第三章 異世界の貴族様とそれぞれの思惑
第036話 『アルベロベッロ』
そんな暇だったような、そうでもなかったような半月を過ごした俺たち。
集団行動時の葵ちゃんのリーダーシップを見せつけられ、自分の足りない部分に落ち込むやら感心するやら。年下の女上司……とても良いモノである!
「えっと、これからローラさんをご領地まで送り届けることになるんだけど……リアちゃんはどうするか決めたかな?」
「はい!いえ、決めたも何もなく最初の予定通り、あなたにこの身を任せて付いていくだけですけどね?」
「付いてくるのはいいですけど身を任せるのは了承できません!そもそもリアさんは甘えすぎです!年頃の男女が頻繁に添い寝をするのはどうかと思います!」
「だってわたし……これまでひとりぼっちでしたし……もう誰も……お兄ちゃん以外に身内もいませんし……寂しいんです……」
「私は水玄さんみたいにそんな小芝居では騙されませんからね?あと水玄さん!『お兄ちゃん』って呼ばれただけで貴方の表情筋が緩むのがとても気持ち悪いです!」
「チッ!」
「チッ!」
「なんですかその息の揃った舌打ちは!」
まぁリアちゃんとじゃれる姿は年齢相応の女の子なんだけどね?
仲がいいのか悪いのかイマイチよく分からない二人である。
「てか、俺たちと一緒に来るとして……このお屋敷はどうするつもりなのかな?ここってクレオお婆さんとの思い出のお家だよね?」
「とくにこれといって良い思い出はありませんけど……残していってこの村の人達にいいように使われるかと思うとハラワタが煮えくり返る、むしろ引き千切られるかと思うほど悔しいです!」
「悔しいのはわかるけど今のリアちゃん、女の子がしちゃいけない酸っぱい表情になってるからね?」
「これはもう……屋敷ごと、むしろ辺り一面、いっそ村ごと燃やしてしまうのはどうでしょうか?」
「ふふっ、それはつまり私の火魔法の出番ということですね!」
「『どうでしょうか?』じゃねぇよ……あと葵ちゃんも乗っかるんじゃなくて止めてね?まぁそこまで思い詰めてるなら俺が取り壊しちゃうけどさ。資材も手に入るし」
てことで家具その他全てを(葵ちゃんが)回収の上で俺が屋敷を解体することに。
……結局夕方くらいまでかかったのでその日は更地で野宿、出発は翌日の早朝というちょっとおバカな旅立ちとなった。
てか、村を出ていく時の村人の恨めしそうな顔といったらもうね。
原因の半分はローラさんたちが変に餌付けをしたことによる『これからわしらはどうやって食っていけば良いんだ?』という非常に図々しい考え。知らんわ、働け。
そしてもう半分はリアちゃんが出ていくことによる『これからわしらは病気になったら誰が薬を作るんだ?』という無医村で医者をいびり倒した挙げ句に追い出した後の○○○○の戯言だな。
個人的には『勝手にシね』がベストアンサーだと思っている。
まぁこんな二度と訪れることのない村のことは記憶の片隅に押しやるとして、ローラさんの実家までの旅程。
馬の足で八日間という結構な距離の旅になったが、道沿いに、それなりに村が点在していたので野宿をすることはなかった。
てか、どこもここも最初に訪れた村とそれほど代わり映えのしない『これ、治めていてもちゃんとした税は取れないだろ?』って感じの寒村ばっかりだったんだけどね?
葵ちゃんが『畑の土が痩せきってますしたぶん連作障害とか知らないんでしょうねぇ』ってボソッと呟いたのをローラさんが耳にして詳しく話を聞きたそうにしてたけど、とくに説明することもなくスルーしていた。
リアちゃんに対するソレと比べると、ローラさんや騎士様に対しては一定以上の距離を取ってるんだよね、葵ちゃん。
それなりに広くなった街道をお馬さんに合わせて安全運転すぎる速度で、トラックで走ることしばし、ローラさんのお父上である『トリヒータヴィンデ子爵様』が治める領都に到着である!
とくに何も言ってなかったけど道中で魔物に襲われたり、山賊に襲われたりはしなかったのかって?
