第017話 甘い(果物がある)生活。

 あれから時は流れ去り……いや、そこまで過ぎてねぇわ。

 新しく野菜と果物のMODを入手してから二週間が経過。この惑星に来てからだと32日目だな。

 その間何をしていたのかと言えば……ほぼ延々と畑仕事である。

『もしかして俺、スターワールドじゃなく『農場物語(ちがうゲーム)』でもプレイしてるのかな?』と思うことが何度もあったからね?


 てかさ、新しく畑を広げなくても、早いものなら2日、一番長いもの(サボテンだな!)でも6日あれば収穫出来るんだよ。

 だから『果物の方はのんびりと植え替えながら色々と試していけばいいや』なんて呑気に構えてたんだけど……


「貴方、何を言ってるんですか?いつ何時採れなくなるかもわからないんですよ?その日が来る前に、二人で100年掛かっても食べ尽くせないほどの高級フルーツを増産すべきではないでしょうか?」

「いや、たぶんそんな日は来ないと……何でもないです、そうだね、畑、ちょっとだけ『倍の広さにしましょう!』いや、それだと収穫と種まきだけでも毎日すごい時間が……」


 葵ちゃんに押し切られてしまい、5面(1面4×4グリッド)だった畑が10面になったさ!

 俺の農業レベル、すでに『19』だからね?明日か明後日には『バニラ版カンストレベルの20』だからね?

 もちろん農作業以外のことはほとんど何も出来なかったのでは調理が『6』になったくらいで大きな変化はない。

 いや、調理レベルが5を超えたから作れる料理の幅もかなり広がったんだけどな。


 農業ばっかりしてた、つまり色々作物を育ててたから食材の種類もかなり豊富になったし。

 食用の油だけでも『綿実油』、『ごま油』、『コーン油』、『オリーブオイル』……その他にも色々とあるけど調理に使うのはこれくらい。

 一番大きかったのは『大豆』が手に入ったことなんだけどね?大豆というか豆乳。

 つまり牛さんや山羊さん無しでバター、レモンも植えたからチーズも作れるようになったのだ!

『さすがに味がぜんぜん違うだろう?』って?ふっ、そこは調理技術(和の木人だな!)さえあれば一流料亭の味。


 焼きトウモロコシと焼きジャガに初めてバターを乗せた時の葵ちゃんの反応……実に良いものだった!

 小麦粉があるから、揚げ物――天ぷらや串揚げも出来るようになったし、サトウキビが完成してからはあんこやきなこでなんちゃって和菓子も作れるようになったし……


「……違う、そうじゃない」

「どうしていきなりの鈴木○之さん?」

「この数日を振り返ってたんだけどさ、記憶の中に食べ物関連以外の成長がほぼ無いんだよ……他の生物すら住んでいない荒れ地で俺は一体何をしてるのかとふと我に返った」

「何と言われましても……スローライフじゃないですか?私も場所はどうかと思わなくもないですが、問題なく暮らせてますし、まぁいいかなって。水玄さんは今の生活に何か不満でもあるんですか?」


「そう聞かれると……毎日のんびりと畑仕事して、美味しいご飯も食べられて、なによりアイドルが裸足で逃げ出しそうな見た目だけ美少女が隣りにいる生活……ナニコレ幸せすぎて怖い!」

「誰が見た目だけですか!内面も含めて美少女でしょう!そもそも貴方ってこの世界では、とくに、こんな不毛の荒れ地では全能に近い力を持ってるじゃないですか?」

「さすがにそこまでではないと思うけど、生活するのに困らない能力はあるかもしれないな。もちろん全部システィナさんのおかげなんだけどさ」

「正直なところ、日本に帰りたいって思ってます?先に言っちゃいますけど、私はもちろん帰りたい!……と、最初の数日は枕を濡らしてましたけど、三度三度おいしいご飯が食べられて、温かいお布団で寝ることが出来るようになった今では『異世界を存分に楽しもう!』って気持ち満々なんですけど。あっ!問題点も一つだけありました!……穴を掘って便座を乗せただけのお手洗い、そろそろどうにかしませんか?」

「枕を濡らすどころかアルミシートの上なのにむっちゃ毎晩快眠してたように見えたんだけどな?トイレなー……電気が使えるようになるまでもう少し待って欲しいかな?」


 ふむ、現状で同居人がこの生活環境にネガティブな気持ちになってないってわかっただけでも随分と気楽になったな。

 てか、最近の女子高生、異世界に対して前向きに考え過ぎではないだろうか?

