第015話 ホカホカごはんを混ぜるだけっ!

 前回と同じように、竈門の上部、中華鍋のようになったくぼみにお米を100グラムほど放り込むことからスタート。

 前回と違うのは、そこに水とお塩を適量追加したことか?SEはそのままの『ジャージャー』音で、調理方法もシャモジで混ぜるだけ。

 掛かった時間も同じなんだけど完成品が……。


「ホカホカと美味しそうな湯気を上げる塩むすびです!いや、そうはならんやろ!あの工程で出来るのはおにぎりやなくておかゆやろ!……まぁこうして完成してるからいいんだけどさ。葵ちゃん、おあが」

「いただきますっ!!」

「むっちゃ食い気味に食べ始めただと!てか、俺の思ってた女子高生のおにぎりの食べ方と違うんだけど……予想ではこう、両手で可愛く持って『子リスさんがクルミを齧るみたいに少しずつ食べ進める』姿を想像してたのに……現実では『両手に一個ずつ持って交互に食べる』という荒業……昭和のテレビに出てくるワンパク小僧かデフォルメされた相撲取りの食い方だよねそれ?」

「ふもっ!?あんですこえ!?すおあぎらけなおにむ”っぢゃおいひいれす!!」

「とりあえず会話ところか日本語にすらなってないからね?それもう復活の呪文だろ?口の中にごはんが入った状態で、むしろ口におにぎりを押し込みながら喋るのは止めようね?喉に詰まったら危ないからね?話すなら一旦おにぎりをおいてから……ああ、黙るんだ。喋る方を止めて食べる方に集中するんだ。てか食うの早えぇな!?いや、ひっぱらないで?こっちのお皿は俺のだから!そんな悲しそうな顔しなくても新しいの作ってあげるからさ。おかず……トウモロコシは合わなそうだしジャガイモも合わなそうだけど……いる?」

「いただきますっ!!」


 彼女に惚れてる男子が目撃したら百年の恋も冷めそうな、見事な食いっぷりの葵ちゃん。

 まぁ久しぶりのまともなご飯だもんね?お米はたくさんあるからいっぱいお食べ。


 ………

 ………

 ………


「ふう……最後に熱ういお茶が一杯怖い?」

「落語か!お茶の木はまだ植えられないからお水で我慢して?」

「スターワールドってそんなものまであるんですか?私の中では何のゲームなのか全く想像つかないんですけど……いえ、そうじゃなくてですね、なんなんですあのおにぎりは!絶妙な塩加減といい、手で持っても形崩れしないのに、お口に入れるとホロホロ解ける握り加減といい……もしかして水玄さんって前世はおにぎり屋さんだったんですか?」

「勝手に一回死んだことにするのやめて?いや、見てたから知ってると思うけど『料理の木人』っていう、料理のレパートリーが大量に増えるMODを取ったからだよ。てかスターワールド自体は極々普通のコロニー開発ゲームなんだけどね?MODを作成、追加してるのって基本的にプレイヤーだからさ、悪ふざけみたいなモノが大量にあるんだよね」

「なるほどなー」


 話を振っておいてその興味を一切示さない生返事……嫌いじゃない。

 トウモロコシもジャガイモも美味しかったけどやっぱり米!久しぶりの炊きたてご飯……とても美味しかったです!


 食休みの後は大部屋に家具とミシンの設置作業。

 ミシンは違う部屋にしたかったんだけど……どうせ今作れる『足踏みミシン』から『電動ミシン』に作り変える予定なので、短い付き合いだしな。

 サボテンの育成が順調だから木材の補充をあまり気にしなくてよくなったのが地味に嬉しいんだよね。

 木材、電気を使うようになったら火力発電の燃料としても使うし……。


 話がそれてしまったので軌道修正。家具の話である。

 まずはベッド……『すのこベッド』からだな。サイズが小さいと寝づらいのでセミダブルサイズのモノが二つ。

 最初の一台を組み立ててる時に葵ちゃんが、


「これからは一緒に寝る感じですか?」


 と、普通の顔で聞いてきてたけどそんなはずないだろうが……。

 大部屋の上部、右端と左端に一台ずつベッドを設置しようと思ったんだけど……俺と葵ちゃん、この惑星に来てから今まで寝息が聞こえる距離での雑魚寝だったじゃないですか?

 これって、日本で同じ経験をしようと思ったら『10分単位でそれなりの高額料金』が発生するサービスじゃないですか?あるいみリフレじゃないですか?葵ちゃん、離れて寝ててもなんかこう良い匂いがするし。

 もしも葵ちゃんに聞かれたら『貴方、人のこと絶対に口説かないって言っておきながら匂いを嗅いでるとか正直ドン引きです!』ってキレられそうな雑念が入る俺。男の子だから仕方ないね?


