第009話 一つ積んでは『竈門』のため……。

「ん……うん?……どわっ!?……なんだ、葵ちゃんか……てか、寝起きに真顔の女が髪を垂らしてこっちを見つめてるとか心臓の弱い人間ならそのままショック死してたからね?」

「だってとくにすること……というか、出来ることがないんですもん」


 寝起きバズーカならぬ、寝起き女子高生。

 男からすれば喜ぶべき状況なんだろうけど……普通に怖かったから思わず叫び声をあげてしまった俺である。

 寝転んだままだとそのまま二度寝に入っちゃいそうなのであぐらを組んで座った後、ヨガのような体勢で背筋を伸ばす。

 ちなみに俺が女の子にオススメしたいヨガの体勢は『猫のポーズ』。後ろから眺めると最高である!


「あー、たしかに一人で時間を潰せるようなモノが何もないもんね?暇つぶし用にダンボールでチェスとか将棋とか作ろうか?」

「それって一人でする遊びじゃない……いえ、貴方は一人で暗い部屋の中で薄笑いを浮かべながらやってたんでしょうね、なんかごめんなさい。いえ、そうじゃなくてですね、あの、えっと、ありがとうございます」

「何故謝ったのかその理由を聞いてもいいかな?そしてどうしていきなりお礼?」

「いえ、私が寝苦しくないように、なんかこう涼しくなるやつ、作ってくれたんですよね?」


「ああ、まぁ、俺も一応女の子に多少の気遣いくらいはするからさ。……じゃなくてだな。べ、別にあんたのためだけじゃないんだからねっ!」

「オッサンのツンデレ……キモっ」

「表情と声に感情がこもった罵倒の一言やめろや!」

「ていうかですね、外に出たら昨日はなかった井戸があったんですけど……あれって一晩くらいで掘れるものじゃないですよね?覗き込んだらかなりの深さでしたし」


「そもそも材木を組み立てただけで掘ってはいないんだけどね?」

「相変わらず意味がわからない能力ですね……。さて!貴方も起きましたし、一緒にお昼ごはんにしましょう!……って、どうしてそんな呆然とした顔をしてるんですか?」

「葵ちゃん、いいかい?江戸時代のお百姓も中世の農民もお昼にご飯なんて食べなかったんだよ?」

「私は現代の女子高生なのでお昼にはお腹がすくんですよっ!」


 慣れてきたのかちゃんと空腹を伝えられるようになった葵ちゃん。これって気心がしれてきたって認識で良いんだよね?


「まぁ、あれだ。繰り返しになるけど、喉が渇いた時は即座に水分補給、空腹時も適当に食べてくれていいからね?」

「それは分かっているんですけど……一人で食べるのって美味しくないじゃないですか?」

「そもそも保存食自体がそこまで旨いもんじゃないからなぁ……うん、今日の目標は竈作り……いや、その前にちゃんとした道具作りの為に鍛冶場の建設だな」

「鍛冶場を作るとか、とても一日二日で終わるような作業だとは思えないんですけど」


 井戸で顔を洗って歯磨き――指に塩を付けて歯を擦れば朝食の時間。昨晩に引き続き二人並んでパッサパサタイムである。


「食事が数分で終わるのとか非常に寂しいよね……」

「私はご飯が頂けるだけでもありがたいと感謝する立場ですので……」

「俺の知ってる傍若無人な葵ちゃんとは思えないしおらしさ……さては貴様、偽物だな!?」

「私だって色々と考えることも反省することもあるんですよっ!!」


 頬をプクッと膨らませる葵ちゃん。年齢相応に振る舞う姿はなかなかに可愛らしい。


「それは良いことだと思うけど、二人しかいないんだからさ。お互いに言いたいことを口にするような関係のほうが気楽で嬉しいんだけどね?」

「それはそうですけれど……じゃあ、近江牛か、松阪牛か、神戸牛のフィレ肉が食べたいです。牛タンは厚切りよりも3ミリくらいの薄切りの方が好きです」

「手のひらを返すようで悪いけど少しは遠慮して?てか、食えるもんなら俺だって食いてぇよ!そして3ミリ厚の牛タンは俺の中では厚切りなんだけど……まぁ、食事関係はこの二~三日で多少は改善させるよ」


