第035話 『因果応報』ってあると思うんだ。

悪魔が暴れ回った……ってほど被害は出てないな。五分くらいで死んだし。

まぁ、そんな出オチ感半端なかったデカいやつを退治した次の日の朝だな。

前の日の疲れからか、体、とくに左腕に重みを感じながら起床した俺。


「……いえ、貴方の左腕が重いのはロリババアに請われるままイヤラシく鼻を伸ばした顔になって腕枕をしたまま寝たからだと思うんですけどね?寝息をたててから五分後には抱きまくらのように抱きついていたみたいですけどさぞ素晴らしい寝起きなのでしょうね?」

「ロリババァはさすがに言いすぎだろ……いや、だってさ。小さい子に泣きそうな顔で舌っ足らずな喋り方で『お兄ちゃん……リアは一人で寝ると悪夢をみちゃいそうなので……今日だけ添い寝してもらえませんか?』とか言われたらさすがの俺でも断れないだろ?」

「リアさんは普段、貴方のことを『お兄ちゃん』なんて呼んでませんよね?それに舌っ足らずどころかハキハキした喋り方の子ですよね?小さい子どころか私より年上ですよね?」

「それはそれ。これはこれ?」

「貴方という人は……そもそも甘やかすならもっと尊重すべき相手がいるのではないですか?たとえば私とか!例えるなら百均で売っている桃のシロップ漬けみたに甘くてドロドロした感じで!サッカリンやアスパルテームのように!あの子に優しくしたならその数百倍私にも甘々になるべきだと思うんです!」

「それ絶対に体に害のある甘さだよね?」


相変わらず朝から面倒くさい葵ちゃんを適当にいなしつつ、いつも通り朝食をとる。

その後はまたまた全員で、またまたローラさんのお部屋に集まって、繰り返しになるけど昨晩のこと、悪夢魔登場から退場までの経緯を事細かに説明する。

細かく説明といっても『ドーンて感じで出てきた巨人を手持ちの武器でシュビーンと退治しました。あと○ン○ンがとてもデカかったです』とかいう頭の悪そうな話になっちゃうんだけどさ。


そんな呑気な感じの俺たちとは打って変わって慌ただしくなったのはこの村の村人たち。

いきなりの季節外れの大雨が降ったかと思えば地響きを立てて歩き回る何かが登場。身も心も凍りそうな悍ましいけたたまし程の大声の叫び声が聞こえたかと思えば奴が痛みに転がりのたうちでさらなる地響き。

恐怖耐性のまったくない村人ABCDな連中なんてそれだけでSAN値がピンチの意識不明だからね?

俺たちがこの村に来てすぐに感じた通りのあばら家だらけの寒村で。そんな地響きが起これば隙間風通りまくりの家なんて簡単に倒壊することは自然の摂理並みに当然の結果で……朝っぱらから動ける村の人間が騒がく右往左往。

入れ代わり立ち代わり、


「騎士様!どうかお助けください!家族が家の下敷きに!」

「リア!これまでどれだけ村でお前の世話をしてきたと思ってるんだ!とっとと怪我人の治療に出てこい!」

「何か食べるものを恵んではいただけませんでしょうか?蓄えがすべて倒れた家の下に埋まってしまい朝から何も口にしていません……」


などと、自分勝手なことを喚き散らしながら、とくに大きな被害のなかったリアちゃんの屋敷に押しかけてくるのも当然の結果なわけで。


外に出られないローラさんに代わりそれら人間の対応に出たナターリエ嬢が涙目になりながら『ヒカル、助けて……こんなの、私じゃどうすればいいのかわからない……』などと、いつもの騎士様然とした話し方を保てずに素で抱きついてきたり。

誰か助けてっ!弱った女騎士様の姿が俺の性癖に刺さりすぎるのっ!


もちろんこんな時にどうすればいいのかなんて大人の俺にはわかってるからねっ!

そう、震える彼女を落ち着ける為に優しくキスを……しようとしたらいきなり背後から後頭部を万力のような力で、


「葵ちゃん?頭蓋骨、俺の頭蓋骨が悲鳴をあげてる!」

「貴方はこのクソ忙しい時に何をしようとしてるんですか?」


能面のような顔をした女子高生に掴まれた。

てか、葵ちゃんがそのまま門の外まで(俺の頭を握って引きずりながら)出ていくと、大きな火の玉を空に向かって打ち上げ、爆発させたかと思うと、


「……ぎゃあぎゃあと騒がしい連中ですね。こんなところに集まってる暇があるなら各々で対応できることを探して対応しなさい!自分の都合が悪くなった時だけ他人に頼ろうとするな!必要があればこちらから追って沙汰しますのでとっとと散りなさい!」


真っ青になった村人たちは蜘蛛の子を散らすように転がりながら逃げていったよ。

うん、さすがは県内有数の進学校で生徒会副会長をしていた葵ちゃん、その威風堂々とした立ち姿はまさに『女帝』と呼ぶに相応しい。

あと、俺の頭を離してから行動してくれたら嬉しかったんだけどな?



