第004話 『ご両親揃ってガン◯ムに乗ってるのかな?』

『美少女女子高生(毒舌)』と二人きりでドライブデートという、日本ではルックス偏差値70超えのイケメンか、一定額以上の高額納税者にしか許されないブルジョア階級の娯楽を堪能した俺。

 そんなイベントをこなした二人の仲はもちろんこの上もなく、


「トラックってこんな、揺れるを通り越して飛び跳ねる挙動をする車なんですね……腰は痛いしお尻は痛いし乗り物酔いはするし……最悪でした」


 冷え切っていた。

 いや、見た目通りこの子、葵ちゃんってそこそこ裕福なご家庭の娘さんじゃないですか?

 お父さんだけじゃなく、お母さんが乗られているお車も国産の高級車じゃないですか?

 なんだよインフィ◯ティって! ガン◯ムかよ! ア◯ュラ? それもガ◯ダムっぽいよな? 違うの? 手がいっぱい生えた神様? それとも色っぽいタコ姉さんかな?

 高級車なんて未だに親父が乗リ続けてる、何世代も昔の四角いフォルムのグロ◯アとかいつかはクラ◯ンくらいしか知らねぇんだよ!


「フッ、娘っ子に4トントラックはまだ早すぎたみたいだな……あ、お尻が痛いなら優しくさすってあげるけど? 割れてないか指差し確認しようか?」

「私の中の水玄さんの現在の評価『距離感は取るくせにスキあらばセクハラしてくるクズ』で固定されつつあります」

「想像以上の低評価だった」


 これはセクハラじゃなく場の空気を和ませるための気遣いなんだからねっ!

 いや、女子高生にお尻の話は完全にセクハラだけれども!

 てか、現代社会の何にでも『ハラスメント』を付けて相手に吠え掛かる野良犬みたいな人間関係って良くないと思う!

 ちなみに三時間近いドライブ……というか、マップの未探索地域を確定領域としていった結果はといえば、


「しかし、本当に岩山以外何もないところですね……ただただ乗り物酔いしただけで成果ゼロ、まさしく徒労でした」

「ゴロゴロと岩とか石とか転がってる上に穴ぼこだらけだったから、事故を起こさないように運転にすごく気を使ってた俺は肉体的な疲れ以上に精神疲労がマックスなんだけどね?」


 あれでも一応助手席に女の子を乗せてるからそれなりに安全運転してたんだよ?

 しかし……本当に無人の荒野としか言いようのない場所だなここ。

 人気(ひとけ)も無ければ森どころか草木一本生えてもいないし、当然湖や川なんかの水場も一切なし。

 ただただ広がる土灰色の無の世界……。


「完全に礫砂漠……いえ、砂砂漠じゃなかっただけマシなのでしょうか?」

「なんか葵ちゃんが賢そうな事言いだしたよ……。確かにトラック、普通のタイヤのままじゃ砂の上を走るのは難しそうだもんね」


 てか、俺が本当にゲーム、『スターワールド』の能力が使えるならそんなに悪い状況でも無いんだけどね? この環境。だって資源の塊だもん。


「私、ちょっと異世界を甘く見すぎていました……浮かれてる場合じゃ無かったですよね。たった一人のパートナーはセクハラおやじですし。食べ物も水もないうえにこの車の燃料がなくなれば外の暑さで一日二日しか生きられない世界……真剣にこれからどうしましょう……もしも私の身になにかあれば日本の損失は計り知れないですよ?」

「相変わらずの自己評価の高さよ……。そうだねぇ、まぁ俺は水も食べ物も何週間かは大丈夫だけど葵ちゃんは……ねぇ?」

「えっ? ちょっと待ってください! どこにそんなモノ……あっ、もしかして……トラック! 荷物に何か積んでるんですか!? ……ていうか自然な感じでまた私を切り捨てようとしてますよね!?」

「ここに飛ばされてくるまでは、今日も頑張って配達に走り回ってたからね? 多少の荷物は積んでる、むしろ午前中だったから食料品から調味料、某美味しい水から炭酸水まで色々あるよ? まぁ温い通り越して熱い炭酸水とか飲めたもんじゃないだろうけど。てか切り捨てるとか人聞きがとても悪いんだけど? ただほら、今後のことを考えると……ここで別行動を取るのもアリかなと思ってるだけで」


 炭酸水……高温の荷台で爆発とかしそうでちょっと怖いけど何処かに置いていくのももったいないしなぁ。

 てか頭のいい子だから荷台があれば荷物が積まれてることくらいすでに気づいてると思ってたんだけど……作業用のジャンパーにもトラックの側面にも『水玄米店』って書いてるし。

 まぁうちの実家は米屋ってより何でも屋って感じなんだけどさ。店舗もパッと見はコンビニだったし。


「二人きりの遭難者なんですよ!? 別行動とか圧倒的にナシですよね!? お水があるなら教えてくださいよ! 私、ものすごい喉乾いてるんですからね! でも、何も無いと思って、それを口にすれば、私を助けられない貴方が心を痛めるかもしれないと思って我慢してあげてたのに!」

「葵ちゃんらしい上から目線な意見ありがとう。てか、それならそれで最初から言ってくれれば水くらい普通に出したのにさ。それに、水はまぁ井戸を掘らないとどうにもならないけど、食料は初期配置があるから何も積んでなかったとしても二人で十日や二十日はどうにかなると思うよ?」

