第025話 これは『コズミックホラー』ですか?

そのあと彼女――俺が治療した姫様が再び目を開いたのは六時間後。

俺、することなかったから近くの土地を延々と耕してたからね?それを見つめる女騎士様たちの『何してんだコイツ……』の視線を一身に浴びながら。


「……本当に……私はまだ生きているのだな?」

「あれだけのことを言っておいて『すいません亡くなられました』とはお連れの方に伝えにくいですからね?むっちゃ頑張りました。とりあえずは一安心……もちろん当分はベッドの上での生活になりますが。何か飲み物でもご用意しましょうか?おそらくは傷口から漏れてくるようなことも……ないと思いますし」

「そこはハッキリと断言して欲しっ……つっ!」

「無理をすれば傷口が開きますからね?力を入れたりあまり大きなお声を出されませんように」


「……そういうことは先に伝えておいて欲しかったのだが……あと、すまないが飲み物をお願いしたい」

「かしこまりました、葵ちゃん、フルーツベジタブルミックスジュースワンプリーズ!」

「どこの喫茶店ですか……よろこんでー」

「それ居酒屋だからね?」


なんだろう、俺、むっちゃお医者さんみたいじゃね?ちょっとカッコよくね?と思わせてからの喫茶店のマスターである。


「……しかし……あれだな、貴様……貴殿には礼を言うのが正しいのだろうか?それとも怪我人相手に何をしてくれたのだと罵倒を浴びせるのが正しいのだろうか?」

「よろしければお気軽に『ヒカル』とお呼びください姫様。んー、どちらもご遠慮したいところではありますね。このまま何事もなく命を繋げることが出来たなら言葉ではないお礼をちゃんと頂きますし、医療行為を罵倒されてはたまったものではありませんからね」

「私も姫と呼ばれるような身ではないぞ?カロリーヌ、いや、こちらも気軽にローラと呼んでくれ。それも……そうなのだけどな。いや、しかし、アレを医療行為というのは……もちろんこうして生きながらえているのだからその通りなのであろうが……あの、体の内側をまさぐる行為は本当に必要であったのか?もしや貴殿が乙女の内臓が好きなだけの気狂いでないのかという疑惑が私の頭の中で浮かんでは消え、消えてはまた浮かび」

「……ちょっとあの時の感覚というか感触が指先にフラッシュバックしてきそうなので勘弁して欲しい話ですね……できれば二度と体験したくない手触りでしたので。あと、もしも私にそのような性癖が生まれたとしたらそれは貴女のせいなんですからね?」


「ほう、それはつまり私に責任を取って貴殿の嫁にでもなれというのかな?いや、そういえばお望みはナターリエであったな」

「はい!でも嫁にはいらないです!一晩だけで大丈夫です!」

「一晩というのは……あやつも一応貴族の娘なのだが……さすがに手を出しておいて見捨てるのはどうかと思うぞ?」

「そもそもその男と肌を重ねるつもりなどありませんので!治療費用は子爵様とご相談の上でちゃんとお支払いくださいね!ま、まぁ?殿方に求められることに喜びを感じぬでもありませんが……姫様、よくご無事で……」


うん、なんとなく姫……ローラさんと二人っきりの雰囲気を醸し出してたけど普通にお供の赤毛さんと、


「水玄さんって……まともな会話もできたんですね……あと、口説くなら私からなのではないでしょうか?なんとなくモヤッとするんですけど?ああ、もちろん振りますけどね?」

「これでも一応は社会人だからね?葵ちゃん以外にいきなりのセクハラ発言とかしないよ?」

「私にもしないで欲しいんですけどね?まぁ貴方にとって私は特別(スペシャル)ですもんね、それも仕方のないことではありますが」

「相変わらず前向きな子だなー」


葵ちゃんも近くに居たりする。


「さて、このままお美しいお姫様とずっと話し続けたいという願望もありますが、この場所はあまりお体に良い環境とはいえませんのでまずは近場の村か街まで、整備された道があるのならローラさんのお家?お屋敷?まで向かいたいと思うのですが」

「確かにそうだな。しかし、我が事で申し訳ないのだが……このような怪我人をどうやって運ぶというのだ?この傷では馬に乗れぬどころか起き上がることすらままならぬのだが……」