 もちろんそんなモノは全て振り払って端っこと端っこで隅っこ睡眠することにしたんだけどな!

 なのに、


「……別にそこまでベッドを引き離す必要はないんじゃないですか?」

「一応年頃の男女だからね?お部屋が広くなったらそれなりの対応をしないとさ」

「水玄さんって口を開くと二言目にはセクハラ発言が出てくるわりに、そういうモラル感がもの凄くしっかりしてるんですよね。……こんな異世界に放り出されて二人きりの生活、私だって人のぬくもりを近くで感じたいと思うことだってあるんですよ?」


 なんて、少し寂しそうな顔で言われたらちょっとだけ胸がキュンと……騙されるな俺、これは孔明の罠だ!

 彼女は演劇部(きっと部長)。俺を惚れさせて告白させて振ろうとしてるだけなのだ!


「ふっ、俺じゃなきゃ引っかかっていたね」

「貴方、また余計なこと考えて変な結論を出してますよね?」


 てことでベッドの設置は完了。ベッドっていうか現状ただの箱みたいなもんだけどね?

 続いて作るのはダイニングテーブルセット。食堂のテーブルと椅子だな。

 こちらはとくに何も迷う必要なく四人掛けのセットを一つ作って終了!

 ミシン台も右下の壁際に設置するだけなので問題なし。


「家具を置いたら結構落ち着くもんだな。壁とか床とか天井が岩盤剥き出しのままだからちょっと地下地下しすぎてるけど、それも秘密基地っぽくて味があるっていうか」

「なんですかその『地下地下しい』というワードは……」


 だって、誰が見ても『地下だな』って思う空間なんだもん。

 もちろん下に向かって傾斜してるわけじゃないから地下ではないんだけどね?

 まずはベッド回りの完成を目指したいので、『作りたい物』の材料を確認……どうやら木綿と鉄でいけるみたいだ。

「葵ちゃん、ちょっと運んでもらいたいモノがあるから鍛冶場まで付いてきてもらってもいいかな?」

「もちろん構いませんけど……言葉のニュアンスだけで見ると女性が男性にお願いすることですよね、それ」


 鉄と木綿を鍛冶台の上に並べてトンテンカンテントン……ほのかに漂う小島○しお臭。

 おおよそ50分ほどかけて完成したのは、


「スプリングの入ったマット~」

「いえ、おかしいですから!どうして鉄の塊をハンマーで叩いただけでスプリングになるんですか!?カバー部分なんて加工もしていないただの綿でしたよね!?」

「ふっ、これが内ゲバとは無縁の『富士山・桜家具』の実力なのだ!」


 もちろん二つ作ってベッドの上に設置。

 次にミシンでお布団を縫い上げたんだけど、そちらの方はインパクトが低かったらしく、作ってる時の葵ちゃんの反応が薄かったのが少し寂しかった。


「これでやっと寝起きに首が痛くなる、寝ても疲れの取れない硬い地面の上から解放だよ……」

「私は貴方がアルミシートを引いてくださったことだけでも嬉しかったですよ?……もちろんこのお布団も凄く嬉しいですが!ふっかふか、ふっかふかです!というか、どうして枕は二つずつあるんです?」

「どうしてと聞かれても……どうしてなんだろう?個人的には(女の子の)腰の下に引いて高さの調整をするためだと思ってたんだけど」

「腰の高さの調節ですか?腰痛の緩和とかそういう?」


 もちろんお尻を持ち上げてこう……とか説明できるか!!

 これ以上ツッコミが入るのも面倒なので服の生産に入る俺。


「勢いだけで先にお布団から縫っちゃったけど、ミシンを作った本来の目的、暑い夏でもお外で活動できるようにそれ用の衣服とか着替えを作っておこうと思うんだけどさ」

「着替え……半月以上そのままですもんね……」

「えっ?葵ちゃんって半月もそのままだったの!?」

「何ですかその反応は!?それに関しては貴方も同じじゃないですか!!」


「いや、俺は二日に一度は洗濯してたけど?トラックのダッシュボードでパンツ乾かしてたけど?おち○ち○フリースタイルで農作業してたけど?」

「必要のない情報をありがとうございます!私だって洗うくらいはしてましたよっ!」

「なん……だと……つまり、俺の近くにノーパン女子が存在したと……」

「残念ながらよく絞ってそのまま履いてましたので!というか何の話ですか!」

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