第019話 風の吹いてる谷間に住んでるあの子……の『敵の殿下』。
「『おお!凄いですよ水玄さん!パーティメンバー同士だと『念話』っていうのが使えるらしいです!ブラジルのおじさん、聞こえますかー!!』」
「『うるさいから叫ばないで?そもそも隣にいるからね?助手席と運転席だからね?てか同じ部屋でスマホで会話してるみたいに、二重に声が響いててむっちゃ違和感を感じるなこれ』」
(人の子よ聞こえますか……?今、貴方の心に直接話しかけています……)
「わかったから、だから普通に喋って?」
などと二人で遊んでるうちにも迷宮入り口に到着。
再度鎧を着込んだ後、葵ちゃんのインベントリに一応トラックをしまってもらう。
ほら、もしかしたら誰かが俺たちと同じように転移してくるかも……ないな。
「既にかなりの量の荷物を入れてもらってるのに四トントラックが普通にしまっちゃえるんだ?もうこれ、葵ちゃんに『しまっちゃえるおじさん』の称号を与えるしかないのでは?」
「そんなものいりませんからね!?あとおじさんは私ではなく貴方です!」
「繰り返しになるけど俺もお兄さんなんだけどな!」
とくに普段と何も変わらない雰囲気の二人。
リラックスのしすぎも良くない気がするけど意気込みすぎて、体がガチガチになってるのも問題だもんね?
ダンジョンアタックの際には持てるなら全員が『明かりになりそうなモノ』を持っている方がいいという、どこ情報かはわからないけど理にかなってそうな気がする葵ちゃんの意見を採用し、葵ちゃんは左手に松明、俺は左手にいつものライトを持って緩やかに下降する迷宮入り口を下っていく。
地上から数歩下ってきただけなのに、奥から吹く風がひんやりとしていてすでに涼しいんだけど?
てか、腕とか肩の筋肉に妙な力が入りっぱなしなんだけど……これ、葵ちゃんよりも俺の方が絶対に緊張してるよな……。
一応付近の安全確認のため、出来るなら魔物の奇襲などを避けたいと思い、左上方に小さくマップ画面を表示してもらえるようシスティナさんにお願いする。
「てか、おそらく迷宮の一階部分の結構な範囲、まだ歩いても居ない部分まで地図がマップ画面に表示されてるんだけど?もちろん魔物とか『宝箱らしきモノ』の情報も添えて」
「何ですかその便利機能……これはもう二人で世界中のダンジョンを荒らし回るしかないんじゃないですかね!?」
「やだよ。普通以上の環境で食べて暮らしていける能力をもらってるのに、何が悲しくてそんな殺伐とした生活を送らないといけないんだよ。『二人で』の部分だけはちょっと惹かれるものがあるけど……てか前方から歩くくらいの速度で敵が二体こちらに接近中!アイコンの形状とその名称から予想すると大きめの蛇の可能性大!」
「むぅ、日本男児のくせに覇気のないツンデレさんめ……了解です!会敵次第飛び道具で蜂の巣にしてやりましょう」
少しでも敵との距離を取るため、直線で確認できるギリギリまで下がって銃を構え、魔物がやってくるまでしばらく待機。
しばらくすると……ウニョロウニョロしながら近づいてきたのは二匹の大蛇。
隣に並ぶ葵ちゃんのクロスボウが『ビュウッ!』と風切り音を鳴らしながらボルトを発射したのを合図に俺も長銃の引き金を引く。
『シュイン』という電子的な発射音とともに光線が次から次と撃ち出され、巨大な蛇が成すすべもなく蜂の巣……粉微塵になった。
「目標消滅?」
「いえ、本当にほぼ跡形もなく消滅してますし……レーザーライフルってそんなに連射出来るものなんです?連射速度的には完全にマシンガンじゃないですか?私なんてどう頑張っても5秒に1射なんですけど」
「まぁ鉄と木材を使っただけの弩弓だから仕方ないさ。レーザー兵器はさすがに暫くは無理だけど、お家に電気が通るようになったら銃器くらいは用意するよ。剣も今は鉄だけど、ミスリルとかアダマンタイトになれば強くなるかも知れないし?」
「ちょっと聞きづてならないことを聞いちゃったんですけど!?えっ?ミスリル?アダマンタイト?」
「ああ、MODで鉱物の追加があるんだよ。スターワールドだとただ硬かったりするだけで大して使い道のない鉱物……いや、俺が使いこなせてなかっただけかも?……魔物、今度は二足歩行のトカゲが3匹!さっきと同じように待ち伏せて殲滅で!」
「了解です!」
