第029話 態度のおかしい葵ちゃん。
夕食通り越して夜食になってしまった今日の晩ごはん。
いろいろとありすぎて、さすがに疲れていたので食後はすぐに寝ようとするも……なぜかこの家の家主、リアちゃんにつかまってしまいそのまま飲み会に移行というよくわからない状況に。
いや、普通にジュースを飲んで焼き菓子を食べておしゃべりしてただけなんだけどね?
ほら、リアちゃんってこの村の中では特殊な境遇だったこともあり、薬師の師匠であるクレオお婆さんが亡くなってからはずっと一人だったじゃん?
それもいつ何時、村の誰に襲われるとも知れず、ずっと気を張って生活しなければならないような状況で。つまり普通の女の子なら、メンタルが弱くなくとも精神が参ってしまいそうな日常を送ってきたわけだな。
そんな彼女が部外者とはいえ、年齢(とし)の近い普通の人間と話ができるとなれば……吐き出したいモノが山程あっても仕方ないだろう。
てかリアちゃんって庇護欲を掻き立てる外見だからなぁ……むっちゃ眠いけど最後まで、夜中の二時頃まで話に付き合ったさ。
そんな、眠気で横揺れを始めたリアちゃんが自室に戻り、その場に残されたのはもちろん俺と葵ちゃん。
すでに女騎士様たちがそこかしこでごろ寝している食堂のすみっこに寝床を作ろうと……あれだ、ローラさんにお布団一組貸してるから一人分しかお布団が残ってねぇ……まぁ直で地べたではなく木の床だからまだマシか。
「てか葵ちゃんは最後まで付き合わなくとも大丈夫だったんだよ?」
「……それはリアさんと二人きりになりたかったと、あわよくば旅の恥はかき捨てを実行しようとしていたということですかね?」
「冷静になれ、何処からともなく赤茶けた鉈を取り出す少女に、同情はしても欲情するヤツは居ない。そもそも俺、屋敷に漂う変な臭いの薬剤で強制EDにされてるから……あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、どうかした……ってことはないんだけどさ、男性として、疲労度が高い時に起こる生理現象が発生してるんだけど……これ、おかしくね?」
「なんなんですそれ?私、可愛いらしくも美しい女の子ですので男性の生理現象にはそれほど詳しくないんですけど……何かおかしいんですか?」
おかしいかおかしくないかでいえばまったくおかしくないんだけどね?だって生理現象なんだもん。
てかさ、流石の俺でも女子高生に『いわゆる疲れ○ラって状況でナニがソレ状態でさ』とは説明できないんだよなぁ……。
えっと、これはどういうことなんだろう?
普通におっきしちゃってるんだけど?
「まぁ、あれだ、直接誰かに害のある話ではないから気にしなくてもいいか」
「凄く気になりますけどそれでいいな……ら……」
敷布団の上に女の子座りしてこちらに視線を向ける葵ちゃん。
どうしたことか途中で言葉につまり、顔を引きつらせてるんだけど?
てかその視線の向かう先は完全に俺の下半身の一部に固定されてるよな。
「あおいさんどうぃっち!」
「貴方は何を言ってるんですか……いえ、その、えっ?とりあえず切り落とします?」
「キ○○イの知恵袋相談者みたいな反応止めろや!怖過ぎて俺の『のび○くん』が縮むわ!……ちゃうねん、これはただの生理現象であってやらしい気持ちもやましい気持ちも一切ないねん」
「つまり水玄さんは私のように芸術的な肉体の持ち主ではなく、リアさんのような未成熟な少女に興奮を覚えるロリ○ンだったと」
「人の話聞いて?あとロ○コン発言は過去のアレコレが色々と抉られるから勘弁して?」
「一体貴方の過去に何があったと……まぁそれは冗談としてですね、いえ、おかしくないですか?彼女の話だとこの家の中、むしろ家の外までぼっ……ソレがそうならないようにする薬の成分が漂ってるんですよね?」
「うん、俺もそう聞いたからそう認識してたんだけどさ。てかさすがに恥ずかしいからちょっと視線をそらしてもらえないかな?お兄さん、成人男性の屹立したナニを見つめながら冷静に話しをする女子高生はどこかおかしいと思うんだ」
「それなのに、いきなりソレがそうなってしまったと……つまり、どういうことなんです?」
「だから生理現象なんだってば!って、そんなこと聞かれてるわけじゃないよな。うーん……可能性としては」
「そこらへんのお薬じゃ太刀打ちできないほど貴方の性欲が強いってことですよね?」
