第14話 豆腐を作ろう①

 翌日。私は朝早くから農村に足を運び、農家の人に頼み事をする。



「はあ、飼料用の大豆を分けてほしい……ですか?」


「お願いします。タダでとはいいません、私のアクセサリーやドレスを差し上げます」



 スカーレット家から嫁入り道具の一環として持ち込んできた宝石やドレスを見せる。


 ブルーフォレスト領の宝石ほど立派じゃないけど、それでも価値はある筈。


 でも農家の皆さんは恐縮して受け取ってくれなかった。



「い、いえいえ、そんな、滅相もありません! 私どもが領主様の奥方様から、そのようなものをいただくなど……!」


「そうですよ! どうせ昨年の豊作で豆は余っているんです。どうぞお好きなだけ持っていってください!」


「ありがとう。でもタダではダメよ。適正価格で買い取らせていただくわ」



 交渉の結果、大豆を適正価格で買い取らせてもらう。


 これで準備は整ったわ。私は大豆を抱えて領主館に戻ると、さっそく厨房に入る。



「さあ、豆腐作りを始めましょう!」



 その言葉を聞いてメイド長のレノアと、私の専属メイドのリリが首を傾げる。



「トーフ? トーフとはなんでしょう」


「豆腐は大豆を原料にした食べ物よ。とってもヘルシーでタンパク質が豊富なの。減量食に最適なのよ」


「はあ、減量食……。しかし大豆を原料にとは、また変わったものを」


「確かに栄養価は高いでしょうけれど……」



 二人ともいまいちピンと来ていないようだ。


 それも当然よね、ブルーフォレスト領では家畜の飼料として使うくらいだもの。


 しかもそれはブルーフォレスト領だけじゃない。エラルド王国全体がそうだ。


 でもお豆腐は栄養豊富だし、健康的でとてもおいしい食べ物だ。前世が日本人だった私はよく知っている。


 ヘルシーでおいしいなんて最高じゃない。


 これならラウル様に無理なくダイエットしていただけるわ。



「それで、そのトーフとやらはどうやって作るのですか?」


「ええ、リリ。まずは材料を用意しましょう。食材は大豆と海水塩、これだけよ」


「大豆はわかりますが、海水塩?」



 ブルーフォレスト領に海はないから、海水塩は他の地方から取り寄せている。


 たまに鉱山で岩塩などが産出されることはあるけれど、海水塩はまったく採れない。


 幸いにしてラウル様は王都にもツテがあるから、定期的に海水塩を取り寄せている。


 この厨房にも置いてあるから、使わせてもらおう。


 なぜなら、豆腐作りには『にがり』が欠かせないからだ。


 にがりがない場合、塩化マグネシウム含有量の高い海水塩が代用品になる。



「大豆と塩を用意して……。まずは大豆をよく洗って、水に一晩つけておくわ。今のうちに他の作業をしておきましょう」


「というと?」


「お豆腐の形成にはこれぐらいのサイズの箱が必要なの」



 口だけだと分かりにくいだろうから、絵に描いて説明する。


 すると、レノアさんとリリは目を丸くした。



「エルシー様……絵画が苦手だったのですね」


「ほ、放っておいてちょうだい! とにかくイメージさえ掴んでもらえれば十分だから!」


「なるほど……両手で抱えられるサイズの木箱に、内側にすっぽり嵌るタイプの蓋ですね。かしこまりました」


「材料は庭師さんに頼んで分けてもらうといいですよ! 道具も一緒に頼んできます!」



 リリが厨房を飛び出していく。本当に優秀なメイドだ。


 私とレノアさんも後に続く。庭師さんから材料と道具を貸してもらい、さっそく木箱作りを始めた。


 カンカンカン。……あ、ちょっと失敗しちゃった。


 でも大丈夫。慌てず焦らず対処すればリカバリーが効くわ。



「ふう、なんとか作れたわね」



 一時間後。私の前には、豆腐形成用の木箱と蓋が完成していた。


 ちょっと不格好だけど、豆腐箱は多少の隙間や歪みがあっても大丈夫だわ。



「今日の作業はここまでよ。明日になったら大豆を水から出して豆腐作りを始めるわ」


「かしこまりました」


「楽しみです!」



 そんな会話をしながら、領主館の中へと帰る。


 さて、明日は忙しくなるわよ!

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