第031話 これ、傍から見ればただのテロリストなんだよなぁ……。
深刻な顔をしたローラさんが『今回のことについて従者の皆と少し話し合いたいのだが……構わないだろうか?』というので、俺たちはそのまま部屋から退出……いや、その前に本日分の怪我の治療をしておいたほうがいいかもしれないな。
もちろん治療中に人が多ければ、それだけで雑菌混入から破傷風発生の可能性が上がるので全員部屋から出てもらう。
あれだ、包帯とか巻いてるし?昨日とは違い傷口に薬を塗る程度で済むだろうと思ってたんだけど……包帯を外したら普通にパックリと傷口が開いていた罠……。
当然のように今日も臓物にニュルンニュルンと、むしろニュルンベルクとお薬を塗りたくることになった。
てか、昨日に引き続いて、むしろ今日は室内だから遠慮なくローラさんが嬌声をあげまくってるんだけど……これってもしかして、同じような怪我をした男を治療したら射せ……いや、おぞましいことを考えるのは止めておこう。
そして屋敷に甘く響き渡ったローラさんの声を聞いたリアちゃんに不審者を見るような視線を向けられてるんだけど、俺がしたのはちゃんとした治療行為だから!リンパの流れを整えるマッサージとかそういういかがわしいのじゃないから!
さて、治療も終わりローラさんの部屋に騎士様たちが集まったので、俺はのんびりと庭でも耕すか!……とも思ったけど、さすがに危機感が足りないと言われそうだし、こちらはこちらで話し合いをすることに。
「えっとさ、さっきリアちゃんに見せてもらったあの壺の薬……じゃなくてヘドロって、使っても延々と湧き出してくるってことで間違いないんだよね?」
「そうですね、湧き出すという表現が正しいのかどうかは分かりませんけど、傾ければいくらでもドロッと出てきますよ?」
「ふむふむ……ちなみに、これまでずっと使ってきたアレの効き目って、体感ではどんな感じなのかな?」
「わたし自身はとくに体調的な変化を何も感じませんので難しいご質問ですが……少なくともこの屋敷に村の男が入ってきたことは一切ありませんよ?」
小首を傾げて『幼さで庇護欲を全面に出してきた』リアちゃん(18才)に反応したのはあごに人差し指を当てて『私考えてます!アピールを欠かさない』葵ちゃん(17才)。
二人共視線は俺の方ではなくお互いを見つめ合ってるけど、その可愛らしいポーズは対抗意識か何かなのかな?
「それはまた……あのドロドロって結構な効き目なんですね?ああ、もしかして昨日、道案内させた村長家のオジサンがこの屋敷にあんまり近づかないでそそくさと帰っていったのって、門の外でも多少は魔除けの効果があったからなのかもですね?」
「そういえば確かに、アイツ、あっさりすぎるくらいあっさりと引いていったから気になってはいたんだよな。他に尾行がいなかったこともおかしいと思ってたんだけど……ただただこの家に近づきたくなかったからかもな。てかさ、リアちゃんって今までどうやってこの村で生きてきたの?主に食べ物的な意味で。普段から外にはあんまり出てない感じだよね?」
「そうですね、とくにお師匠が亡くなってからは門の外には一歩も出てないですね。食事は……一応お家の裏手にそこそこ広い畑があるんですよ。あとは村の人との物々交換ですね。薬が必要になったら食べ物を持って村のおばさんや子供がやってきますので。もちろんそれだけでは毎食満足のいく量を食べるなんて贅沢は出来ませんでしたのでかなり節約していましたが」
「もしかして、リアちゃんの外見が小学校高学年くらいに見えるのは栄養が不足していたからなのかな?うう、お兄さん育ち盛りの子供がお腹を空かせてるのとか一番心にくるんだけど……今日も、いや、俺と一緒にいる間は遠慮せずにいっぱい食べて大丈夫からね?……なるほど、リアちゃんを襲いたい欲求よりもこの家に近づきたくない嫌気の方が勝る程度には強力な退魔効果があるって感じなのかな」
「なんとなく、もの凄く失礼なことを言われてる気がしますが……ここは素直にありがとうございますとお礼を言っておきますね!そういえば去年の夏頃の話になりますけど、ガレン……あなたのいう村長の家の次男があまりにも頻繁に屋敷の外をウロウロしてましたので、門の上からヘドロ?を投げつけてやったら、叫び声をあげながら転がりまわって逃げていきましたのでそれなりに強いと思いますよ?」
「なんですかその檻の中からウ……排泄物を投げつけるゴリラみたいな攻撃方法……リアさんって見た目によらず好戦的なんですね。名前も少し似てますし」
どうやら聖なるヘドロ、ハッカ油で虫除け程度の効果ではなくヴァンパイアに聖水くらいの効果はあると思っていいかもしれない。いや、ハッカ油も陰部とか粘膜に塗りつけられたら転がりまわるけどさ。べ、別にそうゆう経験があるわけじゃないんだからねっ!
