第002話 『ステイタス・オープン!』と彼女は言った。
乗りたくないジレンマと乗らなければ置いていかれるという危機感。
脳内で悪魔と悪魔が綱引きをしているような状態の彼女、そんな『いい匂いのする女子高生』をトラックの助手席になんとか乗せて、二人の会話はまだまだ続く。
うん、『なんとか乗せる』の語感が完全に犯罪者のソレだな。
「そっかー、葵ちゃんは学級委員長じゃなく生徒会の副会長さんだったのかー」
「水玄さん、私のことは名前ではなく名字で呼んでもらっていいですか?」
もちろんクソ狭いトラックの運転席、若い男女である俺たち二人の距離感も急速に近づいて……いや、名前で呼ぶなって言われたよな今?
逆じゃね? 普通は『気軽に名前で呼んでくださいね?』ってなるものなんじゃね?
「で、さっそくなんだけどさ、いつまでもこんな何もないところでじっとしててもアイドリングで燃料が減っていくだけだと思うんだよね。だから少し走って幹線道路に出ようかと」
「水玄さん、もっと現実を見てください。直視してください。というよりも私と貴方でこの場所の認識に結構な相違がありそうなんですけど……貴方、ここを何処だと思ってます?」
「どこって……外国だろ? さっきはナスカだってことで意見が一致したじゃん?一緒に太陽の神殿とかマチュピチュを観光するって言ったじゃん?」
「それは貴方の言い分であって私の意見ではないのですけどね……そもそもここがナスカだったとしても、最初に行くべきは現地の大使館であって観光してる場合ではないです。繰り返しになりますが、貴方はもっと現実を見てください。日本からナスカ、他の外国でもですが、飛行機も使わずにいきなり移動するはずがないじゃないですか?」
「そんなことは百も承知だけどさ……『現実は妄想よりも凄いナリよキ◯レツ?』とか言うじゃん?」
「それはもしかして『事実は小説より奇なり』と言いたいのですかね? あと、言ったのはコロッケみたいな名前のコロッケ大好きな侍ではなくイギリスの詩人です」
確かにそんな感じだったかもしれないけど! 真顔でマジレスカッコ悪い。
てか『詩人』って俺の中ではちょっとカッコいい自己紹介をしたただのニートなんだよなぁ。つまりキャン○ルアーティストなんかと同類で。
てかロウソクって一本でも結構な熱量じゃん? 地球温暖化が騒がれる昨今で芸術だとか言って、明かりを求めるためでもなくそれを何十本とか無駄に灯す行為ってどうなの?
そして『錬金術師』を名乗る人間が友人にいるならばそれはもう確実に詐欺師なので早急に距離を取るべきである。
「じゃあさ、もしも、もしもだよ? 百歩譲って、ここが海外じゃないとしたら一体どこだって言うのさ? 日本じゃないのは確かなんだろう?」
「はぁ……鈍い人ですね。そんなの異世界に決まってるじゃないですか」
えっ? そんなこと決まってたの!?
呆れ顔でため息をつく葵ちゃん。
その仕草、色気が合ってとてもイイね! じゃなくてだな、
「いやいやいや、そっちの方がおかしいじゃん! 何だよ異世界って! 外国以上にありえないじゃん!」
「良いですか水玄さん。いかにも頼りなさそうな、モテなさそうなニートのおじさん、トラック、美少女、これから導き出せるモノは?」
「えっ? 俺に対する当たりが強すぎることと、葵ちゃんの自己評価が高いってこと以外に何もないんだけど……」
「そうです、常識的に考えるともうこれは異世界しかないんですよ?」
「俺の返事完全無視か! てか俺の常識と女子高生の常識が違いすぎるんだけど……。あとニートじゃねぇよ! 毎日汗水垂らしてちゃんと働いとるわ。むしろ働いてさえいなかったらこんな妙なことに巻き込まれずにすんだと少し後悔はしてるがな。そしておじさんじゃなくてお兄さんなっ!」
「まぁ貴方の戯言は置いておいてですね。私も、何の証拠もなくこんなことを言ってるわけじゃないんですよ? もしもここが異世界だとしたら絶対に起こる現象がありますから」
「えっ? そうなの? すげぇな異世界……いや、それよりどうしてそんな現象を日本人の女子高生が知ってるんだよ?」
「貴方もゲームくらいはしたことありますよね? もちろん女性がお尻を振動させながら銃を撃ちまくったり、馬が美少女になって後ろ姿でお尻を振りながら走るゲームじゃないですよ?」
「なにそのゲーム、むっちゃやりたんだけどタイトル教えて? ……あ、スマホの電波が圏外だからここじゃプレイ出来ねぇわ……じゃなくて、どうして俺が尻フェチだと知ってる!? でもなくて、まぁゲームは普通にするよ?」
「もちろんゲームというのは『画面いっぱいに裸の女性が表示されるテキストを読むだけのモノ』でもありませんからね? 具体的に言えばFA◯ZAとかで売ってるような」
「言われなくても分かってるけどね? てか妙に詳しいなおい。葵ちゃん、一応は未成年だよね? 制服コスプレが好きなだけのイタイ成人女性じゃないよね?」
「仮に私がコスプレ好きな可愛い成人女性だったとしても、その格好で学校に潜入はしませんよ……少しでもゲームをしたことがあるのなら、能力値の確認をしたい時に口にする言葉くらいは当然思いつくでしょう? 水玄さんって見た感じ独り言をいいながら、むしろ奇声をあげながらゲームをしてそうな人ですし」
何なの? この子は俺をディスらないと会話できない病気かなにかなの?
