第020話 カレー? それともスタンピード?
そこからさらに数日――迷宮に入った初日を含めて五日目。毎日毎日迷宮に入り続けた俺と葵ちゃんの二人。
もちろん畑作業(種植えと収穫)はしてるんだけどね?農業レベルはカンストして『20』となっている。
「この五日間で倒した魔物の数が240……水玄さんのレベルが11で私のレベルが6。この成長は遅いのでしょうか早いのでしょうか?」
「比較対象が何もないからまったくわからないんだよな」
「ドロップアイテムも使えそうなのは魔石だけですし、魔物は翌日には湧いてきてますけど、宝箱のリポップはしてませんし」
「見つけた宝箱が三個で、最初に見つけたポーション以外の中身は銅貨が386枚と銀貨が22枚だけ……貯金箱かよ。てか、地球と同じように丸い形の貨幣が見つかったってことは、この世界でも貨幣経済が成り立つ程度には知的な生命体がいると思っていいのかもしれないな」
迷宮で出て来た魔物は三種類、小太りのでかい蛇(ピッグバイパー)、二足歩行のトカゲ(ラプティリアン)、でかいトカゲ(コドモドラゴン)だけだが、レーザーライフル(たぶん弩弓も)が魔物に対して十分な効果があることも分かったので、翌日からはいよいよ近隣の探索に移ることに。
でもその前に確認!しておくのは、もちろんミッション画面である。
「お、予定通り迷宮探索……というか魔物退治系のミッションがいっぱいクリア出来てる」
「やりましたね!和食、中華に続いてフレンチ、イタリアン、インド料理!本格的なデザートも希望します!」
そんな食いしん坊キャラが着々と定着してきた葵ちゃんは置いておいて、クリアしたミッション。
『レベル20達成:10ポイント』
『初めての異世界生物発見:1ポイント』
『初めての戦闘行為:1ポイント』
『初めての魔物討伐:1ポイント』
『初めての宝箱開封:1ポイント』
『魔物討伐数5体達成:3ポイント』
『魔物討伐数10体達成:3ポイント』
『魔物討伐数30体達成:3ポイント』
『魔物討伐数50体達成:3ポイント』
『魔物討伐数100体達成:5ポイント』
合計すると今まで最多の31ポイント獲得である!……まぁ10ポイントのMODだと三つしか取れないんだけどさ。
絶対に取りたいMODも決まってるしね?
「農業レベルが早くもカンストしている……ということで一つ目のMODは『魔王(闇い森を走り抜けてく赤い馬)』。消費は10ポイント!」
「同居人がまさかの人間をやめちゃう宣言始めたんですけど……角とか羽が生える感じですか?それとも性的な意味の?」
「両方ちげぇよ……簡単に言うと『レベル20制限』が撤廃されて『レベル999』まで上げることが可能になります」
「なんですかそのジン○ブエドルみたいなインフレ……」
まぁ能力値的にはレベル50くらいでほぼカンスト……だったんだけど、この世界ではどうなんだろう?
「そして続いては!……と、いいたいところだけど、ここからどう育てばいいのか微妙なんだよなぁ……残りのポイントだけだと拠点の『オール電化』は無理っぽいし」
「逆にそんなことが出来る方がおかしいと思うんですけどねぇ……」
「今回は葵ちゃんが言うように料理系のMODをいくつか追加であとは貯ポイかな?着々と野菜も果物も香辛料も種類が増えてきたし」
「おやつ!おやつ系の追加を!」
『果物で十分に糖分補給は出来てるから普通に太るよ?』とも思うけど俺も食べたいのは一緒なわけで。
日本にいる時はそんなに間食とかしてなかったんだけどな。
コンビニで新商品を買ってもそのまま食べずに放置、気づけばいつの間にか母の腹の中に……って感じで。
「洋食系は……『欧の木人』だな。インド料理……『アジアの木人』か。デザートは『何色?パティシエール?』」
「どうして疑問形なんですか……」
「いや、知らんけど。てか、和菓子じゃなく、洋菓子って卵がないと作れないものばっかだな」
「あー……確かに、卵!バター!小麦粉!砂糖!って感じですもんね。そりゃカロリーも高くなりますよ」
「まぁ太ったら手に入れたローションでお腹のマッサージとかしてあげるから大丈夫!」
「入手したのはポーションだと何度言えば……というか、普通の女子高生は気になる人にお腹のマッサージはさせないんですよっ!……いえ、貴方のことなんてまったく気になんてしてませんけれどもっ!」
ちなみにその日の晩ごはんは『カレー』。
「美味しい……すごく美味しくて、人目も憚らずかきこむように食べてから言うのもなんなんですけど……私が今食べたかったのはこういう『本格インドカレー』ではなく、ドロッとした日本式の『お家カレー』なんですよね」
「その意見には俺も賛同する。これならごはんじゃなくてナンにしておけばよかったよな……肉が無いから出汁的な意味で味が寂しいし」
「ちなみに水玄さんのお家ではお肉は何を入れてました?」
「いや、その会話って同じ県民の間では成り立たなくね?関西圏はだいたい牛肉だろ?というか我がNR県は全国一位の牛肉率らしいぞ?」
カレーのジャガイモはコナコナするので無しか後乗せでお願いしたいです!
