第008話 (・×・)(・×・)(・×・)(・×・)(・×・)

「地面は固いし上に掛ける毛布もない……一応積み荷に被せる用の野良犬でも使わないような小汚い毛布があるけどいるかな?」

「貴方のそのお心遣いはとても嬉しいですけど、本当に小汚そうなのでその毛布はご遠慮しておきます。……というかあの銀色の敷物の上に二人で寝るんですか?」

「さすがにあんな狭いスペースに二人は無理だろ……いや、洞窟内が縦3m、横2mほどしかないからアルミシートの上じゃなくても、狭いことに変わりはないんだけどさ。出来るだけ早めに居住空間は広げる予定だから、少しのあいだだけ距離が近いのは我慢して欲しい」

「そういうしおらしい態度は止めてくださいよ……あまり優しくされると気の迷いで貴方が格好良く見えちゃうじゃないですか……もっとこう、これまで通り、ただのセクハラオヤジの水玄さんのままでいてくださいね?」

「誰がオヤジやねん!まだまだ兄ちゃんやっちゅうねん!てか俺、そこまでセクハラしてないよね?大丈夫だよね?」


 と、言い終わるかどうかの時に、葵ちゃんのお腹が『くー……きゅるきゅる……くるっ』と鳴る。


「……鳩?」

「お腹がすいてるだけですよっ!」

「そういえば朝から水、それも500ミリ飲んだだけで何も食ってねぇな……いや、どうしてもっと早く言ってくれない、むしろ保存食は葵ちゃんのインベントリに入れてもらってるんだから適当に食べればいいのに」

「あのねぇ……拾い物だとはいってもこれは貴方の物じゃないですか?さすがに勝手に食べたりは出来ませんよ。それに何もしてない私がお腹が空いたとか……そこまで図々しい女じゃないですからね!」

「えっ!?」

「貴方は一体、私の今の発言の何に対して驚いた声を上げたんですかね……?」


 もちろん図々しくない発言に対してですが何か?


 結構豪快なお腹の音を俺に聞かれてしまい、真っ赤な顔でジト目をこちらに向ける葵ちゃん。まぁ女の子らしい可愛らしい音じゃなかったから仕方ないね?

 長時間の車の運転と穴掘りという労働による疲労だけでなく、一日中日光に当たっていたことによる海水浴とかプールの後にも似た疲れ、そして見知らぬ土地どころか未知の大地に放り出された事による精神的疲労も重なり……結構クタクタになった体に染み込む、


「パッサパサ、パッサパサだよ葵ちゃん……腹は減ってるのに喉が粉っぽさを受け付けないんだけどどどどど。そもそもカロリー……じゃなくてロンリーメイトって俺の中では間食であって主食にはならないんだけど?」

「私もその意見には大いに賛同いたしますが、他に食べるものが無いんですから仕方がないじゃないですか。むしろ保存食が用意されているなんて奇跡に感謝して食べるべきだと思いますよ?」

「もちろんわかってはいるんだけどね?せめて鍋があればとか考えちゃってさ。もし俺の趣味がキャンプだったとしたら!たまたま飯盒がトラックに積みっぱなしにされていたら!今すぐにでも米が食えるのに!おかずも、中に入れる具材も無いからただの塩むすびになっちゃうけど」


 保存食の粉っぽさ。

 いや、染み込むんじゃなく、水で流し込んでるだけだな。


「どうみてもアウトドアな雰囲気じゃない貴方がキャンプですか?そもそもあのトラックってお仕事用なんでしょう?もしもキャンプが趣味で飯盒やキャンプ道具を積みっぱなしにしていたとしてもそれは普段乗っている自家用車ではないですか?」

「ぐうの音も出ないロジハラやめろや!でも米があるんだよ?だったらごはんが食べたいじゃん……いや、『原始的な竈門』があればワンチャン米が炊けるかもしれないか?」

「それは今すぐどうにかなりますかね!?私もこんなコナコナしたものよりしっとりしたおにぎりが食べたいです!」

「少しでもご飯が食べられる可能性が出た途端にこの態度の変化よ……さすがに今からは無理なんだけどさ」

「ですよねー……」


 某一人で飯食うおっさんの『食事は満たされたウンタラカンタラ』みたいな、うろ覚えの蘊蓄を思い出しながらもくもくと、アッという間に夕食、食べてる時間的には受験勉強中の夜食のような食事が終了。

『疲れてるだろうし先に寝ていいよ?』と、遠慮がちな葵ちゃんに手回し充電ライトを渡して洞窟の扉を閉めようとするも、


「いえ、何か作業をするならライトは水玄さんの方が必要じゃないですか?私は休むだけですし持って行ってください」

「でも洞窟の中は真っ暗だよ?外は最悪月明かりとか星明かりもあるし遠慮しなくてもいいんだよ?」

「子供じゃないんですから……真っ暗でも、外に貴方がいるって分かってますし、それほど不安にもなりませんよ?もちろん貴方がいることに対する不安はありますけれども」


 ライトは不要だと遠慮された。


 てか、ゲームだと洞窟の中は夏なら涼しく、冬なら暖かかったんだけど、

(夜間、日陰ということで外気温よりも3℃ほど低くなっています。さらにもう少し奥まで掘れば、具体的には入り口より5グリッド以上奥の空間であれば日中でも外気温より5℃ほど涼しくなります)

 たかだか2グリッド分ではそれほど涼しくならないらしい。

 てか今の温度。一応季節はまだ春、そしてこんな夜中でも36℃もあるのな……。


 洞窟の中は33℃。一応熱中症にはならない範囲とはいえ、日本でなら猛暑日って呼ばれそうなほどの高温。暑いものは暑いわけで。

 いや、俺はそれで済むけど、お嬢様っぽい葵ちゃんはこの環境キツイだろうなぁ……いや、ダメじゃん!36℃だと俺も休憩しながらじゃないと普通に熱中症おこすじゃん!

