第030話 『豊穣の祭壇』

朝食後、またまた全員で集まったのはローラさんの借りているお部屋。


「……えっと、女性しかいないお部屋で朝からいきなりあなたの下半身事情のお話を始めるとか正気ですか?ほら、このお部屋の空気……凄いことになってますよ?」

「いや、会話の内容的にそんな反応になるのも仕方がないと思うけれども!大事なのは俺の○ん○んの話ではなくてだな」

「ヒカル……ヒカルのヒカルがヒカルで」

「ちょっと混乱しすぎてただただ俺の名前を連呼してるだけになってますのでローラさんは少し落ち着いてください」


女騎士様たちに赤い顔で露骨に目をそらされ、リアちゃんに白い目で見つめられ、葵ちゃんは終始ニコニコ笑顔、何このカオス。

いや、最後の子の反応おかしいよね?俺が他の女性に嫌われようとしているのを喜ぶんじゃない!

まぁ寝起きバズーカの如く、朝食後お○ん○んの話とか、そんな反応になるのもさもあらん。

でもほら、リアちゃんの使ってる『不思議な薬剤の成分』について、ちゃんと調べておかないと後々困るかもしれないじゃん?

なので昨日葵ちゃんとしていた話を事細かに説明したんだけどさ。


「しかし、薬の臭いが隅々まで染み込んだこのお家の中でまさかの○起ですか……もうそれってあなたの性欲が天元突破、人間離れしすぎるくらいに日々旺盛だとかそういうオチの話ではないんですよね?それにしても……男の人ってタタない方が性欲が強くなるという話はなかなか興味深いお話でした」

「興味深いんだ?てかリアちゃんも一応女の子なんだから○起とかいう直球は控えて?あと、俺のそれに関する欲求は人並み程度だと思うよ?いや、他人と比較するほど、それも他の男の性事情とかまったく興味もないし知りたくもないんだけどな。それでなんだけどね?その薬をちょっと調べさせて貰えないかなと思ってさ。ああ、門外不出とかなら無理強いはしないからね?」

「別に隠すようなモノではないですのでお見せするくらいは構いませんけど……取ってきますので少しだけ待っててくださいね?」


トテトテとした歩き方で部屋から出ていったリアちゃん。隣で葵ちゃんが「なんですあれ、あざといです」とか意地悪な先輩みたいなこと言ってるけど、構うとまた面倒くさくなりそうなのでスルー。

戻ってきた彼女が持ってきたのは、


「なんかくしゃみとかあくびとかすると中から魔神が飛び出してきそうなツボだな」


不思議な表情をした顔のようなモノが描かれている妙なデザインの首長の壺?それとも瓶かな?

もちろん見ただけではこれが何なのかまったくわからないので、あまり触りたくもないけど手に持って装備品の詳細情報画面を開いて確認する。


「ふむ、名前は『魔除けの泥壺』、魔を退ける聖なるヘドロが尽きること無く湧き出し続けるマジックアイテム……らしいよ?」

「なんかもういろいろとツッコミどころ満載のアイテムですね……よりによってどうしてヘドロ……いわれてみれば確かにそんな臭いですけれども!そこは聖水とかでいいんじゃないですかね?」

「個人的にはヘドロっていうかコールタールの臭いなんだけどね?それにしても効能は『魔除け』なのか。そしてコレが村人に効果を発揮しているとなると……なんかもう色々とこの村の状況が変わってくる話だなぁ」

「まぁ強制ED薬なんていうどこに向けて作ったのかわからない薬より、魔除けという相手がハッキリしているモノの方が対応しやすそうでいいんじゃないですか?」


「いや、二人だけでわかったような話し方をされてもこちらは困惑するばかりなのだが……そもそもヒカルはどうしてその壺の名前がわかったのだ?」

「どうしてといわれても……アイテム情報の画面を開いたからですかね?」

「えっ?今開いてるのは地図じゃないのか?その窓は品物の鑑定能力まで有しているのか?それもかなり詳細な内容がわかるみたいだが」

「鑑定能力とは少し違うような違わないような?まぁそのような感じのこともできますね」


ちなみに『わかったような話』をしてるのは俺も葵ちゃんも読書家でゲーマーだからこの後の、おおよその流れを予測してるだけの話である。もちろん大ハズレすることも多々あるんだけどな!

しかし、マップで村人の確認をした時にはとくに怪しい情報はなかったんだけど……

(申し訳ありません……現状のスターワールドシステムのバージョンに組み込まれていない、別系統のシステムのデバフ要素に関しましては処理出来ませんでした……)

ああ、なるほど……確かに状態異常に『呪い』とか『祝福』とかゲームにはなかったもんね?つまり早めにアップデートしろってことだな。

あとシスティナさんは何も悪くないから、そんなすまなさそうにしなくても大丈夫だよ?