てか、外(インド料理屋)で食べるときはバターチキンカレーなんだけど、家ではあんまりチキンって入れないよな。シチューはチキンだけど。
おかわりからはプレーンナン&チーズナンも追加、三回目のおかわりでさすがに食べ過ぎだと気づいたのか少しだけ葛藤した結果四回目のおかわりで食事を終えた葵ちゃん。
「ちょっとお外走ってきます!」
と、彼女と幼馴染が大喧嘩しそうなアニメのセリフっぽいことを言い残して一時間ほどジョギングしてた。
食後すぐの運動はあまりよろしくないってどこかで見たんだけどな……。
あと、運動後にスイカにかぶりつくのはどうかと思うんだ。
『俺は明日の準備があるから』と、先に葵ちゃんを寝かせて作業に入る俺。
作業というかお弁当とおやつ作りなんだけどな!
生き物の住めない死の大地の探索、完全に遠足扱いである。
ああ、ついでだから『アレ』もしておこうか……結局寝たのは日付が変わってからになったけど、いつものことなので気にしてはいけない。
……寝てからどれくらいの時間がたったのだろうか?
地面を響かせる『ドーーーーン!!』という大きな破裂音とけたたましいまでに鳴り響くアラート音で起こされた俺。
「ビックリして心臓麻痺起こしそうになったわ!!てか何事なんだ!?」
「むしろ私が聞きたいんですけど!?何ですか今の爆発!?!?」
寝起きでまったく回っていない頭ではあるがやることは一つ、自然と体が覚えているマップの確認だな。
「うわ……何だこれ……数がまったく分からないくらいに『キャラが大量にスタック』してるんだけど……てか普通のPCなら処理落ちしてるだろこれ」
「相変わらず専門用語的な単語が多くて何を言ってるのかよくわからないんですけど……って、その位置ってダンジョンがあった場所じゃないですか?」
「そういえば……そうなのかな?今のところどんどんキャラが溜まっていってるだけで動き出してはいないみたいだけど……危険かもしれないな」
「しれないどころじゃなく、間違いなく危険ですよ!そんな数の何かに囲まれたり追いかけ回されるのはちょっと勘弁してもらいたいですね」
「確かに。てかさ、明日は遠足で早く寝ないといけないのに何なのこいつら?そもそも今まで全然出てこなかったくせにこのタイミングで騒ぎを起こすとか空気読まなさすぎじゃない?」
「いえ、今はそんな逆ギレしてる場合ではないと思いますけど……そもそも遠足って何なんです?」
「……そう、そうなんだよ、俺は頑張ったんだよ。葵ちゃんと久しぶりのお出かけだし?ア○パ○マンのキャラ弁も作って」
「そのキャラ弁はちょっと食べたいと思えませんけど……というか、調理スキルでそんなもの作れるんですか?あと伏せ字でキャラ名が不動産屋さんみたいになってますよ?」
的確にツッコミを入れてくる葵ちゃんを横目に諸悪の根源たる連中を退治するために急いで服を着る俺。
レーザーライフルを右手に握り、おっとり刀で洞窟を飛び出し、止めてあるトラックに乗り込み、
「あ、葵ちゃんも来るんだ?」
「当然じゃないですか!私、中世レベルの装備品しかないんですからね!?レベルも貴方より低いですし!ちゃんと守ってくださいね?」
「おう!任せろ!」
「いい返事をいただけたのは嬉しいんですけど、寝起きのせいか、貴方の体が緩やかに左右に揺れてるんですけど?運転、本当に大丈夫なんですか?」
「たぶん?」
「そこも『任せろ!』って言ってほしかったんですけど!?」
迷宮の、入り口が見える小高い丘の上まで……安全運転でトラックを飛ばす俺。
現地から見下ろした、迷宮の入り口近くの空間には……、
「うわぁ……マップで見たからいるのは分かるけど……固まっていっぱいいると虫みたいで気持ちわりいな……」
「言ってる場合ですか!?どう考えてもあの数はさすがに無理ですって!いくらなんでも多すぎますよ!貴方のチートな銃でもそれ1丁でどうにかなる数じゃないと思います!とりあえず早く、早くここから逃げましょう!」
見たことのあるような無いような魔物の大群が所狭しと蠢いていた。
さっきからやたらと葵ちゃんが騒がしいけどあえてそれはスルー。
その場で座り込み片膝を付き、銃を構えてスコープを覗……かなくともマップから『ターゲット指定』をすれば後は射撃体勢を取り続ける限り近場の敵を次々と選んでくれるからとても便利!
「社会人の睡眠時間を奪った愚行を悔いながら死ぬがいい、滅びろ邪悪!滅せよ時間外労働!あと独り身は寂しいので結婚前提にお付き合いしてもらえる彼女が欲しいです!!」
「何を呑気なこと言ってるんですか貴方!?嫌ぁぁぁーーー!逃げましょうよーーー!せっかくの異世界なのに無双するでもなく転移すぐに死にたくないですーーー!」
俺はトリガーに乗せた指をゆっくりと引いた。
結論から言うと……いや、そもそも俺がこうして生きているんだから言わなくとも分かっていると思うけど、
「悪は滅びた。やったね葵ちゃん!敵は全部殲滅したよっ!」
「……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます