第003話 すれ違う……『ステイタス画面』。

 一緒に声を出したときはあんなに心が通じたように感じられた俺と葵ちゃん。

 ……通じてるどころか一言一句合ってなかったって?

 前向きに考えるんだ、それはそれで凄い偶然だと思えば良いんだよ! つまり二回目で必然、そして三回目には運命となるのだ!


「てか、画面の大きさだけじゃなく、表示されてる内容も随分違う感じだな」

「そうですね、私の方は『LV』から始まって『HP、MP、STR、INT、DEX、AGI』などのよくある基本的な能力値と『剣術、初級火魔法』などのスキル、そして『魔法剣士』の称号に『インベントリ』の祝福ですね」


 半分くらい葵ちゃんが何言ってんだかわかんねぇんだけど……。

 でもここで聞き返すと長々と説明されそうだし? 今は素直に、


「わー凄い凄い! 知らんけど」

「貴方、よく分かっていない、むしろどうでもいいと思ってるでしょう?」


 何故バレた!?

 てか、画面内の数字とか細かい情報は全然見せてくれないのな。


「まったく……それで、貴方のステイタスはどんな感じなのですか?」

「俺?俺は、」

「なるほど、『近接戦闘:1』『遠距離戦闘:1』『建設:1』『採掘:1』『農業:1』『馴致:1』『料理:1』『工作:1』『芸術:1』『医術:1』『社交性:1』『知識:5』……なんでしょうかこの見覚えのある感じ……ああ、通知表ですね! そこに並んでるのって全部スキルなんですか? というか知識以外は全部1なんですね? あれでしょう? その知識も『性的な』とか前に付くんでしょう? 先生に寸評で『セクハラが酷いです』とか書かれるんでしょう?」

「あー確かにいわれると通知表っぽいかも? そして俺は紳士だからな! セクハラはソレが許される、行為に対する対価が要求されるお店でしかしない! ……たぶん。そして、少なくとも先生にはセクハラしねぇ! ……とも言い切れないかもしれない。だってスーツ姿の女性がとても好きだから! でも小中高と12年間オール男性教師にしか当たらなかったんだよなぁ……ていうか『トイレで小用を足してる時に隣に立ったおっさん』みたいな覗き見、よくないと思うよ?」


「貴方の性癖を説明されても困惑しかありませんので控えてください。というか女性にとってはまったく『あるある』ってならない例えですねそれ……。それに、それだけ画面が大きいとよほど視力が悪くない限りは覗かなくても見えると思いますよ?」

「確かにその通りだけどさ。てかオール1ってどういうことなんだよ……戦闘系はまぁ高校の選択授業以外では昔やってたサバゲーくらいしか経験がないから仕方ないとして、建設はYMCA的なこともしてた……屋根の傾いた犬小屋くらいしか作ったことがないから仕方ないとして、料理! ……は、ほとんど自炊してないから仕方ないとして……あれだ! 芸術! 小学校の時に賞をとったことあるぞ!」

「YMCAって何ですか……もしかしてDIYと言いたかったんですか? というか、えらく過去まで遡りましたね。もうそれ間違いなく全部1で仕方ないと思いますよ? でもそうなってくると『知識:5』が浮いてますよね?」

「確かに。まぁ気になったなら『気になった部分の単語をクリック』すれば説明文が出る……どうしよう! マウスが無いから操作ができないんだけど!?」


「貴方、さっきマップ画面からその表示に切り替える時、普通に指で画面をタップしてましたよね?」

「おお! 確かに言われてみればそんな気がする! これが生徒会役員、副会長の実力か……しかし性能の差がウンタラカンタラ」

「うろ覚えなら最初から口にするのを止めておけばいいと思いますよ?」

「いや、覚えてるけど途中で面倒くさくなっただけ」

「何でしょうこの人、適当がすぎて一緒に行動するのが少し不安になってきたんですけど……」


 てことで『知識』をタップ。

 ……よくよく考えなくても浮いてるだけの、実体のない画面をタップするって一体どういうことなのだろうか?

