第024話 『心霊療法(っぽいなにか)』

見たことのない乗り物で乗り付けるという『怪しさ全開の登場』をした俺と葵ちゃん!……ではあるが、彼女たちが逃げるしか出来なかった魔物を一撃(一撃とは言っていない)で倒していたことで少しは信用されたか、それとも目の届く所で監視しようと警戒されたか。

仲間の救援の手助けを了承、むしろ向こうからお願いされた。

そして跳ね飛ばされた患者さん、女騎士様たちとの合流地点から数百メートル向こうで、馬の死体の近くに倒れていた彼女たちのお仲間の容態なのだが……。


「姫様っ!医者を連れてまいりました!今暫くのご辛抱を!」


と、先程前に進み出てきた赤毛の女騎士様が駆けよりその体を支え起こそうとするも、跳ね飛ばされた時に当たりどころが悪かったのか腹部……右脇腹に大怪我を負ったようで致死量に近そうな血を辺りに撒き散らしぐったりとしていた。

あと俺、別に医者ってわけじゃないんだけどね?治療を申し出ておいて『一般人です!』って告げたら間違いなく『じゃあなぜ名乗り出た!?』ってキレられそうだから黙っておくけど。


「葵ちゃん!騎士様の隣にベッドを出してその上にアルミシートを被せて!」

「わかりました!」

「そちらの騎士様たち!怪我人を抱え上げてベッドの上に乗せてください!できるだけバランスよく支えて傷口を刺激しないように!」

「り、了解した!」


幸いなことに、彼女の着けていた鎧が内臓が外にこぼれ出ることだけは防いでくれているようだが、このまま放置すれば間違いなく長くは……おそらくあと一時間と持たないだろうと思われる大怪我。

もちろんこのままでは何の治療も出来ないので彼女が着けている鎧、鎧下、下着もついでに外してもらう。


「確認なんですけどこの国ではこのような大怪我の治療の際にはどのような方法を取るのでしょうか?回復魔法?それとも薬?」

「こんな辺境の地に回復魔法など使える高位の神官がいるはずがないだろう!そして回復の水薬なんていう高価なものも持ち合わせは……」

「なるほど、つまり現状では何も出来ない状況であると。では全面的に任せてもらいますが問題ないですね?」

「……申し訳ないがお願いしたい」


仲間を見知らぬ、通りすがりの人間に任せることの決断に苦渋の表情をする女騎士様たち。

怪我をした女騎士様……同僚が呼ぶところの『姫様』の上半身を素裸にし、血と砂泥がこびりつき、汚れた体を大量の水を使って洗い流す。

忙しそうに動いてるのに『その水はどこから出した?』などというつまらない質問が出ないのはとても良いことだと思う。

意識が朦朧としていたところに水を掛けたことにより、冷たさかそれとも痛みでか、ビクッと跳ねたのは部活少女以上、プロアスリート未満まで鍛え上げられ、引き締まった姫様の体。

水で血が流され、あらわになった傷口は彼女の右脇腹全体……盲腸部分から二本目の肋骨までパックリと開いていた。


「クッ、まさかこのような場所で殿方にあられもない姿を晒すとは……」

「言ってる場合ですか!……意識がハッキリ戻ったみたいですね?俺だって、出来れば閨(ねや)でお怪我のないお姿で拝見したかったんですけどねぇ……とりあえず今から治療に入りますがこれだけの大怪我ですので」

「ああ、自分でもわかっているよ、これだけの大怪我、いま一度意識を手放せばもう二度と目を覚ますことはあるまい。カロリーヌ……父上に一言、申し訳ないとだけ」

「いえ、死なせるつもりはないですから遺言はいりませんよ?これだけの大怪我ですので半月はまともに動けないのを覚悟しておいて欲しかっただけです。あとブラック○ャック並みの治療費を請求させていただきますので逃げないでくださいね?ああ、でも、もしも払えない場合はあちらの騎士様を一晩自由にする権利とか貰えれば大丈夫ですので。むしろそちらを推奨します!」

「このような大怪我をした人間を前にして軽口が叩けるとは……大物なのだな貴様は?ナターリエを一晩貸せか……ふふっ、はははっ!っっっっ!!は、腹に大穴が開いてる人間を笑わせるな馬鹿者っ!!」


いや、冗談じゃなくて本気(マジ)発言なんだけどね?