 さて、ちょっとだけ食休みしながらマップ画面を開いて開始するのは『鍛冶場の設計』……の前に『必要な技術の研究』である。

 でも知識の残りが『3』しかないから、最高でもあと三つしか技術が取れないんだよな……。

 まぁ鍛冶をするための『原始的な炉』と『鍛冶台』の作成に必要な『鍛冶』と『石塊加工』の二つを取らないと仕方ないんだけどさ。

 石塊加工に関しては『原始的な竈門』を作るのにも必要だしな。


「クッ……これで知識ポイントの残り1……」

「そういえば、そのポイントってコミュニティ……じゃなくて『コロニー』でしたっけ?の、人数を増やせば貰えるんですよね?……というか、どうして私は未だにそのコロニーメンバーに参加させてもらえてないんですかねぇ……?」

「だってほら、俺と葵ちゃんは違う『システム』で活動してるっていうか、今持っている能力はそのシステムから貰ってるものじゃん?下手に葵ちゃんをメンバーにしちゃうとインベントリとかインベントリとかインベントリが使えなくなったら大事じゃん?」

「完全に荷物持ち扱いしてますよね!?もっとほら、インベントリ以外の存在意義もあるでしょう!!」


 まぁ心に潤いは与えてくれてるんだけどさ。

 でもそれってスターワールドだと『脱出ポッドで一緒に避難したペット』の役割なんだよなぁ。

 本人に聞かれたら絶対に怒られるから言わないけどな!


 技術研究が終われば、今度は鍛冶場の場所の選定に入る。

 と言っても『穴を掘るための道具作りの施設建設のために穴を掘る』のはそこそこ頓珍漢な行動なので拠点を拡張するのではなく、洞穴の前、岩壁に沿って小屋を建てることに。

 建設に必要なのはもちろん木材なんだけど……各種作業台の作成とか家具の作成、今から作る鍛冶や竈門の燃料にも必要なので無駄遣いは出来ない。

 つまり『石塊加工台』を作って石材に加工、少しずつ小屋を建てていくしかないのである。


 拠点に向かい右手に『原始的な炉』と『鍛冶台』の小屋、左手に『石切台』と『原始的な竈門』の小屋の二つの設計図を引いておいて、まずは左手、壁際に石切台を作成。


「葵ちゃん、昨日拾ってもらった石塊をそのへんに全部出しておいてもらえるかな?出来れば徒歩範囲内で回収できる石塊を拾ってきてもらいたいんだけど」

「了解です!水玄さんは……その変な机で何かするんですよね?」

「そうそう、石塊を石材に加工。延々と同じ作業の繰り返し……。ああ、二時間に一度は拠点で休憩、絶対に三時間以上野外活動はしないようにね?言わなくてもわかってると思うけど水分補給はこまめにすること!」

「わかりました!休憩の際には貴方にも声をかけますので一緒に休憩しましょう!」


 オートで作業をしてると時間の経過が曖昧になりそうな俺には非常にありがたい申し出である。


 置かれている石塊を拾って台の上に乗せて加工。

 置かれている石塊を拾って台の上に乗せて加工。

 置かれている石塊を拾って台の上に乗せて加工。

 ……基本的に単純作業の繰り返しが多いんだよなぁ。

 ちなみに石材への加工方法は、石塊を台に乗せて『足踏み式の丸のこ』に押し当て続けるだけ。必要時間が経過すればポンッと完成である!


『石塊1』を『石材20』に加工するのにかかる時間がおおよそ35分(30分+屋外作業のデバフ20%)。

 小屋を建てるのに必要な石材が(石壁9枚×2棟×10で180個)+(屋根16枚×2棟×5で160個)の合計340個。

 原始的な炉と原始的な竈門の生産に必要な石材が100ずつで合計200個。

 たまに建設(作成)に失敗しちゃうので追加の石材が40個。

 つまり石材の加工だけで丸々二日、小屋の建設と炉、鍛冶台、竈門の設置にも丸々二日の四日かかってやっと……。

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