「騒がしい連中は追い返しましたけど、何の説明もしなければまたそのうち集まると思いますよ?水玄さんのお話ですとローラさんの治療が完了するまで、まだしばらくはこのお屋敷から動けないということですので、これから村人に対してどういう対応をする予定なのかだけでも教えていただいてよろしいでしょうか?」


村人たちを追い返し、ホッとした表情の騎士様たちを再度ローラさんのお部屋に集めた葵ちゃんがそう切り出す。

どうするも何も、お互いの顔をキョロキョロと見渡す騎士様たちは何も考えてないと思うけど……それも仕方のない話なんだよな。だってさ、そもそも『ただ立ち寄っただけの村で伝説の悪魔が復活して退治された』なんていう、わけのわからない状況に追い込まれることなんてあると思わないじゃん?

そんな異常事態に対して、即座に何かを決断して行動できる人間なんてそうそういないと思うんだよなぁ。


「そ、そうは言われてもだな……我々だってまだ状況の把握すらできていないのだし……ひ、ヒカルはどうすればいいと思う?」

「この国とは無関係な俺に聞かれましても……昨日あったこと、悪夢魔が出てきたことと、その原因である村長と村人が今までにしてきたことを追求した上で責任は自分たちで取れとしか答えようがありませんが。あとリアちゃに対する連中の物言いにイラッとしてますので個人的な手伝いは一切しようとは思わないですね。リアちゃんはどう?」

「わ、わたしですか?わたしもお兄ちゃんと同意見ですかね。好きにしていいんでしたら普通に無視しちゃいますよ?村長一家に両親を殺された恨み、とても消えるようなモノじゃありませんからね?それ以外にも村の人たちには薬と食べ物の交換で散々足元を見られてましたし、子供の遊びでお家に石を投げ入れられたりしてましたので。アオイさんはどうでしょう?」

「貴女の水玄さんに対する『お兄ちゃん』呼び以外に気になる部分も言うべきこともとくにはないですね。いえ、そもそもの話、ローラさんにどこまでの権限があるかすら不明ですので助言のしようもないんですよね。早く怪我を直して然るべき方にご報告、指示を仰ぐしかないんじゃないですか?」


(……それが分かってて『どう対応するのか』って問い詰める葵ちゃんカッケェ!)

(べ、別に意地悪がしたかったとかじゃないですからね?ただ加害者寄りの人間が被害者であるかのように騒ぎまくる、それに対して何も言わない管理者に少しイラッとしただけで)


『某薬師の少女』がここぞとばかりにこれまでの、長年の仕返しをする姿を見て『いいぞ、もっとやれ!』と思うタイプの人間の俺ではあるが、ショボーンとするローラさんをあまり突き放しすぎるのはさすがに可哀想な気もする(多少の下心アリ)ので少しだけ助け舟をだすことに。


「まぁご領内の仕置きのお話ですので、細かいことを詰めるのはお連れの騎士様たちとお願いします。もちろん決定されたことで、俺にできることがありましたらご相談に乗りますのでお声がけください。俺にできることで『ちゃんとした報酬を頂けるならば』その時はお手伝いさせていただきますので。今回のことはきっと、お貴族様としての、領地経営の経験値になると思うので勉強だと思って頑張ってくださいね?」


と、『何様だお前は……』とツッコまれそうな助言をしておいた。



そこからおおよそ半月弱。

お昼にローラさんの怪我の治療をする以外の時間はとくにすることもないので、裏庭中庭庭には二羽~の空いた場所やリアちゃんが育てていた家庭菜園を耕し直したり、食材はあるけど、さすがにこの人数分で消費していると作り置きの料理に余裕がなくなってきたので竈門を作ったり、インムバスが踏み潰した建物――村長の家その他の建材その他を回収したりなどなどで毎日を過ごす。

村人の家の建て直し?そんなことしてやるわけねぇです。


もちろんローラさんからも相談は受けたんだけどね?

『怪我をした村人の治療をしてくれないか?』と『薬を分けてくれとリアに頼んでもらえないか?』と『余っている食料があれば分けてもらえないだろうか?』の三つ。


怪我の治療に関してはもちろんお断り。

それでなくともローラさんの治療に30個しかない『医薬品』の半分近くを使わなきゃいけないのに、これ以上の浪費なんて出来るはずがないからな。

『薬草』も『包帯(の材料の綿花)』もあるから作業台を作れば医薬品は用意できるけど、ここでしなきゃいけないことでもないからな。


次のリアちゃんの説得に関しては自分でしてもらいたい……って言ったらすでに『それはご命令ですか?もしご貴族様のご命令ならわたしみたいな平民には逆らえませんのでもちろん従いますけど……そうでないのならお断りいたします』ってすでに拒否されていたみたい。

もちろん本人の意見を覆してまでお願いするような義理もないのでこちらもお断り。


最後の『余っている食材』に関しては『ローラさんの買い取り』という形で提供を了承した。ジャガイモとトウモロコシ、とくにジャガイモに関しては大量に在庫があるからさ。

リアちゃんが目を見開いて『トウモコロシ……わたしの大切なトウモコロシ……』と呪いの文言のように唱えてたけど、裏の畑を耕し直して三日で実が成っていたのを見てから何も言わなくなった。

あと、『トウモコロシ』ではなく『トウモロコシ』な?


―・―・―・―・―


葵ちゃんの村人に対する対応が、東の村での『某ハリスくん』と被っているとか気にしてはいけない!


何故ならまだ、

『使い潰された勇者は二度目、いや、三度目の人生を自由に謳歌したいようです』

https://kakuyomu.jp/works/16816700427601950335(二巻絶賛発売中!)

を読んでいない方は気づいていないはずだからっ!(わかりやすいステマ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る