「もちろんこのまま移動しますよ?……ああ、そういえばローラさんはトラック、この乗り物を外からご覧になってらっしゃいませんよね。まぁ、あれです、今寝てらっしゃるのは荷馬車の荷台のような場所だと思っていただければ大丈夫です」

「これが馬車の荷台だと?確かに天井は低いが……このような、我が家にも無いようなフカフカとした肌触りの良い立派な寝具があるというのに?……ああ、ヒカルはそちらの奥方とのふたり旅……ということは毎晩このベッドで……」


「何をご想像されてるのか薄々しか分かりませんがそのような事実は一切ございません。そもそも彼女とは夫婦ではなく限りなく他人に近い知人でございますので」

「どうして私より先に貴方が否定しちゃうんですか!あとそこそこ仲良しの友人ですからね!そこ、大切なところですからね!!」

「もしかしたら葵ちゃんの中ではそうなのかもしれないね?そう思い込むのは自由だもんね?」

「ちょっとヒステリー起こして辺り一面火の海にしてきましょうか?」

「ごめんて」


そうだった、この子、火魔法とか使えるんだった。


「日暮れも近い……というより、すでに夕暮れですけど出発しましょうか。騎士様、どなたか先導をお願いします。一応後ろから明るいライトで照らしますがお馬さんの足元、十分に気をつけてくださいね?あと、それほど大きな音ではないですがエンジン音……獣が唸るような音がなりますので驚かないようにお願いします。葵ちゃん、現地に着くまで荷台でローラさんの付き添いを任せてもいいかな?」

「わかりました。一応ロープで固定はしておきますけど、急ブレーキを踏まれるとローラさんの休んでいるベッドが床を滑りそうですので、そのへん気をつけてくださいね?」

「了解。じゃあ葵ちゃんの準備が終わったら念話で連絡よろしく!」

「では私が先導役を承ろう。最寄りの村まで馬の脚なら三時間もかかるまいが……この乗り物はどの程度の速度で走るのだろうか?」

「整備された道なら馬の何倍も早いけど……いまは荷台に怪我人が乗ってるから控えめでお願いします」


いつもの明かり、手回し充電式のライトを葵ちゃんに渡してナターリエ嬢と荷台から降りて扉を閉める。

彼女が他の女騎士たちに出発の指示を出してる間に運転席に乗り込み、合図を送ってからエンジンを掛けて車のライトを点灯させる。

お馬さん、ちょっと驚いたみたいだけどそこは訓練された軍用馬、パニックを起こすようなことはなかった。

ナターリエ嬢と葵ちゃんから『いつでも出発よろし』の合図がでたのでついにこの世界初めての人里に向かい出発である!


まぁ、数時間後にたどり着いたのは時代劇……むしろホラー映画に出てきそうな半ば廃村のような古ぼけたおどろおどろしい建物しかない寒村だったんだけどさ。

見た目通り、当然のように宿屋も飯屋もないような村なので、泊まるところは自然と村で一番大きな家、村長の家ということになると思うのだが……。


「なんというか……宿泊したら夜中に『動き回る死体』とか『宇宙的な恐怖』に襲われそうな村ですね。明日の朝になって村民が誰もいなくなっていたとしても納得できそうです」

「もの凄く失礼なことを言うけどトラックの荷台の方が圧倒的に清潔そうなボロ屋に怪我人を寝かすのは気が引けるなぁ……いや、それ以前の話としてさ……ちょっとこれ、見てごらん?」

「うわぁ、マジですかこれ!?……私の心配、実現しそうじゃないですか?」


魔物(肉食獣)が現れるようになってから、マップ全域指定だと頻繁に鳴り響くアラートの範囲を自分の半径5メートルにまで狭めていたから今まで気づかなかったんだけど……マップ画面で確認できる村人、老若問わず男の、結構な数が『赤枠アイコン』なんだよね。

注意力散漫すぎだって?いや、まさかお貴族様と訪れた領地内の村人がそんなに敵対的だなんて普通は思わないじゃん!!


―・―・―・―・―


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『使い潰された勇者は二度目、いや、三度目の人生を自由に謳歌したいようです』

https://kakuyomu.jp/works/16816700427601950335

の、第二巻が『9/25』に発売となりますm(_ _)m

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