第026話 『あなたは死なないわ 私が守るもの』

さて……これはどうするのが正解なのだろうか?


俺がもう少し早く気付けていれば、そのまま全員で回れ右も出来たんだけど……既にナターリエ嬢が部下を一人連れて、この村の村長の屋敷に出向いちゃってるからなぁ。

もし俺と葵ちゃんの二人だけなら『とっとと逃げる』ないし『最初からここに村なんてなかった』ことにしまうんだけどさ。

残念ながら今回は大怪我を負った貴族様と一緒だからな。

怪我人を乗せたまま高速でトラックを走らせることも、スターワールドプレイヤー以外には説明し辛い『敵(赤アイコン)表示』という根拠だけで村人を攻撃することも出来ない(ことはないけ難しい)わけで。


(えっと、システィナさん。この世界での『人間の赤アイコン表示』ってどういう基準で敵とみなしてるのかな?)

(こちらに対して『殺人、誘拐、暴行などの明らかな犯罪行為』を目的として接触してくるであろう相手となります。残念ながらスリなどの軽犯罪については接触してからの敵認定しかできません)

(なるほど……田舎によくある『度を越したレベルで排他的な村』とかじゃなく、『こちらに対して明確な害意のある村』だったかー……説明ありがとう)


とりあえず今はナターリエ嬢たちが無事に戻ってくるのを待つしかないんだけどな。

葵ちゃんに有事の際にはすぐに動けるようにと声を掛け……いや、パーティ編成したままだから念話が使えるのか。


(葵ちゃん、聞こえますか……今、貴女の心に直接語りかけています……)

(心に話し掛けられるのはさすがに気持ち悪いので脳内だけにしてください!)

(心はダメで脳内ならいいとは一体?それは身体は許してもキスはダメとかそういう感じの……いや、そんな冗談を言ってる場合じゃないんだけどさ。システィナさんに確認してみたんだけど、この村、やっぱりちょっとヤバいみたいなんだよ。できればとっとと逃げたいとろこなんだけど……女騎士様が村長の家に行っちゃってるじゃん?マップでずっと確認してるんだけど、状態異常を起こしてるようなこともないから今は様子見で、最悪の場合このまま人質救出の潜入ミッション……いや、殲滅ミッションに移るかもしれないことを覚悟しておいてもらえるかな?)


(わかりました。と、言っても私はそれほどお役に立てそうもないですが。それでも貴方が銃を撃ち続けるのに不自由しないように飛び道具の盾くらいにはなれますのでご安心を!)

(ははっ、そこは『あなたは死なないわ 私が守るもの』って言って欲しかったかな?もちろん葵ちゃんにもかすり傷一つ負わせるつもりはないから心配ご無用だよ?今、この星で暮らす上で大切なのは俺と葵ちゃんが無事なことだけだからね?例えこの世界の人間を皆殺しにしてでも君は守り抜くよ)

(クッ……今のは中々良かったですよ?)

(どうして悔しそうなんだよ……あれだな、状況的にストックホルム症候群ってヤツだな!)

(それだと貴方が犯罪者になっちゃってるじゃないですか……正解は吊り橋効果ですね)

(どっちにせよ気の迷いって意味では変わりないんだよなぁ)


さて、『逃げられないならどうするのがベストなのか?』と聞かれれば、それはもちろん『拠点で迎撃』の一択になる。

むしろ逃げて下手に追いかけられるよりもそちらの方が安全まであるからね?

問題は敵じゃない人間に場所を提供してもらわないとならないこと。

それも、できるだけ村の中心部から離れた場所を確保したいんだけど、そんな都合のいい相手も場所も存在するはずが……1ヶ所有ったんだけど?


マップ上では何も知らないナターリエ嬢が部下を一人連れて向かった、この胡散臭すぎる村の広さだけはある屋敷から村長らしき夫婦とそれなりに歳のいったオッサン……どうやら息子らしい人間を連れて戻ってきた。

葵ちゃんのことを無遠慮に下卑た、ねっとりとした目で舐め回すように見るオッサンのことがちょっとどころではなく気に入らない……。


(俺でもあれほどのイヤラシイ視線を向けたことないのにっ!よし、我慢の限界だし全員ぶち殺そう)

(意味の分からないキレ方するの控えてもらえますかね?あと沸点が低すぎです)

(確かに)


今のところ相手の戦力もわからないし、ここはやはり拠点の確保優先だな(確保できるとは言っていない)。

てか、マップ情報と家主の個人情報を見ただけでこらから村長たち相手に適当な作り話をしないといけないとか結構な無茶振りなんだけど?