 『知識』をタップしたことにより画面に表示された説明画面を読む。


「ああ、なるほど、知識は『研究』の代わりになるのか」

「研究の代わり……ですか? いえ、そもそもその『研究』ってなんなんです?」

「研究は……研究ツリーにある『技術』を使えるようにするために必要な……勉強みたいなもの? 葵ちゃんで言うなら『初級火魔法』のツリーを伸ばして『中級火魔法』を使えるようにする、みたいな? ゲームだと机に向かって、時間を掛けてゴソゴソするんだけどさ。それが変更されて、知識を消費することによって新しく技術を獲得出来るようになってるみたい」


「机に向かってゴソゴソって……絶対にいかがわしいことしてますよねその人。えっと、それってつまり、その知識の数字を消費するだけで色々なスキルを自由に覚えられるってことですか? なんですかそれ、もの凄いチート能力じゃないですか!」

「葵ちゃんってちょくちょく発想が男子中学生みたいになるよね……さてはむっつりスケベ、それともむっちりスケベなのかな? ちなみに知識は『コロニーに所属する人数の増加』と『ミッションクリア』で増えるらしいよ? てかミッションなんてスターワールドには無かったんだけど……なんだろうこれ?」

「男子中学生って年中発情期で頭の中真っピンクな生き物じゃないですか! 私は黒髪清楚なお嬢様ですから! あとむっちりなどしていません! ……とりあえずその『研究ツリー』というのを見せていただいてもよろしいですか?」


 なんだろう、いきなりグイグイくるな葵ちゃん。


「それは構わないけど……じゃあ葵ちゃんも見せてくれる? パンツとか」

「そこは私のステイタスじゃないですかね!?」

「だって、他人の能力とかこれっぽっちも興味がないもの」

「はやなみっ! そんな悲しいこと言うなよっ! ……じゃなくてですね。貴方、通常時はフレンドリーな対応ですのに、要所要所で私のことを突き放しに掛かってくるその態度はいったい何なんですかね……?」


 ジトッとした恨めしげな目でこちらを睨む葵ちゃん。

 てか薄々感じてたけどこの娘、結構なオタクではなかろうか?


「何って言われても困るけど……そもそも今日出会ったばかり、友人どころか知人でもない人に全部さらけ出す人間の方がオカシイと思うんだけどなぁ」

「確かにその通りですけども! でもほら、これから二人でどうにかして、力を合わせて生きていかないとダメなわけじゃないですか? キノコらないとならないわけじゃないですか? それなのに、その胡乱な態度は相方としてテンションが下がっちゃうと思うんです!」

「いや、別に相方とかそういうのじゃないし……とりあえず適当な人里を見つけて、現地の言葉が通じるようなら別行動でもいいかな? と思ってるし。あと俺、葵ちゃんに初見で誘拐犯扱いされてるからね?」

「信じられない人ですね!? 私、魔法剣士ですよ? 美少女ですよ? 手放したら死ぬまで心の底から後悔しますよ? あと年長者ってところしかプラス要素が無いんですから昔のことは水に流すべきだと思います!」

「数十分前は昔とは言わないんだよなぁ……そして、俺だって他にもいろいろといいところがあると思うよ? 知らんけど」


 別れて後悔するほどの関係性をまだ構築してないって言ってるんだけどね?

 そもそも黒髪ロング(太ももむっちり)女子高生じゃなく、イケメン短髪男子高校生なら話し掛けることもなく一人トラックで走り去ってたからな?

 これでも十二分に譲歩した、とっても友好的な対応なんだゾッ!


「まぁとりあえずスターワールドの画面が表示されたし、ここは『不時着した未知の惑星』だということで間違いないかな?」

「違います! 異世界だって何度も言って……いえ、確かに未知の惑星も異世界に変わりはありませんし、その答えでも間違いではないですね。でもきっと、その画面が表示されるのは貴方だけだと思いますよ? 私も『マップ表示!』って試してみましたけどその画面は出ませんでしたもん」

「ああ、それは葵ちゃんが俺のコロニーの仲間ではないからじゃないかな?」


「だからどうして貴方は生死を共にするかもしれない人間に対して、さらっとした感じで『仲間ではない』判定を下してるんですか!? まったく、餌は受け取るくせに撫でさせない野良猫みたいな人ですね……」

「いいかい? 仲間ってのはなるもんじゃなく、いつの間にかなってるものなんだぜ?」

「良いこと言ってる風を装ってますけど、出会ってからのわだかまりを時間が解決する前に別れようとしてますよね貴方?」

「いや、こうやって話もしちゃって関わりあっちゃってるし? 俺だってそこまで不義理な人間ではないんだけどね?」


「『しちゃって』と『あっちゃって』の部分に嫌々感が満載なんですけどそれは……」

「よし!まずは拠点確保! って言いたいところだけど、近場に人里があるかもしれないし。マップが開いてるここを中心にして、辺を少し探索してみるか!」

「今完全に誤魔化しましたよねこの人……」

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