第021話 『スタンピード、殲滅!』からのおかわり!

 遠距離からの狙撃――レーザー兵器で連射して撃ちまくるのを狙撃と言うのかどうかは、はなはだ疑問ではあるが――により、敵性生物の集団は綺麗サッパリ消え去った。

 もちろん肉眼で見ただけでそう認識したわけじゃないからね?

 ちゃんとマップ画面を開いて、赤枠の着いたユニット(つまり敵性生物)が残ってないか確認してあるからね?

 てか迷宮の前に何かのアイコンが大量に散らばってるんだけどなんだろうこれ……って、ただの『魔石』か。

 あと、隣で葵ちゃんが目を見開き、口をあんぐりとさせたまま硬直してるんだけど。


「さて、ヤることはヤッたし、とりあえずとても眠いから二人の愛の巣まで戻ろうか?」

「ただの掘りかけの洞窟に妙な名前を付けないでください。というか何なんですあれ?えっと、それってライフルでしたよね?どう見ても発射速度がマシンガンだったんですけど!?あと途中から……いえ、戦闘開始数分で連射速度がもの凄く早くなってましたよね?最初は発射音が『シュインシュインシュインシュイン』って感じだったのに『シュンシュンシュンシュン』になったかと思ったら『シュシュシュシュシュ』になって、最終的には『シュイーーーーーーーーーン』に変わりましたよね?私、未だに耳鳴りが続いてますよ?」

「確かにそんな感じになってたよな。たぶん、『遠距離戦闘』のレベルがむっちゃ上がったからじゃないかな?」

「戦闘開始から数分で目に見えて分かるほど強くなるレベルアップって何なんですかいったい……。一人だけどんどんレベルアップってもう一昔前のチートアニメじゃないですか!その能力を私にもください!いえ、それだけじゃないです!発射速度もおかしかったですけれども!水玄さんが銃を撃ち始めてから魔物が壊滅するまでどれくらい時間が掛かったか分かってます?」


「んー……たぶんだけど二時間弱ってところかな?ああ、もしかしてお腹すいた?でも、夜中にラーメンとか食べると胃もたれするよ?」

「違いますよっ!確かにお腹はちょっと空きましたけれどもっ!二時間、そう、二時間です。その間……弾の補給、いえ、レーザーですからエネルギーパック的な物の交換でしょうか?一度もしなかったですよね?いえ、最初に弩弓を渡された時に『矢は勝手にセットされる』とかいう意味の分からない説明は受けていましたけれども……それってダンジョン内のマナを集めるとか、魔力を消費するとかそういう感じのファンタジー的な力が働いてたんじゃないんですか?」

「違うよ?いや、そもそもスターワールドってファンタジーじゃなく科学の世界だし。武器……弓にしろ銃にしろ、極々一部の迫撃砲とかミサイル以外は矢とか弾っていう概念が存在しないもん」

「ナニソレコワイ……それが本当なら、私が貰った普通の弩弓ですら伝説の武器レベルのチート性能じゃないですか……もうあれですよね?貴方一人で魔王軍と戦えますよね?というより、やっぱり貴方が魔王ですよね?……はっ?もしかして私、魔王にさらわれたお姫様だった?」


「お姫様ってところに文句は無いけど攫ってはいないんだよなぁ……。いや、俺、そもそも戦闘とかしたくないし。何ていうか今回はたまたま?寝起きでおかしなハイテンション状態だったからこんなことになっちゃったけどさ、普段なら絶対に逃げてるよ?」

「お、お姫様は認めるんだ……たぶん水玄さんは今も十分におかしなテンションのままだと思います……。ああもう!なんかほんとにもう!」

「どうどう」

「私はモーリシャス島で絶滅した鳥ではないです!」


「あれ?マダガスカル島じゃなかったっけ?まぁ二人ともこうして無事生還出来たんだからなにより!めでたしめでたしだろ?あっ、幸せなキスとかする?」

「しないですけどね?私、不幸なんで。揃って怪我もなく無事だったのは確かになによりなんですけれども……というかですね、今回の騒ぎって……間違いなくダンジョンのスタンピードですよね?」

「えっと、スタンピードって集団恐慌みたいな意味だっけ?いや、迷宮の入り口で大量の魔物が右往左往してただけでとくにパニック状態では無かったような?」

「細かいことはいいんですよ!大量の魔物がダンジョンから出て来たってことが問題なんですから!何の前触れもなくいきなりスタンピードとか……この世界、一体どうなってるんですか!普通はもっとこう、準備期間とかあるはずじゃないですか!なのに、いきなりの大量発生ですよ?そのうえ誰も見ていないところで事件解決しちゃったら私の報酬とか冒険者ランクとかどうなるんですか!」


