第13話 ダイエットをしてもらおう

 昼食を終えたラウル様は、鉱山の視察に向かった。


 私はウィルソン商会に残って、ウィルソンさんにお茶を淹れてもらう。



「ありがとうございます。……この紅茶、とってもおいしいです」


「お口に合ったようで何よりです。南方から仕入れた茶葉でございます」



 北国であるブルーフォレスト領は、寒冷地なので茶葉の栽培には適さない。


 だから南から輸入した茶葉を主に使っている。ウィルソンさんはその中でも、わざわざ最高級の茶葉を用意してくれた。


 理知的で紳士的なウィルソンさんは、給仕の様子も様になっている。



「とても芳醇な香りと味わいです。これほどの高級品をいただけるなんて、恐縮です」


「お気になさらないでください。エルシー様は、ラウル様の奥方様になられるお方。最高のおもてなしをするのは当然の義務ですよ」


「ラウル様は慕われているのですね」


「ええ。ラウル様は立派な領主様です。私どものような商人が手広く仕事できるのも、ブルーフォレスト家の後ろ盾があるからです。私たち商会はラウル様とブルーフォレスト家に返しきれない恩義があるのですよ」


「そうなのですね」


「ぜひ健康に長生きしていただきたいのですが、あの体型では……」



 と、言ったところでウィルソンさんは言葉を濁す。


 ……そうね、確かにそうだわ。


 私はラウル様のあの体型が好きだけど、あんなに太っているのは健康に悪い。


 今はまだ若いからいいけど、年を取ったら体のあちこちにガタが出てきてしまいそう……。



「私もラウル様には、健康で長生きしてほしいですわ。早くから未亡人になるのは嫌ですもの」


「……ええ、本当に。ところで、この鉱山で採れる宝石のことなのですが――」



 私とウィルソンさんはお茶をしながら、仲良く談笑するのだった。


 視察を終えたラウル様と私は一緒に馬車に揺られ、ブルーフォレスト家に帰る。



「とても有意義な時間でした。ありがとうございました」


「そう言ってもらえると嬉しい。そうだ、俺の方こそ礼を言わなければならないな」


「お礼ですか?」


「今日の弁当もおいしかった。わざわざ届けてくれてありがとう、エルシー」


「ラウル様……」



 そう言って笑うラウル様の笑顔は、とても優しくて癒される。


 やっぱり私はこの人に長生きしてほしいわ。


 こんなに大勢から慕われるいい人なんだもの。絶対に長生きしてもらわないと。



(旦那様の健康管理は妻である私の務めよね……でも、どうやったらダイエットしてもらえるかしら?)



 できれば厳しすぎるダイエットは控えたい。ただでさえ多忙で責任もあるラウル様に、きつい節制をさせてしまうのは可哀想だもの。



(そうだわ、“アレ”を使いましょう!)



 その時、私の脳裏に天啓が閃いた。


 そうよ、そうだわ!


 この土地で育てられているアレを使えば、きっとラウル様も自然に痩せていく筈だわ!

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