第012話 もしかして:『ジャイ○ンリサイタル』?

 葵ちゃんからの恨めしそうな視線を振り切って、俺は今日の作業を開始することに。

 そう、せっかく農業系のMODと技術を手に入れたんだからもちろん農作業の開始!……と、見せかけておきながら先に『鉄製の道具』の作成からなんだけどね?

 鉄の斧、鉄のハンマー、鉄の鍬~♪……うん、むっちゃ葵ちゃんに見られてるからついでに『鉄の剣』も作っておこう。

 石材加工のおかげで工作レベルが『4』まで上がってるけど、まだまだ見習いレベルしかないので出来上がったのは『不良』品質の長剣なんだけどさ。

 それでも石斧よりは見た目もいいのでそれなりにご満悦な笑顔で『ありがとうございます!』というと、少し離れたところで素振りを始めた彼女。

 剣をプレゼントする俺もどうかと思うけど嬉々として振り回す女子高生もなんだかなぁ……。


 ご機嫌ならそれに越したことはないので、余計なツッコミは入れずに俺は俺のお仕事に入ることに。

 拠点の洞窟というか、石造りの作業小屋から少し離れた場所を農地として範囲指定したあとはいつものオート作業の開始である。


「鍬を振り上げて……おろす、鍬を振り上げて……おろす」


 と、ただただ鍬をふり続けるだけの作業になっている。

 これもうちょっとした一揆じゃね?……飽きるわ!5分で飽きるわ!

 もちろん飽きたからと言ってスターワールドのシステムを使って作業が出来るのは現状では俺だけ、頑張らないと食べ物に不自由することになるから鍬を振り続けるんだけどさ。

 てかさ、1グリッドの農地を完成させるためには、


『土壌改良で荒れ地を肥沃な土地に変える(鍬をふる)』

 ↓

『農地として使えるように開墾する(鍬をふる)』

 ↓

『畑の土に肥料を混ぜる(鍬をふる)』

 ↓

『種を植える(鍬をふる)』


 という、傍目にみてるだけだと同じことを繰り返してるだけの『四行程の』作業が必要なんだよね……それも農業レベルが1しかないから、

『土壌改良(30分)+開墾(30分)+肥料(30分)+種植え(10分)』

 で、合計100分掛かるという……。

 いや、1レベルごとに2.5%作業時間が短縮されるから正確には97分30秒なんだけどさ。ただの誤差だからさ。


 作業開始時には『この人、今度は何をするんだろう?』って顔でこっちを気にしていた葵ちゃん、あまりにも変化のないその作業風景に10分で飽きたらしく、そのあとは黙々と素振りしてた。

『進学校の制服姿で剣を振る美少女女子高生』と『ジーパン姿で鍬を振り下ろす普通の兄ちゃん』、やってることはそれほど変わらないんだけどねぇ?

 てことで、体は動いてるけど頭は自由に使える、むしろ退屈で死にそうな俺。

 スターワールドの『能力』について覚えていることの復習をしておくことに。時間は有効に使うべきだからな!


 上から順番!ってわけでもないけど、最初は『戦闘系』の能力。

 まぁ『近接』と『遠距離』の二つしか無いんだけどね?


『近接戦闘』

 素手での殴り合いから剣や斧など武器を持った殴り合いまで、『相手に与えるダメージ』、『防具で防げるダメージ』と広範囲な戦闘力をひとまとめにした能力値。

 純粋な腕力、力こそパワーな脳筋的な能力値だな。

 もっとも、近接戦闘なんてすると確実に自分も怪我をするのであんまりやりたくはないんだよなぁ……。


『遠距離戦闘』

 近接から変わってこちらは遠距離攻撃関連。投石や弓矢、銃からミサイルまで。敵の攻撃を避ける『回避』関連のステータスはこちらに含まれるらしい。

 いや、ミサイルは違うだろう……と思うけど『スターワールド』ではそうだったんだから仕方がない。

 てか『バニラ版(大規模アプデやダウンロードコンテンツなどを入れていないノーマル版)』にはミサイルなんて登場しないんだけどね?


 戦闘行為なんて避けられるなら避けたいんだけど、見える場所に『迷宮』なんてものがある世界だからなぁ……。



 続いては生産系の能力、ゲームでは核となっていた能力だな!


