第033話 『漆黒の翼纏いし魔王』

頭の中に響く警告音、眼前にいきなり開くマップ画面、その中央に表示されているのは……通常アイコンよりもサイズの大きい、3×3グリッド幅がある『黒い巨大なナニカ』。なんぞコレ……。

デフォルメされた姿では、ソレがまったく何なのかわからないので肉眼で確認するため、土砂降りの中室内から外に飛び出し、リアちゃん家の庭に新しく建てた『物見櫓(と言う名の木の壁)』に設えた梯子を駆け上り、村を方向を睨みつける俺。

しかしてそこには……


「なんかものすげぇデカいのがいるんだけど……何だあれ……」

「見た目は『黒く塗りつぶしたエ○ァ量産型』って感じの何なんでしょう?……あれって生き物なんですよね?」

「なんていうかこう……尻尾ぽいけど尻尾ではなさそうな、地面を擦りそうなほど巨大なナニカをブラブラさせてますね……」

「ナニカというかナニなんだろうなぁ。さすがにアソコまでデカいのは羨ましくねぇな!」


ひょろ長い手足をした、目のない蛇のような顔をした巨大なナニカ。

足元の建物から比較するとおおよそ25m~30mくらいの身長だろうか?

真っ黒な身体の背中には漆黒の翼まで生やしている。

……てかさ、股間でブラブラしてる巨大な○ン○ンがそんな身体的特徴の一切合財を忘れちゃうほどの存在感を醸し出してるから、後日記憶に残ってるのは絶対に『○ン○ンデカかった!』だけだと思うんだけどね?


大雨、暗闇、邪悪な巨大生物……ホラーな空間、それもクトゥルフ的な雰囲気を漂わせておいて○ン○ン丸出しとか恐怖感のプラマイ0、むしろマイナスだわ。

てか、俺と一緒に走り出てきた葵ちゃんとリアちゃんが非常に教育に悪そうなそいつをガン見してるんだけど……少しは顔を赤らめるとかさ?もっと年頃のお嬢さんっぽい恥じらいを持って?


「アレって……ゆっくりとですけど、こっちに歩いてきてますよね」

「なんていうかこう……尻尾ではないナニカが少しずつ上向きになってきているような気がするんですけど……」


羽があるくせに飛ぶわけでもなく、ゆっくりと、一歩ずつ大地を踏みしめてこちらに向かって歩き、こちらに向かって来るそいつ。

平常運転の葵ちゃんに対して、こちらも平静を装ってはいるけど歯がカチカチと鳴っているリアちゃん

二人に挟まれるようにそいつを見る俺に出来ることは、射程圏内に入るまで引き付けた後、レーザーライフルを撃ち続けることだけなんだけどな!


ゆっくりと、進行先にある家も畑もすべてのものを踏み潰しながら近づいてくる巨人。

おおよそ1キロ先まで近づいてきたそいつ、目はないが視界は開けているのだろう、こちらを見つめてニヤリと口元を歪め……


『ギヤァァァァァァァァァァァァ!?!?!』


生きとし生けるもの全てを地獄に引きずり込むような、地響きをともなった凄まじい叫び声を上げた。

……まぁもしも俺が同じ立場だったとしても同じように叫んでたと思うけどね?


想像してもらいたい、スーパーの買い物袋(有料)の底に入れられ、帰り道の揺れと上に乗せられたお野菜の重みで、袋の中で粉々になった『そうめん』を。

そして、それが全部高速で○ン○ンに向かって飛んでくる光景を……。

てか、レーザーライフルの連射で急所を攻撃する比喩表現に粉々になったそうめんはおかしすぎではないだろうか?