荒れ地からサバンナを抜けて人が住んでる地域に入ってから、魔物はほとんど見てないんだよな。
山賊は……どうなんだろう?マップ上ではそれらしいのは見つけられなかったけど。
そもそも作物もマトモに採れなさそうな寒村しかない地域で山賊家業とかデメリットしかなさそうじゃない?
まぁ他の地域であっても騎士様が六人で護衛している、おかしな乗り物(4トントラック)で移動する集団だから襲われることはないような気もするけど。
そのへんも一応旅に出てすぐに確認しておいたんだけどね?
貴族様が治める領地だから、街道沿いを昼間に移動するならそれほどの危険はないらしい……とはナターリエ嬢の言である。
最初の村がアレだったから街道での移動中より村落で宿泊する時の方が気が休まらなかったんだよなぁ……。
どこの村にも数人は『赤枠アイコン』の人間がいたしさ。
もちろん害を及ぼしてくることはなかったので無視したけど。
さて、そんな田舎の話はどうでもいいとして!
俺にとっても、葵ちゃんにとっても、この惑星(いせかい)に来て初めての大きな街である!
物珍しさに車から降りて街を見つめる俺たちの、その第一印象はと言えば、
「なんといいますか……もっとこう、石造りの立派な城壁に街全体が囲まれてる城塞都市みたいなのを想像していたんですけど……地味ですね」
「ふっ、治めている村々が『アレ』だったからな。俺はそれほど期待してなかったよ?」
「えらい言われようだな!?地方の子爵領なんてどこもこんなモノだぞ?城壁なんて築けるのはよほど交易などで税収がある豊かな街だけ、そしてそんな街をたかだか子爵が任されるはずもないからな」
「小さかった時に見た時も思いましたけど、山?丘?にそって貴族様のお家が建てられてますので、ちょっとした地揺れが起これば、いえ、起こらなくとも悪夢魔みたいな大きな化け物が暴れたりしたら一瞬で地すべりで麓の街もろとも全滅しそうですね!」
「え、縁起の悪いことを言うんじゃない!私の屋敷は西の中腹にあるんだからな!」
トラックの荷台に乗っていたリアちゃんとローラさん、騎馬で先導していたナターリエ嬢も集まり街の感想を好き勝手に言い合う。
騎士様たちのルックスから、なんとなく『ヨーロッパっぽい明るい屋根の色をした大都市』を勝手に想像してたんだけど……葵ちゃんの第一印象の通り、街の見た目がすごく地味なんだよなぁ。
白い壁!地中海!異国情緒!みたいなのが無いんだよ。
もっとこう、『アルベロベッロ』みたいな雰囲気が欲しかった。
もちろん行ったことは無いんだけどね?アルベロベッロ。
ただ言いたかっただけだし、アルベロベッロ。
この街を例えるなら……欧州の街じゃなく中東の地方都市って感じかな?
荒れ地ってほどじゃないけど緑が豊富って感じでもない、埃っぽい街。
それに人口もそれほど多くなさそう?全体が見渡せてるわけじゃないからハッキリとはわからないけど、低い方の数万人くらいか。
まぁ言われた通り子爵領だもんね?こんなものなんだろう、たぶん、知らんけど。
もちろん人口百人居るかどうかの農村とは比べ物にならないほどの大都会ではあるんだけどね?
何かの役にたってるのか、たってないのか不明な道沿いにポツンと設えられた門を全員でくぐる。
兵隊さんがアテンション(気をつけ)の状態で胸に腕を当ててたんだけど、あれがこの国の『敬礼』なのだろうか?
とくに偉いさんと会う予定とか無い……こともないな。
一応は娘さんの命の恩人なわけだし、キッチリと報酬も貰わないといけないし。
面倒だけど後でナターリエ嬢にでも最低限の挨拶の仕方とか教えてもらっておかないと恥をかくかもな。
街なかに入ってもとくに石畳が敷かれているというようなこともなく、馬が走るだけでも土煙の舞い上がる舗装されていない、踏み固められただけの道をトラックでそのまま進む俺御一行。
うん、街の人達に『なんだあれは?』って顔でむっちゃ見られてる。
(ローラさんと騎士様はこれからご領主様にご報告ですよね?その間、むしろ代金のお支払いの決定まで俺たちはどこでどうしてればいいです?)