一階(地下一階?)部分にはこれといって罠などが仕掛けられているということもなく、その日は『一番近場の宝箱』まで警戒しながらの探索で終了することに。
掛かった時間は往復でおおよそ五時間、倒した魔物の数は合計で40体ほど。
「そこそこ頑張りましたのに、ドロップアイテム的な物が少なすぎると思います……」
「ビー玉サイズの魔石?が13個と……『ボロボロのトカゲ素材』だけだったもんね?いや、素材がボロボロなのはレーザー撃ちっぱなしの全力戦闘だったからだと思うんだけどさ。てもほら!宝箱からローションが出たじゃん!」
「ローションではなくてポーションですけどね?誰も出入りしない迷宮の宝箱から出て来た飲み薬……ちょっと使いたいとは思えない物体なんですけど」
「表示されたテキストを読んだ限りでは効能は全く問題なさそうだけど、確かに気分的にちょっと……だよな。システィナさんに聞いても『スターワールドシステムとは別系統のアイテムなので詳しいことは……』って言われたしさ。でも、もしも本当に飲んだり、傷口にかけるだけで回復するなら『医薬品』を使って治療するよりも安心安全だからなぁ。何にしてもいくつか手に入れてから、動物実験でもしないと怖くて使えないよな」
「あと、最初は私も貴方も同時にレベルが上がりましたのに、次からは私の方が遅かったのはレベルアップに必要な経験値が違うからなんでしょうか?」
「んー、どうなんだろう?パーティを組んで、近くで一緒に戦った場合に獲得出来る経験値はどちらが倒しても均等に入るんだよね?葵ちゃんは入手経験値量とか分かる?」
「まったく分からないです、水玄さんは分かるんですか?」
「詳しく……は、分からないけど、レベルアップに必要な経験値量は分かってるから多少は?でも、どの魔物でどれくらいの経験値が入ったのかはまったく分からないから大した意味はないと思うけど」
スターワールドのレベルアップに必要な経験値は『どの能力値も一律』で『レベル×1000の経験値』。
つまり『レベル2には2000、レベル3には3000』って感じで経験値が必要ってことだな。
バニラ版(アップデートやMODを入れていない素の状態)だと最大レベル、つまり『レベル1からレベル20』にするには209、000の経験値が必要なことになる。
今はMOD『限界突破(オーバードライブ)』を習得しているから気にしなくていいけど、本来なら『一日の獲得経験値5000制限』があるから、『5000を超えた分の経験値は20%』まで下げられちゃったりもする。
「俺の遠距離戦闘と、葵ちゃんが『レベル2』に上がったのは魔物を10体くらい倒したときだったよね?」
「正確には7体目ですね!」
「ちゃんと数えてたんだ?俺のレベルアップ、1から2に上げるのに必要な経験値が2000、7体目で上がったのなら、俺に入っている経験値は……1匹につき300くらい?」
「均等割りと考えて600……いえ、パーティボーナスで2割増えてますから実際は500でしょうか?倒した数が43、600掛けて25800、半分にして12900。水玄さんのレベルアップが7体目、17体目、30体目で必要経験値は2000、3000、4000の合計9000。次のレベルアップまで残り4体でしょうか?それに対して私は7体目と20体目の二回だけ……2000、4000……6000では上がりませんでしたので8000?まさかの必要経験値まで区別されるとは……」
「スラスラと数字が出てきてちょっとキモい。たぶんだけどレベルの概念が違うから仕方ないんじゃないかな?知らんけど」
「そこは『凄いよ葵ちゃん!』って褒めるところだと思うんですけどね?それにしてもですよ、レベル10まで上げるための労力が圧倒的に違いすぎてですね……」
「そもそもスターワールドでは『相手を倒すことによる経験値獲得』なんてシステムが無かったからなぁ。戦闘も他の作業みたいに銃を撃ってる時間、剣を振ってる時間でのレベルアップだったしさ」
「いっぱい強くなって貴方のお姫様を守ってくださいね?」
「まずはお姫様の募集から始めないとだな!」
「もうすでに貴方の隣にこんなに可愛い私が居るじゃないですか!」
間違いなくお姫様では無いんだよなぁ……。
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