 まぁそんな、トラックで冷房に当たりながら作業すればいい俺のことは置いといて、今は洞窟の中、寝苦しいであろう葵ちゃんの体調である。


「『研究ツリー』、開いてもらえるかな?」


 システィナさんにお願いすると目の前に『シュン!』っと開く研究ツリーの『技術リスト画面』。

 確か建設系の技術の中に……うん、あった!

 てか、ソロスタートならこの技術って最初から持ってたハズなのに知識消費して取らないといけないのかなー?

『チラッ、チラッ』て感じでシスティナさんにおねだりしてみたけど素無視されただけだった。普段はフレンドリーなのに突然つき放してくる猫系彼女、嫌いじゃない。

 まぁこの地域というかこの世界では必須技術になりそうだし、とっとと取っちゃうか。


「古代技術は全部知識消費1で済むんだ?……他にも必要な技術は大量にあるけど、背に腹はかえられないもんな」


 知識ポイント、今のところ5しかないからね?少し慎重になっちゃうのは仕方ない。

 てことで入手したのは『気化熱クーラー』の技術。

 滝の近くで風に当たると涼しいのと同じ原理のあれだな!

 ちょっと違う?水しぶきが掛かってるから涼しいだけ?だいたい合ってりゃ良いんだよ!

 作成するための材料は、木材が50……使い捨ての家具だと考えると現状ではかなりの浪費だけど、健康に関わることだからな。

 木材を石鎚でトントントントン……。


「一人で夜中に作業するの、むっちゃ寂しい……」


 あまりに静かなので独り言の増える俺。

 想像よりも随分明るい携帯ライトと月明かりに照らされながら、おおよそ一時間の作業で気化熱クーラーの完成である。

 葵ちゃんが隣で見てくれてれば面白い感想も聞けたんだけどねぇ?


「てか使う時に水を補充しないといけないんだ?」


(『気化熱』クーラーなのですから水が必要なのは当然ではありませんか?)

 いや、確かにそうだけどさ!ゲームだと組み立てて置いておくだけだったじゃん!

 一回の補充にどの程度の水が必要なのかもわからないし、さすがにペットボトルの水を使うのは憚れれるな……。


「……ものはついでだしな!どうせ必要になるんだから、ついでに井戸も掘っちゃえ!」


『原始的な井戸』……建設リストに乗ってない……。うん、知ってた。

 研究しないといけないのは『初歩的な衛生管理』だったっけ?

 こちらも知識の消費は1。これ、大丈夫か本当に?

 他にも『石塊加工』と『植林』は絶対に必要なんだけど?

『鍛冶』と『お針子』も欲しいし、『木工』も……まぁ水は絶対に必要な物だし、一歩ずつだな。


 初歩的な衛生管理の獲得により『原始的な井戸』と『原始的なトイレ』を獲得した俺。トイレの方は別にそのへんに穴でも掘ればいいだけなんだけどな。

 井戸の設置場所を決めようとマップを開くと地下水脈の濃さ(水量)が分かるのは見慣れた光景……なんだけど、水脈が分かるって普通にすげぇ能力だよなこれ。

 もちろん他の人間が穴を掘っても、よほど深くまで掘らないと水脈まで繋がらないので水は出ないだろうけどさ。

 そんな、普通なら村人総出でもどれほどの時間が掛かるか分からない、むしろ水が出るかどうかすら分からない『井戸の設置』なんだけど、俺が作業する場合は『採掘作業』じゃなくて『建設作業』、つまり今回も木材をトントンするだけなんだよね。


 井戸の形の枠を組み立てれば水が汲めるようになるとかまったく意味が分からねぇ……もちろん便利ならオールOKなんだけどな!

 ちなみにこちらの作業時間、150分なり……。


 井戸が掘り終わればやっと気化熱クーラーの設置作業である。

 寝汗をかいて寝苦しそうにしている葵ちゃん……無駄に色っぽいなおい。

 起こさないように、扉の前、足元にクーラーを置いて水を流し込んで動作確認。


 うん、当然モーター音がするようなモノではないから動いてるかどうかなんてまったく分からねぇ……。

(正常に動作しています。扉を閉めたままにしておけば、室内温度が10分間で1℃ずつ低下、この広さの室内ですと最大で外気温マイナス10℃まで下がります)

 スターワールドだと台数を増やせば効果も上乗せされてたし、最大で室温20℃まで下げれたんだけど……この世界でもそれは可能なのかな?

(もちろんです。スターワールドシステムは優秀ですのでそのくらいのことは朝飯前です)


 得意気な雰囲気を醸し出しているシスティナさん可愛い。

 てか、一台だけだと日中は普通に30℃超えそうだし、もう一台設置しておくか。


 ……その日、結局俺が眠りに着いたのは東から登る太陽を見てからだった。



『能力値変化』


 ・建設:1→2

(井戸掘りや気化熱クーラーなどの作成により)

 ・採掘:1→2

(横穴掘りにより)

 ・知識:5→3

 研究:『気化熱クーラー』、『初歩的な衛生管理』

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