説得に向かうべき家の家主さんの名前は『リア』……てか18才の女性なのか。

職業は『薬師』で『クレオの弟子』か。両親ともに亡くなってるみたいだけど、これは……。


「ああ、ナターリエ嬢、もう戻ったのか。俺もそちらに向かおうとしていたのだが……ふむ、そちらはこの村の代表者かな?いや、実はな、この村に私の知人の友人の知り合いが居たことに思い至ってな。クレオという名なのだが……村長、この村にそのような名の薬師がいたと思うのだが相違ないか?」

「えっ?あっ、はい、クレオという薬師は確かにおりましたが……失礼ですがクレオ婆さんとはどのようなお知り合いだったのでしょう?」


なるほど、クレオはお婆さんだったと。


「うん?ああ、昔の話になるのだが彼女には祖父がいろいろと世話になってな、不義理にも無沙汰をしていていたが少し前に身罷られたと聞いたのだ。……彼女が亡くなってもうどれほどになるのかな?」

「あっ、はい、クレオ婆さんが亡くなってもう4年になります」

「なんと!……いや、そうか、もうそんなになるか。そういえば彼女には一緒に暮らしている弟子がいただろう?確か名はリア……だったかな?中々に筋の良い娘だと聞き及んでいるのだが今も頑張っているのかな?」

「はぁ、リアは今もクレオ婆さんの屋敷で」


よし、リアが屋敷で今も暮らしている言質は取れたな。


「そうか!それはいい!……ナターリエ嬢、村長にはもう今夜の宿の願いをしたのかな?」

「……ああ、申し訳ない、ヒカル様のご縁者の方、それも薬師の方がまさかこのような遠方にいらっしゃるなどとは思い至らず」


いきなり始まった小芝居に困惑顔の女騎士様一同。

先程までの、この村に向かうまでの俺の話し方や雰囲気から随分と変わってるからしかたないね?

何かを察してくれたらしいナターリエ嬢、少し逡巡はあったようだがこちらに話を合わせてくれるのむっちゃ助かる。


「いやいや、貴女には何の落ち度もないさ。ということで村長、わざわざ出向いてもらて申し訳ないが……馬車に怪我人が乗っているのでな。挨拶ついでもあり、ちょうどいいのでこのまま薬師の家、リアのところに向かおうと思うのだが、案内に誰か人を付けてもらえるかな?」

「はい、あっ、いえ、リアの家はお貴族様をお出迎えできるような場所ではとてもなく」

「……ほう、貴様、私の知人を愚弄するのか?」


俺の左に立つ葵ちゃんが腰に差した剣にすっと手を添える。


「いえいえ!決してそのような意図はございません!ただただこのような僻地までおいでくださいました皆様方を、この村の長として歓迎したいだけでございます」

「ははっ、偶然立ち寄っただけの旅の人間にそれほど気を使う必要はないさ。それに、見た所それほど裕福ではなさそうな村に歓待の宴など開かせるのはさすがに気が引ける。ああ、心配せずとも村を出る際にはそれなりの施しはしてやるから安心せよ」


歓迎なんていらねぇよ!何を入れられてるか分からないような食い物を出されたらたまったもんじゃないからな!


「葵、引き続き我が姫の世話を頼む。ナターリエ嬢、引き続き先導を!」

「かしこまりましたご主人さま」

「了解した!」


まだ何かを言い募ろうとする村長を無視して『では案内せよ!』と命令だけしてトラックに乗り込む俺。


(葵ちゃん、このパーティ名称って自由に変出来るのかな?てかまた今度、二人っきりの時にご主人さまって呼んで欲しいな?)

(ええ、普通に出来ますけど?……いきなり呼び捨てにするのとかビックリするので止めてくださいね?そして次は貴方が私をお嬢様と呼んでもてなす番だと思います)


(執事喫茶ごっことか、ちょっと面白そう。暇な時にやってみようか?そうだな、それじゃあパーティ名は……『この村の村長家族及び村人、とくに男の村民の様子がオカシイことについて話したい』でよろしく!)

(長っ!)

(それが終わったらナターリエさんにパーティ申請飛ばしてほしいんだけど)

(ナターリエさんですね?こういうシステムを知らない人がいきなり申請画面を見て参加するととても思いま……参加しましたね)

(見てくれるだけでも良かったのに参加してくれたんだ?あー、ナターリエさん、ビックリしてるかと思いますけど今は声を出さないで、こちらの説明だけ聞いてください)


トラックの前を騎馬で先導する彼女が軽く右手を振る。


(先程の機転といい、不測の事態への対応力といい、さすがは美しいだけではない女騎士様!ええと、詳しくは後ほど……必要なことの説明だけさせていただきますが、先程見ていただいた……絵?に表示されておりましたように、この村の村人はかなり危険度が高いと思われますのでご留意をお願いします。……いきなり人間を相手に難しいとは思うけど、葵ちゃんも何かの際には躊躇わずに)

(はい、上半身と下半身を生き別れさせてやります!)

(逃げろって言いたかったんだけどね?相変わらず物騒な子だなぁ……)


案内役を命じられたのは村長の息子、他にも何人かは尾行に付いてくるだろうと思ってたんだけど……予想外に誰も着いてこなかった。村人が村長の家に集まる前に手を打ったのが功を奏したのだと思っておこう。

まぁ向かう場所は村外れの最奥、自分から追い込まれに行ったみたいなもんだからな。

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