『建設』

 建物を建てたり家具を作ったり何でも出来る大工さん。

 レベルが低いと作業に失敗することがあるのは他の能力も一緒なんだけど、複数素材が必要な作業で失敗すると使った素材が半分(端数切り捨て)になるので結構キツイ。

 ちなみに作ったモノを解体する時も素材は半分になるが返ってくるのは地味にありがたい。

 初期技能:『壁の建設』『扉の設置』『床を敷く』『天井を張る』『原始的な竈門』


『採掘』

 いわゆる穴掘りのことだな。鉱物資源の回収能力でもある。なので地味だけど使用頻度はもの凄く高い。

 レベルが低くても掘ることに失敗はしないけど、レベルが上がると鉱物資源の入手量が(微々たるものだが)増えてゆく。

 初期技能:『採掘(岩壁に穴を掘って石塊を手に入れる、埋蔵資源がある場合はそれを掘り出す)』


『農業』

 開墾、種植え、伐採、採集~と植物関連全般。

 レベルが低いうちは植えられる作物が少ない……。

 でも他の作業と違い『開墾(何もないところを耕す作業)』や『草むしり(むしるだけなのでとくに何も入手出来ない)』で経験値が増えるのでレベルは上がりやすい。

 初期技能:『開墾(土地を畑にする)』『種植え(畑に作物を植える)』『伐採(木を切り木材を入手する)』『採集(野草や果物、キノコや薬草など自然に植生しているものを刈り取る)』『草むしり(雑草を抜いて見た目を良くする、火事の際火が燃え広がりづらくする)』


『馴致』

 野生動物の調教やペットの忠誠度を上げられる。

 レベルが高いと動物との戦闘でバフがかかったり、解体時に取れるお肉の量がそこそこ増えたりする。

 初期技能:『馴致(餌をあたえることで野生動物の敵愾心を取り除き懐かせ家畜化する、家畜の場合は飼い主との友好度を上げる)』


『調理』

 食べ物を美味しく作る能力。要・キッチン(竈門)。

 レベルが低いと焼くくらいしか出来ない上に注意していないと食中毒を起こすことも。

 初期技能:『簡単な料理(焼き物(素材を焼いただけ)煮物(素材を煮ただけ))』


『工作』

 建設と似てる、むしろ建設作業の中に『お前は工作だろ!』って作業もあるけどこちらは色々な『作業台』を使って何かを作るときに必要な能力値。

 言わずもがなだが、料理や製薬も作業台を使うけどそっちは専用の能力があるので工作ではない。

 レベルが低くとも作業に失敗はしないけど、出来上がった製品の品質により性能が大きく上下する。

 初期技能:『石器制作(最低限の道具を作れる)』


『芸術』

 絵を描いたり彫刻をしたり。

 木材や石材を使って売り物を作ることが出来るんだけど……そんな作業をするなら他にもっとやるべきことがあるんだよなぁ。

 初期技能:なし


 医術

 薬の調合や病人の治療。

 仲間に一人はレベルの高い医者がいないとちょっとした怪我で死人が出るので重要度は高い。

 初期技能:『手当(薬草や薬品を用いて怪我や病気を治療する)』


『外交』

 他のコミュニティと接触した時に有利に交渉する能力値。

 ……なんだけど、これ、現実世界……じゃなくて、異世界では死にスキルじゃないかな?

 初期技能:なし


『知識』

 本来は新しい技術を獲得したいときに机の前でゴソゴソするための能力値だったんだけど……。

 現在は技術の獲得以外にMODの入手にも必要な最重要能力なんだけど、増やす手段が限られすぎてて……。


 パッと見だけでも分かる芸術と外交の『これ、役に立つのか?』感が凄いな。

 ま、まぁほら、使ってみればなんかこう……いい感じになるのではなかろうか?


 初日に6グリッドのトウモロコシ畑、二日目が5グリッドのジャガイモ畑といつの間にか増えていたので試しに植えてみた2グリッドの野いちご畑、三日目と四日目は8グリッドずつのサボテン畑を完成させた俺。どう考えても働きすぎだけど、やってる本人はそれなりに楽しかったので気にしてはいけない。


「なんていうか、農業ってとても地道な作業なのだと再認識させられました……ていうか朝晩の食事の時に貴方と話す以外にはすることがなさすぎて闇落ちしそうになってましたよ私」

「葵ちゃんは素振り中に、たまに横目でちらっとこっち見てただけで農作業に関しては何もしてなかったんだけどね?闇落ちって……確かに黙々と無表情で、風切り音を立てながらなまくらな剣をふり続ける姿はなかなか鬼気迫った感じで怖かったけれども……」

「わ、私だって何かお役に立てるような作業があるならお手伝いしたかったんですからね?でも私なんて、笑顔で貴方のやる気を上げるくらいしか出来ない、そんな可愛い美少女でしかないじゃないですか……そもそも私が鬼気迫った表情になったのは、作業中にいきなり大きな声で音程ハズレのアニソンを貴方が歌い出した事による危機感からなんですからね?この環境に耐えきれず、とうとう狂ってしまったのかと思いましたよ?」

「正確にはアニソンじゃなくてゲーソンなんだけどなぁ。残念ながら往年のMMOプレイヤーは、この程度の単純作業で心が死ぬほど軟な鍛えられ方はしていないんだよ。1日15時間、数日プレイして経験値が1%しか上がらないとか……じゃなくてだな。えっ?ちょっと待って、音程ハズレってなに?歌に関してはそこそこ上手だって飲み屋のオバ……お姉さん達に褒められたこともあるんだけど?」

「そりゃお相手もご商売でしょうし?音程もですけど、とにかく癖が凄いんですよね。シャウトのところとか真面目なのか笑わせにきてるのか反応に困りましたもん」


 悲しいお知らせ:俺氏、どうやら音痴だったらしい。

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