もちろん無駄口を叩いてる間に既に治療、大量の水と一緒に、葵ちゃんに出しておいてもらっていた『医薬品』で治療を開始してるんだけどさ……。


「……な、なぁ、一つだけ質問をしてもよいだろうか?」

「何ですか?ああ、あちらの騎士様と言うのはあの赤毛の髪を後ろで束ねたマ○マさんみたいな女性のことですからね?」

「誰もそんっ……なことはぁ……きいっていなっ……いのだ……がな?……その……んっ……なんだ……貴様は……いっまっ……何をっしてっ……ああっ……」

「もちろん怪我の治療に決まってるでしょうがっ!!」


うん、怪我の治療方法がね……軽く意識が飛んでしまいそうなくらい……超グロいんだ。


ほら、今までは道具の製作にせよ壁や扉の建築にせよデフォルメされた感じだったじゃないですか?トントン、コンコンって感じで。

それなのに医薬品を使った治療、一体どんなアクションをするのかと思えば、指先で……むしろ手のひら全体を使って傷口に塗り薬を塗りたくるコトだったんだよ。

いや、擦り傷とか切り傷ならそれで問題なかったと思うんだけどね?

でもほら、この姫様って……半ば内臓が出ちゃってるじゃないですか?

その潰れたり穴が空いたり切れたりしている内臓に、丁寧に薬を塗りつけるとか、スプラッタどうこうの話じゃないからな?手触りが……生暖かさが……うう……。

昔テレビでよく見た『心霊療法』ってあるじゃん?いや、よくは見なかったけどさ。なんかこう、指で患部をゴソゴソして腫瘍とか取り出すヤツ。それのとてつもなくグロい版って感じ?間違いなく地上波では放送できないぞこれ?


あと、内臓に薬を塗りつけてるのに痛がるではなく変な声だしてる患者さん、いや、途中で全身を痙攣させて静かになったんだけどさ。

これアレだよね?絶対にアレだよね?気絶はしてるけど息が荒いしさ!

もしも俺に変な性的指向が付いたらどう責任取ってくれるんだよ!

そして全体的に薬を塗り終わると、とくに縫い付けてもいないのに血が止まり、患部に布をあてがい包帯まで巻かれているという不思議……。

マップ画面から姫様――カロリーヌ嬢と言う名の貴族のお嬢様らしい――の状態を確認……『出血』が止まり『治療精度』の表示も出てるから、これで『感染症』が発症しなければもう死ぬことはないので一安心である。

ちなみに今回の治療精度は『13%』。医療レベル1だしそんなもんだな。


ふっ、治療終了後の、葵ちゃんと姫様の愉快な仲間たちからの、こちらを凝視する変態、それとも○チ○イを見るようなドン引きの視線がとても心地良いぜっ!

一応成功したとはいえ野外での緊急手術というどう考えても狂気の行為、このままここに患者さんを放置するのはとてもいただけない。

いろんなバイキンが繁殖してそうだからね?蝿とか蚊、その他の寄ってきそうだしさ。

そして今、彼女を移せそうな移動先は最低限密室に出来るトラックの荷台だけ。

積んでいた予備の食料などを葵ちゃんにしまってもらい、もう一台のベッドを設置、敷いたお布団の中に水拭きと乾拭きをして身体を拭ったお姫様を寝かしつけたら救急車ならぬ救急トラックの完成だ。


ちなみにおっぱいを拭こうとしたらとてもいい笑顔の葵ちゃんにその『右腕』をガッと掴まれて、『左手』に持った濡れタオルを奪われたんだけど何故なんだぜ?

姫様の治療が一段落つけば今度は女騎士様の問診。

彼女ほどの大怪我をしている女性は他には居なかったので、その人たちは医薬品ではなく薬草をすり潰したモノで我慢してもらうことに。

医薬品、数が限られてるからね?大怪我以外の患者さんに使うのはちょっともったいなくて……もちろん作業台と材料があれば作ることは出来るんだけどさ。


治療後はそのまま近くの村や街まで速やかに移動したかったんだけど、寝たままの人間を荷台に積んでトラックを走らせるのはちょっと傷口が開くのが怖かったので姫様が目を覚ますまでその場で待機。

へたり込んでいた他の女騎士様たちと一緒に休憩しながら、みんなで昼食を取っておくことに。

治療は成功したとは伝えてあるんだけど、患者が目覚めるまでは彼女たちもそうそう安心してくれるはずもなく、葵ちゃん以外はお通夜みたいな状況なんだけどね?

俺たち以外はコーンスープを注いだお椀からスプーンを口に運ぶ元気すらなさそうだけど水分くらいは取らないと倒れられても困るからさ。果物を切って、これだけでも食べておけと全員に配る。

……一口かじった後は目の色を変えて食べだしたところは騎士様といえどもスイーツ大好き女の子って感じだな。いや、スイーツは女の子だけのものじゃなくておっさんのものでもあるんだけどな!

食べ終わった後の女騎士の『もっと欲しいの……』って感じの物欲しそうな顔はとても良い物だった。

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