まぁ村人の詳細ではわからないことでもマップを調べれば何かしらの情報を得られるかもしれないので、村の中を拡大表示してくまなく探索(スクロール)していくと……。


「葵ちゃん、村長の家の蔵の中らしき場所にすさまじく怪しい設備を見つけたんだけど……コレ、どう思う?」

「『豊穣の祭壇(強欲と淫魔の祭壇)』ですか……というか、カッコの中の表示がネタバレ過ぎませんかね?それって普通なら突き止めるのにもの凄い手間と時間が掛かるヤツですよね?本当にマップ画面ってチートすぎると思います!」

「まぁお互いに楽ができるのはいいことだと思うよ?」

「確かにその通りなんですけどね?なんといいますか謎を解き明かしてゆく情緒のようなモノがもう少しですね……それで、どうします?」

「どうすると聞かれても……そもそも俺も葵ちゃんもこの村の人間どころかこの国の人間でもないからなぁ。自己防衛はするけどそれ以上の権利は……ねぇ?」


マップを見つめていた視線を後ろにいるローラさんに向ける俺。


「これまでで得られた情報をまとめると、

 ・村長を筆頭にこの村の村人が我々に敵対的である。

 ・リアちゃんの話によると旅人……男は殺し、女は襲っているようだ。

 ・そんな中でもリアちゃんは未だに無事であり、その理由は『クレオお婆さんから引き継いだED薬』の効果らしい。

 ・ED薬って何だよ……調べてみたところ『魔除けのヘドロ』だった。

 ・魔除けで排除できるって……それもう『呪い』とか『悪魔付き』とか『邪神の祟り』とか何かしら邪悪なモノが関わってるんじゃね?

 ・あちゃー……村長の家に『それらしい祭壇』があったわー……。

以上です。ある程度の証拠物はあるけどほとんどは状況証拠だけなんだけど……これから貴女たちはどう行動します?」


「ど、どうすると言われても……このような状況、私は今まで経験したこともないのだが……ヒカル、お前ならどう動くのだ?」

「んー、今のところ俺には害がないですからね?俺と葵ちゃんがこの村を出ていくまで村の人間が大人しくしていてくれるなら別に何もしませんよ?もちろん邪魔をするなら立ちふさがった相手は排除しますけどね?葵ちゃんはどうかな?」

「そうですね、私もその方向でいいんじゃないかと思います。言い方は悪いですけどこの村のこともこの国もことも『今後商売をする時の取引相手』になるかどうか以上の興味はありませんし。そもそもローラさんと私たちでは置かれている立場が違いすぎますから、まったく参考にならないと思いますよ?」

「そ、それは少しツレナイのではないだろうか……」

「いや、そんなジトッとした目で見られてましても……乗りかかった船でもありますし、少なくとも貴女の怪我の治療が完了するまではどこにも行きませんのでご安心を。もちろんそのあとは治療報酬を頂きたいのでご領地までお供するつもりですが、あまりにも俺たちが危険にさらされそうなご決断をされた場合にはその時点で別行動させていただくであろうことだけはご留意くださいね?」


ちょっと突き放すような言い方になっちゃったけど、ローラさんたちとは知り合っただけの他人だから仕方がない。

それも、こちらが一方的に助けただけの関係だからね?

俺も葵ちゃんも『ちょっとだけ変わったことが出来る』だけの、ただの一般人であって『何でもかんでも他人の事情に手を出す(ある意味迷惑な)正義の味方』ではないのだ。


「えっと、あの、お話し合いの途中でもうしわけないですけど……ちょっとだけいいですか?えっと、あなたたちをお家に匿ったことに対するお礼といいますかお願いになるんですけど」

「お願い?もちろんお礼なら、俺が建て替えて後でローラさんのご実家に請求するから遠慮しなくていいよ?」

「ありがとうございます。えっと、そのですね、このあとここであなたたちが何をするのかはわかりませんが、この村を出る時は……わたしも連れて行ってもらえないでしょうか?それも、出来ることでしたらあなたに一緒に連れて行ってもらいたいんですけど……ダメ……ですかね?」


心配そうな、それでいて甘えたような上目遣いでこちらを見つめるリアちゃん。悔しいけど非常に可愛らしい。


「ちょっと待ってください!えっと、村を出たいというのはよくわかるんですけど……でも、どうしてそちらの騎士様たちではなく、『立てばスケベニンゲン、座ればエロマンガ島、歩く姿はキンタマーニ』と呼ばれているおじさんと一緒がいいんですか?」

「いったい俺の評価はどうなってるんだそれ?生まれてこの方一回もそんな地名で呼ばれたことないわ!てか現地の住民の方々に謝れ!」

「おじさん……かどうかは置いておくとしてですね。だって普通に頼りになりそうな男の人じゃないですか?わたしが小さかった時、死んだ母が繰り返しこう言いました。『いいかいリア?男の人は外見ではなく心と経済力』だと。普段の発言に関しては少々……かなりアレかとは思いますが、そのわりに視線にいやらしさとかいっさい感じませんし?あと、美味しいモノをいっぱい食べさせてもらえそうなのが決め手になりました!」

「まさか一食で胃袋を掴まれたとは……た、確かに私も水玄さんと離れてこれだけ充実した食生活が送れるとはとても思えませんけれどもっ!」


「もちろん他にもいろいろとありますよ?嘘か本当かは知りませんけどお強いみたいですし?知り合ったばかりの騎士様から一目置かれて、指示を出しても反発されないだけの人望もあるみたいですし。アオイさんだって頼み事をされても嫌な顔はしてなかったじゃないですか?」

「それはそれ、これはこれです!ま、まぁ?私だって鬼じゃないんですから一緒に行動するのは別に構わないんですよ?でもその場合は序列的な関係をキッチリとですね」

「えー、そもそもアオイさんってヒカルさんとはそういったご関係ではないんですよね?昨日ちゃんと聞きましたよ?ならですよ?もしもわたしと彼がそういう関係になれば……それはもうわたしの方が上位の存在ってことじゃないですか?」

「クッ、まさか昨日の飲み会は私の情報を入手するための……謀りましたねリアさん……」

「いや、何の話やねん……とりあえず俺たちが村を出る時はちゃんと声をかけるし、リアちゃんが着いてくるって自分で決めたなら反対もしないからその時決めればいいと思うよ?」


深刻な表情の女騎士様たちとこちらの女性陣の温度差が凄くて風邪ひきそうだわ!

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