブルーフォレスト領の特産品を次々と増やしてくださっているとか……」


「なんて聡明で素敵な奥様なのかしら」


「ラウル様とエルシー様、辺境伯ご夫妻がいらっしゃればブルーフォレスト領は安泰ね」



 街ですれ違う人々は皆、私たちを羨望の眼差しで見ている。


 そして私がラウル様の隣にいることに納得してくれている。


 自分がブルーフォレスト領の人々に受け入れられていることが伝わってきて、心の底から嬉しかった。



「ラウル様、秋の結婚披露パーティーには領民の皆様もお招きしましょうね」


「そうだな、エルシー。結婚式は教会で行うが、その後の披露パーティーは屋敷の庭園で行おう。領民たちが気兼ねなく参加できるようにな」



 微笑み合う私たちは、街の視察を終えてお屋敷に戻る。


 すると執事のエリオットさんがラウル様を待ち構えていた。



「ラウル様、エルシー様、おかえりなさいませ。ラウル様に王宮よりお手紙が届いております」


「王宮から?」


「はい。王家の紋章が刻印されているので、王室からで間違いないでしょう」


「王室からか……そういえば、もうすぐ国王陛下の生誕祭の時期だな。その招待状だろう」



 ラウル様が手紙の封を切る。


 中身を確認すると、予想した通り国王陛下生誕祭の招待状だった。


 招かれたのはブルーフォレスト辺境伯であるラウル様と、その妻になる私、エルシー・スカーレット。



「陛下の生誕祭には毎年参加しているが、今年はエルシーとの婚約を披露する意味も込めて、特に気合を入れないとな」


「私もラウル様の婚約者として恥ずかしくないよう、しっかりとおめかしいたします!」


「エルシーなら大丈夫だよ。きっと誰よりも美しくなれるさ」



 ラウル様にそう言ってもらえれば、私も自信が持てるというもの。


 招待状に同封されている祭りの招待状を眺めながら、私は思いを馳せる。


 王都……久しぶりね。


 この世界での実家であるスカーレット男爵家は、王都に近い場所にあった。


 だから王都には何度か足を運んだことがある。


 懐かしいわね……。


 王都の風景を思い出しながら、私はスカーレット男爵家のことも思い出す。


 そういえば、叔父様やダニーたちはどうしているかしら?


 こっちに来てからも何度か手紙を出してはみたけど、返事は一度も来ていない。


 あの人たちにとって、私は邪魔者に過ぎなかった。


 そんなことは分かっていたけど、実際一度も手紙が返ってこないとなると、さすがに少し寂しいわね……。



「エルシー、どうした?」


「あ……いえ、少し実家のことを思い出しておりまして……」


「実家というと、スカーレット家か。……そういえばエリオットの話では、君がこちらに来てから一度もスカーレット家からの手紙が届いていないそうだな。君からスカーレット家への手紙は、何度も出しているというのに」


「ええ……でも、もういいんです。今の私にとって、ブルーフォレスト家が本当の家ですもの」


「……そうか」



 ラウル様は私の言葉に頷くと、優しく私の頭を撫でてくれた。


 そしてエリオットさんに視線を向けると、ラウル様は命令する。



「国王陛下の生誕祭は今月末だ。ただちに準備を進めてくれ」


「はっ、ラウル様。……去年まで来ていた衣装はサイズが合わなくなりましたので、新調しなくてはなりませんね」


「む、そうだな。一緒にエルシーのドレスとアクセサリーも仕立てさせよう」


「かしこまりました。ではそのように手配いたします」



 エリオットさんは一礼すると、準備のために部屋を出て行った。


 ……ブルーフォレスト家に来られた私は、本当に幸せ者ね。


 ラウル様は素晴らしいお方で、領民から慕われていて、そして優秀な家臣の皆様に囲まれている。


 みんな私のことを認めてくれていて、誰一人として私を蔑んだりしない。


 そんな皆さんに囲まれて過ごす私は、とても恵まれた環境にいるわ。


 ラウル様に嫁ぐことが出来て本当に良かった。


 ……そういえば最初は、私ではなく従妹のダニーに来た縁談だったのよね。


 ダニーは元気にしているかしら?


 あの子は私を敵視しているようだったけど、それでも今の私にとっては血を分けた従妹。


 元気にしている姿が見られたら良いのだけど……。

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