「ここまで説明すれば、私の言いたいことはわかりますよね? ではいきますよ? せーの――」
いや、わからんわからん! そもそも何の説明にもなってないからね?
えっ? 能力の確認したい時って何か口にしないといけないの? そんなの『画面内のキャラクターをクリック』すればいいだけじゃないの?
詳しく見るならその中の『履歴』タブをタップしないといけないけどさ。
ってことは……『クリック!』って口にすれば良いのか? 絶対違うよな。なら『状態』? ……ああ!わかった!
もっと全体的な状況を確認するってことだよね? 理解した。
つまり、
「ステイタス・オープン!」
「マップ表示!」
「……えっ?」
「……えっ?」
聞き間違えようが無いくらいに違う言葉を口にした俺と葵ちゃん。
だけど二人共目の前の空間に、同じ様な光る窓が現れたので結果オーライではないだろうか?
「なにこれ!? 見た目完全にいつもやってる『スターワールド』のマップ画面なんだけど!? ……てか葵ちゃんの画面ちっさ! なにそれ? 6インチくらいしかないじゃん」
「逆にどうして貴方のはそんなに大きいんですか……あと私のステイタスウインドウを見て勝ち誇ったようなその半笑い、とても気分が悪いです!」
「いまの『貴方の……大きい』を感情を込めてもう一度お願いしてもいいかな? てか、俺の画面は普通に家で使ってたディスプレイサイズのまま……まぁ32インチだからそれほど大きくはないんだけどさ。葵ちゃんのソレは……全国女子平均と比較した自身のバストサイズ的な何かから画面サイズを計算したのかな?」
「全力で助走をつけてぶん殴りますよ? というかその画面、真ん中の色がついた部分以外、周りが黒塗りになってる画面ですが……もしかして、この近辺の地図が表示されてるんですか?」
「ん? まぁ言われた通り『マップ』を開いたんだから地図が出るのは当然じゃね?」
「私は一言もそんなことを言ってはいないんですけどね……ということは、もしかして黒くなってる部分に移動すれば、どんどん地図に周りの地形が書き込まれていくんですか?」
「そりゃそうだろう、未探索地域が確定領域になるんだから。葵ちゃんのその貧にゅ……スマホみたいなのも同じなんじゃないの?」
「まったく違いますよ! あと、次に私の胸回りに関する発言をしたら貴方の首をへし折りますからね?」
なにそれ怖い……。
「まぁいいです。ええ、私の尊い胸の話は今はどうだっていいんです。ふふっ、どうですか? これでここが異世界だと証明されたでしょう?」
「異世界……いや、なんかヘンテコリンな画面を出すことが出来るのは理解できたけど、それと異世界の関係性がまったくわからないんだけど?」
そもそも俺が出したのは『スターワールドのマップ画面』だしさ。
それで言うならここは『異世界』ではなく『未知の惑星』なんだよなぁ……もちろんそれも異世界ではあるんだろうけどニュアンスがこうほら……ね?
「貴方……もしかしてRPGとかやらない人ですか? 小説の投稿サイトとかも読まない人なんですか?」
「あー……RPGは確かにあんまりやってないな。昔からガチ目のSLGの方が好きだし。数字がチマチマと増えていくのとか最高! 投稿サイトは普通に読むよ? むしろ毎日チェックしてるくらい。主に歴史モノとか甘々な恋愛モノだけど」
「甘々……キモっ……」
「マジな感じでひくの止めろや」
あれだぞ? もし戦国時代にタイムスリップしても安心安全なんだからな!
生産なら俺に任せろ! 硝石、石鹸、椎茸、清酒、ペニシリン!
……いや、ダメだ、繰り返し読んでても石鹸と椎茸と清酒以外は作れる気がしねぇ。だって作り方、どの作品もふわっとした感じだったもん。
あと、何の前知識もない戦国時代で獣の脂っ臭い石鹸がバカ売れする気もしねぇし……。
「そう……ですよね。いえ、私が悪いんです。相手がおじさんだと理解しているようで理解できていなかった私の責任です」
「申し訳無さそうな顔してるけどマウント取りにきてるだけだよねそれ? あとおじさんじゃなくお兄さんな!」
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