大雨の中泥まみれになり、○ン○ンを押さえながら転がりまわるそいつに向かって連射は続くよいつまでも。

巨人の頭、身体、腕、足、羽、そして○ン○ンを超高速で発射されるレーザーの細長い光線が次々と貫き、全身を穴だらけにしていく……。


「……もう動かなくなりましたね?えっと、けっこう大仰な登場の仕方だったわりに弱すぎじゃありませんかね?アレ。そして同じ男性として貴方には罪悪感などはないのでしょうか?」

「さすがにアレと同じ生き物扱いされるのは不本意すぎるんだけど……そもそも急所丸出しで舐めプしてくる奴が悪いと思うんだよなぁ」

「ふ、二人して何を呑気なこと言ってるんです!?アレって伝説の悪夢魔ですよね?インムバスですよね?大昔、大国を滅ぼしたアレを退治するために、いろんな国から集められた勇者様たちが全滅するほどの被害を受けて封印しか出来なかったって伝わる恐怖の魔王ですよね?それがどうして手も足も出せないうちに、五分くらいで倒されてるんですか!?」

「手と足の代わりに○ン○ンは丸出しだったけどな!フッ、それはもちろん……俺がみんなを守り抜きたいという『愛の力』が強かったからだろ?」

「ただただ貴方の『遠距離攻撃』のレベルが高かったからだと思いますけど?」


身も蓋もないことを言うんじゃない!


いや、さすがにあの大きさ、その上『悪魔族(古代の魔王)』なんていう得体のしれない、生き物かどうかすら分からない相手だったからどうしようかと思ったんだけどさ。

もうね、こんな逃げられない場所に閉じこもろうとか言い出した馬鹿のことを心の中で散々罵ってやったからな!?

女の子が近くにいたから余裕っぽい態度するしかなかったけどそれなりに怖かったんだからな!?○ン○ン丸出しの巨大な変質者が近寄ってくるって意味で!

そして人間、現実感がなさすぎると意外と素の対応が出来るものらしい。

もしもこれが一人ぼっちの状況だったら……たぶん腰抜かしながら失禁して気絶してた気がしなくもないけど。


「てか、射程1キロとか、距離があるようでそうでもないことに気づいたよ。もしもアイツが全力ダッシュで走ってきたら数秒の距離しかないんだもんな……そもそも羽が生えてたし、攻撃が届かない高空から落下してこれたら対処のしようもないもん」

「それは……想像するとかなり怖い光景ですね……走る巨人も走るゾンビもマジ害悪だと思います!」

「あなたたちの感覚はいろいろとおかしいと思いますよ?走らなくても、飛ばなくても、魔王ってそこに存在するだけで怖いものなんですよ?」


さて、いきなり現れたと思われる巨大な悪魔、迷宮の魔物と同じ様に実体はなさそうなのでドロップアイテム的なモノを残してどこかに消えてしまうだろうと少し待ったんだけど……消滅する気配もなく普通に死骸は雨に打たれて転がったまま。

このままここで『ショー○ャンクごっこ』をしてても風邪をひいちゃうだけなんだよなぁ。ちなみに同じ様なポーズでも晴れていたら『プラ○ーンごっこ』になる。

しかたがないので(異世界勇者(?)である葵ちゃんはともかくとして)薬師の少女よりも頼りにならなそうな、屋敷の中に引き篭もりっきりの女騎士様たちを呼びに行くことに。ほら、あの○ン○ン、なんか有名なヤツらしいしさ。退治したことの確認をしてもらっておいたら後で何か貰えるかもしれないじゃん?

既に奴の状態の確認、マップ仮面で死亡の確認はしてあるので、さすがにもう動き出すことは無いと思うけど……また何か別のモノが出てくるかもしれないからさ。

俺はここでもう少し警戒態勢で待機、葵ちゃんに騎士様を呼びにいってもらうことに。思ったよりも時間がかかったあと、足取り重く出てきたのはナターリエ嬢と自称神話に詳しい地味っ子の二人。


(なんといいますか、ある意味地獄絵図のような光景でした……)

(うん?あのデカいのが転がち回った時の地響きで家具が倒れてたとか?)

(いえ、そういう物理的なモノじゃなくなくてですね……恐怖で床にへたり込んで失禁しながら笑ってる人とか、恐怖で床にへたり込んで失禁しながら神に祈る人とか、恐怖で床にへたり込んで)

(オーケィ、把握)


初対面の時も魔物から逃げ回ってたし思った以上に頼りないかもしれない騎士様たちであった。


―・―・―・―・―


○ン○ン言い過ぎ問題……。

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