第15話 豆腐を作ろう②
翌朝。朝食を終えた私は真っ先に厨房へと向かう。
もちろんお豆腐作りのためだ。レノアさんとリリにも引き続き手伝ってもらうことになっている。
朝食の後片付けが終わると、私たちは早速作業に入る。
「まず、一晩水につけた大豆を細かく砕いてドロドロになるまで混ぜるわ」
ほんとはフードプロセッサーかミキサーがあればいいんだけど、あいにくこの世界には手動のものしか存在しない。
レノアさんとリリに手伝ってもらい、大豆が滑らかなクリーム状になるまでかき混ぜる。
「次は、鍋にお湯を沸かして大豆を入れるわ」
「かしこまりました」
鍋に水五カップ分を入れてお湯を沸かし、大豆ペーストを入れて強火でかき混ぜる。
浮いて出た泡を取り除きながらかき混ぜること十分弱。
「わあ、なんだかいい匂いがしますねえ」
「ええ、これがお豆腐の匂いよ」
泡がなくなり、匂いが豆腐らしくなってきたら火から外す。
そして濾し布をザルに置いて、熱した豆腐ペーストを入れる。
熱が冷めてから濾し布を絞ると、ボウルに豆乳が抽出される。
一方、濾し布にはおからが残る。うん、こっちも他の料理に使えるわね。
「こっちが豆乳、こっちがおから。どっちもこのまま食べることもできるわ。だけど今回の目的は豆腐作りだから、次の工程に入りましょう」
「はい」
絞った豆乳を再度温めながら、水と海水塩を少しずつ加えていく。
全体に行き渡るように入れて、分離していないのを確認したら、蓋をして十分ほど置く。
「次はいよいよ昨日作った豆腐箱の出番よ。箱に絹の布を敷いて、その上に鍋の中にある豆腐の固まりを入れていくの」
表面を平らにして、軽く押して固める。
豆腐箱の底はあえて隙間が空くようにしておいた。そこから水分を逃がすためだ。
後はしばらく放置して、十分に水が抜けたらお豆腐の完成だ。
ボウルに張った水に、お豆腐を入れて冷ます。
水の中に滑らかな、つるんとしたお豆腐が浮かぶ。
艶々していて、見るからに美味しそうだわ。
「わあ、プルプルしていて美味しそうですね!」
「これが豆腐ですか……?」
怪訝そうに首を傾げるレノアさんとリリ。
「ええ、そうよ。早速味見をしてみましょう。……いただきます」
お箸がないのでスプーンで掬って食べる。ああ、プルンとした食感と豆の風味。
……うん、おいしい! これならラウル様も、きっと喜んでくれるわよね。
「これがトーフですか! 大豆がこんな風になるんですね」
「ええ、クリーミーでおいしいでしょう?」
「はい、驚きました!」
リリもレノアさんも感動しきりだ。ふふ、やっぱりお豆腐はいいものね。
おいしい上に栄養豊富でカロリーも低い。
このまま食べてもいいけど、豆腐ハンバーグや豆腐ステーキにしてもおいしく食べられるわ。
でも、私の野望はこれだけでは終わらない。
もっと量産して、ラウル様にダイエットしてもらわないとね。
「……あ、そうだわ。ラウル様にもダイエットの同意を貰わないと」
「ダイエット?」
「痩せてもらうという意味よ」
「痩せる……ですか。果たして旦那様は聞いてくださるでしょうか……?」
「そこは説得次第だと思うわ」
それから私はラウル様の仕事が終わるのを待つ。
今日はお屋敷で仕事をしている。夕方になるとエリオットさんが書斎のラウル様に声をかけに行く。
エリオットさんが出てきたら、今日の仕事が終わった合図だ。
そのタイミングを見計らって、私はエリオットさんと入れ替わりにラウル様の書斎に入った。
「どうした、エルシー?」
「はい。実はラウル様にお願いしたいことがございまして」
「なんだ? 君の頼みなら極力聞くぞ」
ラウル様は相好を崩す。
親しみのこもった眼差しに、柔和な雰囲気。
どうやら私はラウル様から信頼を得られているみたいだと確信する。
……でも、だからといってダイエットの提案が聞き入れてもらえるかどうかは別問題。
私は小さく深呼吸をすると、口を開いた。
「ラウル様に、体重を減らしていただきたいのです」
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