「証明も否定もしづらい話だけどそこまでじゃないとおもうよ?むしろこのひと月を振り返ってもらえば分かるように結構枯れた状態だったと思うんだけどな?んー、この屋敷で暮らしてたのはクレオお婆さんとリアちゃんの女性二人だったわけじゃん?だから単純にリアちゃんたちが知らなかった『強制ED薬だけじゃない別の効果のある薬』だったってことじゃないかな?それともクレオお婆さんがちゃんと説明してなかった、またはリアちゃんは聞いたけど忘れていた、それとも胡散臭い来訪者に全部は話さなかったってこともなきしにもあらず?」
「別の効果……ですか。記憶違いの線も無いとは言いきれないですけど……でも、彼女が一人で暮らしていたこれまでの数年間、襲われていないのは事実なんですよね?なら効能的には間違ってもいないのでは……」
「そもそもさ、女の子の葵ちゃんには理解できないかもしれないけど、『勃たない=襲わない』ってのは違うんだよなぁ。女の子にするような話じゃないけど……そうだな、例えば昔の宦官とかはナニがないからこそ常人よりも精力が強くて、権力者としての加虐心も相まってものすごくねちっこいかんじの」
「本当に女性にする話ではない生々しい話ですね……なら、性欲を抑えるものではなく……攻撃性や残虐性を抑えるためのモノ、相手を理性的にさせるモノだったとか?」
「なるほど、ありえない話じゃない……のかな?自分じゃわからないけど俺にはこれといって違和感とかないんだけど。薬の現物があれば何かわかるかも知れないんだけどなぁ。とりあえず明日、リアちゃんに見せてもらおうか」
「そもそも水玄さんはいつも理性的ですからね。たぶん私が知っているどの教師よりも大人な人ですよ?」
「君の教師に対する期待値の低さが気になるのと、俺のことを思ったより高評価してもらってるところ申し訳ないけど、ただ単に前……出会った頃に言ったと思うけど、リスクとリターンの計算をしているだけだよ。あとは……ただただ臆病なだけだな」
「ふふっ、計算ができるのはいいことじゃないですか?それに、こんな世界なんですから蛮勇で吶喊するような人よりも臆病な人のほうが側に居て安心できますから」
夜中で少しハイになっているのか、それとも何もなかった荒野から打って変わって回りを敵に囲まれているという危機感による吊り橋効果なのか。
いつもより数段綺麗な、柔らかな微笑みを浮かべる葵ちゃんに少しだけ困惑する。
「それで、その……ソレはどうするつもりなんです?お望みなら私が優しく処置してさしあげましょうか?」
「お……それはなかなかに魅力的なお誘いだけど、回りで聞き耳を立てている女性がいるから遠慮しておくよ。放っておけばそのうちひっこむからな」
いや、マジ危ねぇなおい!二人きりの状況なら『お願いします!』って言ってたところだぞ!?むしろこの状況でも言いかけたぞ!俺の理性、むっちゃ頑張った!
てか、リアちゃんといいこの娘といい、どうしてジュースで酔ったみたいになってんだよ……。
ちなみに俺の『聞き耳を立てている女性』でビクッと反応した女騎士様は三名、そのうちで一番大きく跳ねたのはナターリエ嬢だった。
時は過ぎて翌日の朝。正確には昼前だな。
全員それなりに疲れていたし夜更かしもしていたので、早起きした人間は別室で寝ていたローラさんの一人だけ。
てか、彼女の部屋に朝食を持っていった時、(もちろん俺にはハッキリとは言わなかったが)おしっこを我慢していたらしい彼女がちょっと涙目でプルプルしていたのがとても可愛らしかった。
ああ、もちろん寝る前にアラート範囲の設定はし直してあるからね?
寝てる間に鳴らなかったということは、こちらに対して不審な行動をする村人はとくにいなかったということだろう。
まぁ昨日の夜はちょっとテンションのおかしくなった葵ちゃんとあれやこれや……いや、とくに何もなかったんだけどさ、なんとなく彼女的には黒歴史になりそうなイベントもあったけど今日は朝からいつも通り、
「……うああああああああ!!!!!!違うんです!私は無実なんです!忘れてください!いえ、忘れられるとそれはそれでモヤッとしそうなので心の奥底にそっとしまい込んで私のことを今まで以上に気にかけてください!むしろ私以外の女にはクールに接してください!」
「朝っぱらから全力で面倒くさいぞこいつ……おはよう、今日も元気そうで何よりだよ」
……でもないな。
少しだけ雰囲気の変わった葵ちゃんを受け流しながらフレッシュジュースを啜る俺だった。
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