「いや、知らんけど……てかこの子、本当に物欲と言うか承認欲求に正直だなぁ……。一応あれだよ?俺達も旅に出ることだし?迷宮をそのままにしておくのは危険だと思ってさ、寝る前に出来るだけの対応はしておいたんだよ?」

「対応……ですか?それは一体、具体的には何をしたんでしょうか?」

「ん?もちろん何も出てこれないように入口を塞いでおいたんだけど」

「えー……まさかの一話目で犯人発見なんですけど……どうして塞いじゃったんですかっ!ダンジョンの入り口を完全に閉じたらそりゃスタンピードも起こりますよっ!勝手に塞いじゃダメってラノベの基本でしょうがっ!」


 なにそれ初耳。そんなルールがあるなんてまったく知らなかったんだけど……。

 だってほら、スターワールドだと入り口さえ塞いでおけば洞窟内の生き物は勝手に出てこれなくなるんだもん、とりあえず塞いどけば大丈夫だと思うじゃないですか?


「はぁ……まぁいいです……原因が分かれば今後の対応も出来ますので……もしもアレが毎日の日課だったとしらどうしようかと思いましたよ……」

「葵ちゃんも朝は弱い感じなんだ?」

「そういうこっちゃないんですよ!朝でも昼でも夜でも嫌なんです!日替わりスタンピード定食なんてお断りなんです!」

「そんなもの俺だってお断りしたいよ……」


 ジト目をこちらに向けてため息を付き、力なく肩を落としてうなだれる葵ちゃん。

 とぼとぼとトラックに乗り込み二人で揺られて拠点まで戻……ろうとしたんだけど、


「ああ、そういえば迷宮の入り口あたりに魔石が大量に落ちてるみたいなんだけ」

「えっ?魔石ってダンジョンの外でもちゃんとドロップするんですか?それも大量に……そんなのもう全部拾うしかないじゃないですか!早く、頑張って一緒に集めますよ!」

「いや、普通に帰って寝たい……はい、了解しました、頑張ります……」


 さっきまでのローテンションが嘘のように食い気味に早口でそう告げる葵ちゃんだった。

 大量の魔石、色んなサイズの赤いビー玉みたいなそれを拾い集めるのに半時間くらいかかったよ……。


「絶望しました」

「寝起き一番でどういうテンションなんだそれは」


 昨日は突発的(?)な魔物の大量発生とその対処のために睡眠時間が削られたため、少し遅めの朝食――むしろ昼食中の俺と葵ちゃん。

 俺の『遠距離戦闘』レベルを聞いた彼女が発した最初の言葉がそれであった。


「だって、貴方のレベルが40なのに私は9なんですよ!?いえ、もちろん計算的にはおかしな所はないんですけれども!それでもこの格差、少しくらい愚痴りたくもなるじゃないですか……」

「穴でも掘って叫んでればいいと思うよ?」

「王様の耳はロバの耳っ!ということで、早速向かいましょう!」

「いや、どこにだよ……」

「もちろんダンジョンですよっ!」


 葵ちゃんと二人並んで迷宮……の外。

 昨日スタンピードが起こった時と『同じ小高い丘の上』、前回と『同じ体勢』で銃を構えて『チュイーーーーーーーン』と、軽快な発射音を鳴らしながらレーザーライフルを乱射する……俺。


「ふっ、ふふっ、ふははははっ!大きな兵士さん!敵を薙ぎ払えっ!……チッ、こいつ、腐ってやがる……」

「なんでやねん。兄ちゃんピッチピチのプリップリやわ!」


 この女、ノリッノリである。


 いや、迷宮に向かうっていうからさ、てっきりまた潜るんだと思うじゃないですか?

 なににこの子、


「とりあえずこの目で確認しておきたいので、昨日と同じようにダンジョンの入口を塞いでください」

「舌の根も乾かないうちにまさかの日替わりスタンピード定食……」


 どの程度の時間入り口を塞げが魔物が溢れ出すのか確認をしたい、あわよくばもっとレベルを上げたい!と、いい出したのである。

 昨日の感じ、迷宮から出てきたすぐの魔物は活動しない(何らかの理由で出来ない?)のなら、それほどの危険はないと思うんだけど……まぁ相手は魔物だしな!気にしても仕方がない。

 ……そもそも魔物とはなんなのだろうか?

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