「出来れば今すぐ飲み物だけでもお願いしたいです……というか、また聞き慣れないことを言い出しましたね……『初期配置』って何ですか、初期配置って……」


「だって二人は宇宙(そら)から緊急脱出ポットでこの惑星に降り立ったわけじゃん? アダムとイブ的な感じで」

「宇宙(うちゅう)のことを宇宙(そら)って呼ぶのは世界でも一部の濃い方達だけですからね? そもそも緊急脱出ポットになんて乗ってませんよ! 私も貴方も地球からアハ体験のように、気づかないうちに荒野に立たされてましたからね? もうこれただの迷子ですからね? 岩山に囲まれて佇む白いトラックの違和感、シュールさが半端なかったですよね?」

「そんな惑星移民がだよ? 何もない状態で生き残れると思うか? 否、生き残れない! ……こともないな、森林マップなら気温がマイナスにならない限り食べられる果物とかいっぱい取れるし。でも野生動物がちょくちょく発狂しちゃうからなぁ」

「一人で熱くなって急に真顔に戻るのは止めてください。貴方がそれなりにヤバい人だとは知っていますけれども。今の私はそれから目をそらしていたいので。いえ、そうじゃなくて初期配置が何なのかをですね……」


「初期配置……そう! それはゲームスタート時にプレイヤーが困らないように運営がサービスでくれる『食料』や『建設資材』。『武器防具』、『医薬品』なんかも脱出ポッドの墜落現場に配置されるはずなんだけど……最初に立ってた地点には何も無かったな」

「水玄さん、冷静になってください。ここはナントカというゲームの中ではなく異世界なんです。そんな都合のいいものが用意されてるわけないでしょう……」

「ナントカじゃなくスターワールドね? でもほら、トラックで走り回って広がった地図を見てごらん? 最初に俺たちがポップした場所の近くに色々と散らばって落ちてるでしょ?」

「一般人は人が立っているのを『ポップする』とは表現しないと思いますよ? そんなバカなことが……ってほんとに何か表示されてますね!? えー……一体どうなって……いえ、もしかしてソレが貴方に与えられた祝福(ギフト)なのでしょうか……」


 保存食とか木材が手に入るだけの祝福ってなんなんだよ……。

 てか、このトラックに関しては、初期配置に関係のない『異物』扱いなのかな? だって最初から乗り物を持ってるとか便利すぎるもん。

 そもそも騎乗動物以外の乗り物はMODを入れないとゲームでは何も作れなかったしさ。

 それを言いだすと一番の異物は葵ちゃんなんだけどね?


 ……いや、果たして、本当にそうだろうか?

 彼女の雰囲気とか話から考えると異物は俺の方なのでは?

 まぁここには二人しかサンプルがないから、もっと色々な人と接触しないと答えなんてわからないんだけどさ。

 ……いるよね?他の人。


 もしも無人どころか無生物の惑星だったりしたら……心細くなるだけだから、これ以上怖いことを考えるのはやめておこう。

 あと葵ちゃんの重要性がとてつもなく上がりそう。さすがに『生き物の居ない世界に一人ぼっち』とか、精神が耐えられる気がしないもん……。

 てか、水の話をしてたら俺もむっちゃ喉が乾いてきたんだけど。

 運転席から降り、後ろの荷台の扉を開いて荷物を……なんか見覚えのないモノが色々と積まれてるんだけど?


 未来的な形状をした、『宇宙の戦争』の映画で使ってたような……長方形っぽい形状をした銃。たぶんこれ、レーザー系の長銃(ライフル)だわ。

 長銃の近くには、こちらも『宇宙の戦争』の映画の帝国兵が装備してたような、全身鎧のような真っ白いプロテクターが一式。

 ゾンビゲーに出てきそうなデザインの『応急手当セット』みたいな形状をした箱はおそらくそのまま『医療品』だろう。十字のマークが書いてあるし。


「米袋、小麦粉袋に調味料、水と炭酸水のペットボトルの箱の隣にデカい鎧とレーザーライフルが並んでるとか……なにこのカオスな荷台」


 とりあえず手ぶらの葵ちゃんに自慢したら悔しがる顔を見れるかもしれないので、水のペットボトルを下ろすついでにレーザーライフルを肩から下げて運転席に戻る俺。


「はぁ……葵ちゃんの手ぶらが手ブラならよかったのに。外も暑いし? 今からでもたぶん遅くないと思うよ? 手ブラ。はいこれ、お湯っぽい温度のお水」

「唐突に何の話をしてるんですか……ありがとうございま……なんです? その肩からぶら下げてるのは? 変わった形のモデルガン? のほほんとした貴方の警戒心が上がったことは喜ばしいとは思いますが、さすがにBB弾ではゴブリンすら逃げないと思いますよ?」

「葵ちゃんって女の子なのにワンパク男子の趣味系の知識豊富すぎじゃね? てかゴブリンってなんだよ……そもそも、そんなモノに出会いたくないんだけど……フフッ、これ、何だと思う?」

「なんかちょっと自慢げなのがウザいんですけど……まさかミキ○ルーンの苗とか言わないですよね? 先程もモデルガ」

「ブッブー! 正解は! なんと! レーザーライフル! ……だと思うんだけどどう思う?」

「人が質問に答えようとしているのを遮った上で、さらに質問を重ねてくるとかなんなんですか貴方は? そんなこと私に聞かれてもわかりませんよ! というかレーザーって……子供じゃないんですから」

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