(うん?いや、普通にお前たちも一緒に連れて行こうと思っているのだが?服装にしてもとくに礼を失した格好でも無いからな)
(いやいやいや、さすがに平民がいきなり貴族様のお屋敷に押しかけるとかおかしいでしょう……そもそも今日お目通りを願ったところでいつになるかわからないのでは?)
(ヒカルは妙なことに詳しいのだな?確かに王宮、国王陛下や上級貴族の方々にお会いするならちゃんと先触れを数日前には出してお伺いを立てなければならないがな?地方領主、それもその娘を介しての面会なのだ。待たされるとしても数十分、どんなに長くとも一刻くらいのものだ)
車で移動中ではあるが、ふと気になったので荷台のローラさんと念話でお話。
なるほど、思ったよりもフットワークが軽いのか子爵様。いや、本人が言うようにご令嬢を介してるからだろうけどさ。
何にしても面倒な話をとっとと終わらせられるのなら俺にも葵ちゃんにも否やは無いわけで。
てかお屋敷はやっぱりあの小高い丘のてっぺんなのかな?絶対にトラックは通れないよね?徒歩で登っていくのはそこそこ疲れそうなんだけど……。
防衛の為もあるのだろう、そこそこ曲がりくねってはいるがそれなりの広さはあった街の道を抜けた後はトラックから降り、こちらも曲がりくねった丘の道を気合で登り……やっと到着したのは重厚な石造りの館。
城ってほどの大きさはないけど道を塞いでしまい、窓の少ない他の貴族(騎士?)の屋敷を砦と城壁代わりに使えば攻めるのに結構な人手がかかりそうではある。
入り口でローラさんたちと分かれて葵ちゃん、リアちゃんと三人で待合部屋の様なところに通されたけど、
「普通に八畳間くらいの広さだな。特に高級な家具が置かれてるわけでなし、高そうな絨毯が敷かれてるわけでなし」
「あなたは他所様のおうちにお呼ばれしたら貶さないと死ぬ病気なんですかね?」
と、リアちゃんに半目で睨まれた。確かにリアちゃんのお家の第一印象は『臭い』だったけれども!てか、やな病気だなそれ……。
だってさ、初めての、それこそ日本で暮らしてた時は考えもしなかったお貴族様のお屋敷にお呼ばれだよ?
もっとこうバッキンガムとかベルサイユとか皇居とかそう言うのを想像しちゃうじゃん?
「たぶんだけど葵ちゃんのお家の応接間のほうが偉そうなんじゃない?」
「……まぁ、否定はしませんけど」
「えっ?アオイさんっていいとこの子なんですか?」
関西人としては『誰がエテコの子やねん!』とボケるべきかもしれないがリアちゃんに通じるはずもないのでそのまま流すことに。
三人でああだこうだと『他所様のお宅論評』をしながらダラダラ過ごしていると、扉をコンコンと叩くノック音。
その後に入ってくるのはもちろん(?)メイドさん。と、言うか使用人のおば……お姉さんだな。
どうやらお茶とお菓子らしきものを持ってきてくれたみたいだ。
これ幸いと土埃でいがらっぽくなった気がする喉にお茶を流し込む俺。
「ふぅ……お茶は紅茶、いや、出がらしで味の薄い烏龍茶?入れ物は磁器じゃなく素朴な焼き物って感じで良くいえば落ち着く雰囲気?なんかコップの埴輪みてぇ」
「出してもらったものに言いたい放題ですね……お茶のカップだけということは、この国ではミルクや砂糖を使うのは一般的ではないのでしょうか?薄いわりに雑味が多すぎます」
「アオイさんも大概じゃないですか……えっと、この薄いのは焼き菓子ですかね?出されているということはいただいても大丈夫なんですよね?……粉の風味がダイレクトに伝わってくるほどパッサパサ、喉に張り付いて呼吸が苦しくなりそうなほどにパッサパサですよこれ」
俺もアレだけど全員お貴族様の屋敷で出されたものに対する物言いが酷すぎだと思いました。
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