 これまで俺が聞いた話だけでも、同級生や教師にあまりいい感情を持ってなさそうだったし、もしかして日本にいる時に何か……って、俺が言えたことじゃねぇな。


「何にしてもこの世界――現地では何と呼ばれているのか分かりませんがこの世界をまったく堪能していませんからね!」

「俺もここでの毎日、色々と得難い体験はしてるからな。今のところ『帰りたい!』って強くは思ってないけど……言ってもまだこの状況になってからひと月だからな?これからみ月、半年、一年って経ったらホームシックにかからないとも言えないわけで。どうやってこの世界に飛ばされたのかすら今のところ分からないからどうしようもないってとこもあるんだけどさ。日本での最後の記憶で思い出せるのは『学校の裏門を開けようとしてた』ってことだけなんだけど……まさかあの門が日本と異世界の出入り口だったとかあり得る?」

「無いとも言い切れませんけど、今までそんな話、学生や教師がいきなり消えたとか耳にしたことはないですね。それに、もし仮に裏門が異世界と通じてるとしても、この近隣には何も無いんですよね?小さなカロ……ロンリーメイトの箱ですら表示される貴方のマップにソレらしいモノが表示されてませんもん」


 確かに……その通りだな。


「てことでこれからの大目標は、行動範囲を少しずつ広げて、現地の話の通じる存在との接触……ってことになるのかな?」

「『現地の人間』って言ってくれないことに一抹の不安を感じますがそれでいいんじゃないでしょうか?」

「まぁそのためにはトラックの燃料の入手……つまり知識ポイントの獲得が大前提になってくるんだけどさ。植物油はすでに入手できるからバイオ燃料にさえ出来ればいいだけだからな!」

「バイオ燃料を作るとか、普通なら『どこの化学企業ですか!』ってツッコミを入れるところですけど、貴方ですからできるんでしょうね……はぁ、相変わらず足手まといのままですね、私」


「葵ちゃんは自分の存在価値を低く見過ぎだと思うんだけどな?少なくとも葵ちゃんのインベントリがあるおかげで何倍も作業が捗ってるし。スターワールドで『食材の保存状態』を気にしなくていいってだけでも凄まじいアドバンテージだからね?そもそも、君がそこに居てくれるだけで俺も頑張れるしさ」

「おや?とうとう貴方からの愛の告白ですか?そうですよね?今のは完全に告白でしたよね?録音しますのでもう一度お願いします!リピートアフタミー?」

「ちげぇよ……ただの感謝……かな?一人きりだったら寂しくて、それこそ夜とか泣いてたかもしれないし」


「くすっ、何ですかそれ……そもそも、お礼を言うのは私の方ですよ。もしもこの世界に貴方が居なければ私はとっくに死んでますからね?」

「まぁこんな無人の荒れ地に一人で放り出されたら普通は死ぬわな」

「それだけじゃなく!て、ですね。ちゃんとした場所、どこかの街の中で立っていたとしても……貴方以外の、他の人と一緒だったとしたら……私は今みたいに笑えてないですよ?」

「……そっか」


 いかん、お互いに感情が高ぶって変な感じになってる!

 これ以上一緒にいるのは危険そうなのでここは緊急退避一択である!


「とりあえずメロンでも切ってくるわ!葵ちゃんは他に食べたいモノとかあるかな?」

「もう!……まったく貴方って人は……。そうですね、フルーツ盛り合わせとピンドンでも入れましょうか?」

「どこのホストクラブやねん」


 まぁそんな、葵ちゃんに言われるように田舎でスローライフを送っているような生活ではこれといったミッションをクリア出来ているはずもなく。

 今回増えていたのは、


『農地範囲50突破:1ポイント』

『生産作物10種類:3ポイント』

『生産作物30種類:3ポイント』

『生産作物50種類:3ポイント』


 だけ。

 いや、10ポイントは十分増えていると言ってもいい結果だな。


「これでやっと残りの二つ、香辛料と調味料の追加が出来ますね!」

「さらに食生活の充実を目指すだと……もちろんその意見に反対は無いんだけどさ。そろそろ近隣の探索、出来れば知的生命体の発見、贅沢を言うなら人型……人間を探したいんだよね。今のところ、この世界の事なにも知らないじゃん?まったく情報が無い現状がかなり不安なんだよね」

「あー……確かに、この近隣には生き物一匹いませんけど、徒歩圏内にドラゴンが住んでましたとか洒落になりませんもんね。いえ、そもそも徒歩圏内にダンジョンがあるんでした」


「そうそう、迷宮があるんだよね……だからちゃんとした葵ちゃんの武器防具を整えて、入口近辺くらいは入って確認もしておきたいじゃん?」

「ダンジョンアタック……それはとてもいい考えだと思います!でもダンジョンの中で追放された冒険者を助けてワンナイトラブ、あまつさえ同居とか絶対に許可できませんからね?」

「人間どころか虫すら見たことないのに、どこから来たんだよその冒険者は……」

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