そして葵ちゃんが悪役令嬢的なムーヴを醸してるの、似合いすぎててちょっと笑いそう。
「んー……そこまでの効果があるなら……いっそのこと村中に撒き散らかしてみるとか……いや、いくら寒村とはいえそれなりに広いし、最中に見つかって飛び道具で攻撃されたらたまったもんじゃないしな」
「面白そうな方法であるとは思いますけどね?水玄さんがマップ画面で村人の動向を確認しながら私が撒いていくとかならそこまでの危険はなくないですか?」
「いや、それでもしも思ってるほどの効果がなくて、多人数で四方八方から囲まれてタコ殴りにされたら目も当てられないからね?できれば農薬のごとくドローンで散布でもできればベスト……あっ!」
「どうしたんです?トラックにドローンを積んでいたことを思い出したんですか?」
「そんな後出しジャンケンみたいな設定は残念ながら無いんだよなぁ。ちょっと気になることがあってさ、確認してみるから少し待ってね?」
マップ画面を開き、『あること』を確認する俺。いや、引っ張るほどのことじゃないんだけどね?
ほら、俺ってこの惑星……異世界に来たすぐに『マップで水脈を確認して』井戸を掘ってたじゃん?
そう、俺って……正確にはシスティナさんって『地下の水脈』まで見れるんだよ。
で、確認した所、山の湧水が流れ込んでる高台にあるこの家以外、村にある四ヶ所の井戸の水脈が全部繋がってるんだよね。
「これなら井戸にヘドロを流し込めば……でも井戸は全部民家の近くだし……いや、水脈は繋がってるんだから民家から遠くて、ここん家から近い場所に新しい井戸を掘ってそこから流し込めば大丈夫か?」
「えええぇぇぇ……戦国時代でも井戸に毒を流し込むとかそうそうしてませんよ?あと今の貴方の顔が邪悪すぎて怖いです」
「ふふっ、葵ちゃんはお馬鹿さんだな。これは毒じゃない、むしろ神聖なるモノ、つまり聖水的なアレなんだよ?例えるならばプールでするおしっこ?みたいな」
「貴方、そんなことしてたんですか……薬剤に反応して色が変わったりするモノもあるらしいので控えたほうがいいですよ?」
「無実だ、俺はゴーグル越しの水着のお尻鑑賞くらいしかやってない!」
「それはそれでそこそこ気持ち悪い行動なので止めてください」
さすがに明るいうちにウロウロと出歩く、それも井戸掘りなんて目立つことをするのは危険そうなので夜中まで待機、むしろ昼寝でもして待つことにするか!
……
……
……
てことで日付も変わった午前零時。
日中は何をしてたのかって?だから昼寝だって言ったじゃん。いや、もちろんローラさんたちにちゃんと説明もしたんだけどな。
『それは人体に悪影響を及ぼしたりはしないのだろうか……?』とか聞かれたけど、そんなこと分かるわけねぇじゃん!いや、投げやりがすぎるな俺。
少なくともヘドロを塗りたくった家で生活していた、どうしても外に出ないといけない時は服や身体にも塗りたくっていたらしいリアちゃんが元気なんだから『普通の人間』には害はないのだろう。
てか、日中に一度だけアラートが鳴ったので何事かと思えば、村のおばさんが村長の家での歓迎の宴にお誘いに来ただけだった。いや、昨日断ったよね?お貴族様が怪我してるから必要ないって。もちろん今日も同じことを伝えて追い返したけどさ。
俺が寝てる間も、開いていたマップをチェックしていた葵ちゃんから村長の家に村の男のの出入りがそれなりにあったって報告も受けたけど……これといった意見がまとまらなかったのか、向こうも様子見に徹しているのか、これといった行動はなかったみたいだ。
ああ、もう一つ、こっちのメンバーで少しだけ変化があったんだけど……。
「てことでこれから水責めしてきますね。何か村に変化があった時や、帰って来た時にはナターリエさんに念話を飛ばしますので申し訳ないですけど俺たちが戻るまで寝ずの番をお願いします」
「了解した。むしろ私も付いていきたいのだが……今回は我慢しよう。無事帰ってくるように……な?」
などと言いながら隣から覗き込む女騎士様ことナターリエ嬢。
ローラさんたちの話し合いが終わってから彼女の距離感が妙に近くなった気がするんだけど……これは本来の意味でのハニートラップなのだろうか?
まぁ今はそんなことを気にしていても仕方がないので作戦の開始である。
今回、リアちゃんの家を出発するホットなメンバーは俺と葵ちゃんの二人。
虫の音以外はほとんど音のない田舎の夜中、もちろん音がしないとは言ってもトラックのエンジン音、そしてライトの明かりはさすがに目立ってしまいそうなので徒歩で水場……ではなく水脈のある場所まで向かうことに。
マップで見る限り家の外で何かをしているような村人はいないので、とくに問題はないと思うんだけど……気を引き締めての出発である。
峠道を下り、西方面(荒れ地方面)に少し向かった場所が今回の目的地。
現地に到着した後は、俺が井戸を掘る間は葵ちゃんがマップ画面を警戒、井戸を掘り終わった後は葵ちゃんがヘドロを流し込み、俺がマップ画面を警戒。
「ええと……素朴な質問なんですけど……これってどの程度流し込めばいいんですかね?」
「アンサー:まったくわからん」
とりあえず夜明け前まで葵ちゃんにヘドロの注ぎ込みを頑張ってもらってから帰宅した。
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