もしも『惑星開発ゲープレイヤーのおっさん』と『異世界モノオタクの女子高生』が一緒に異世界転移に巻き込まれたら?
あかむらさき
第一章 礫砂漠の荒れ地
第001話 『誘拐ですか?誘拐ですよね?』
燦々と照りつける太陽の下、岩山以外何もない荒れ地に吹き付けるのは風速二十メートルを超える強い風。
「風キツっ!? てか痛っ!? ……えっ? 何? どういうこと? ここどこ? あれ? 俺って今、学校の裏門を開けようとしてたよね?」
巻き上げられた砂を含む風が無遠慮に俺の顔を叩きつけ、その痛みからクシャッと表情をしかめてしまう。
生き物一匹みあたらないこの荒野にはどう考えても似合わない衣装――巨大怪獣柄のTシャツ、使い古された作業用ジャンパー、そして色落ちしたジーンズ。
いや、開拓時代のアメリカの荒野と思えばジーンズだけは似合ってるかも知れないけれどもさ。
俺がそれまで米屋の配達の仕事をしていた証拠はといえば、屋号の入った、隣に停車させている白い4トンの箱トラックだけ。
まぁこんなどことも分からない場所で、唖然としながら立ってるのは俺だけ――では無いんだけどね?
制服姿の大人びた、清楚な雰囲気を醸し出す学級委員長、それとも生徒会長? って感じの、黒髪ロングな女子高生が数メートル離れて俺のことをガン見してるし。
こんな時なのに何を呑気な……って言われそうだけど、突き刺さるような太陽光線と、乾燥しきった空気の砂混じりの風で、その綺麗な髪が傷まないかちょっとだけ心配になったり。彼女からすれば完全に大きなお世話な話である。
そしてそんな親心(?)満載の俺に彼女から掛けられた言葉は、
「……誘拐ですか? 誘拐ですよね? 今ならギリギリ未遂と言い張ることが出来るかもしれませんよ? 警察のお世話になりたくないのなら、速やかにここから私を解放しなさい」
「俺の顔を見た瞬間、何の躊躇いもなく犯罪者扱いしてきたぞこの娘……確かにそこそこ怪しい風貌かもしれないけれどもっ! いや、解放も何も俺は君のことをいっさい拘束も束縛もしてないと思うんだけどな?」
360度、どこから見ても『あわよくばお近づきになりたい!』としか思えない、大人びた、それでいて可愛い系ルックスの女子高生から……初対面なのに人攫い扱いされているのはどうしてなのだろうか?
いや、むしろ初対面だからこそのこの対応……だと思いたい。
たぶん俺と同じ状態――いきなりこんな場所に放り出されたから取り乱してるだけだとは思うんだけどさ。でもほら、俺だって何が何やら分かってないからね?
それを笑ってノリツッコミで返せるような、精神的な余裕は無いんだぜ?
「オッケー、とりあえずいったん状況を整理しよう。まずは現在地。ここはNR県にある私立桜凛学園(わたくしりつおうりんがくえん)の裏門前……で、合ってるよね?」
「貴方、先程から何度も周りの景色をその目で見渡していましたよね? 何度確認しても学校の校舎どころか、人工的な建造物が一軒も見当たらないですよね? 逆に聞きますけど、どうしてこのリトルグランドキャニオンみたいな風景を目にしてここが学校だと思ったんですか? ああ、なるほど。そうやってしらばっくれて私を誘拐したことを有耶無耶にしようとしてるんですね?」
「そんなことしてねぇよ……」
思わず、『どうせ誘拐するならこんな何もない辺鄙な場所じゃなく、ちゃんと寝具が整った場所に連れて行くわ! 俺、金銭の介入する恋愛ですら野外での行為とか未経験だからな!』……と叫びかけたけど、そこをぐっと堪えた俺はちゃんとした常識人(おとな)だと思う。
いや、そんなことよりもだな、マジでどうなってるんだこれ? もしかして転移系の異能にでも目覚めたとか?
数分前の記憶を思い出す……必死に思い出す……うん、どう記憶を辿ってみてもいつも通りお得意様である桜凛学園に食材――米とか小麦粉とか調味料の納入をするため、裏門の重い鉄の門をガラガラと開こうとしていたことしか思い出せない。
そういえば近くに制服を着た女の子が立ってたけど、それがこの娘だったのかな?
うん? 近くに居たのにどうしてそんな曖昧なのかって?
だって女子生徒を業者のオッサンがジロジロと眺めたりしたら、教師とか教育委員会にいいつけられるじゃん? だからギリギリのライン、ソックスからスカートの間(通称・絶対領域)しか確認してなかったんだよ。つまり、立っていた相手の顔は一切記憶にないのだ!
……何故だろうか、我が事ながら、行動の節々に危険人物味を感じるんだけど?
「ならば、もしもここが学校では無いと仮定、あくまでもそう仮定するとして……ここはどこなんだ? AOMR県? それともGNM県?」
「貴方の両県に対するイメージが荒野の原風景であるということはわかりましたが、絶対に違うと思いますよ? だって外気温、体感ですけど40℃以上あると思いますし。乾燥していて湿度が低い分だけ、フェーン現象が発生したTYM県よりも過ごしやすそうですが……。いえ、そもそも今は4月です。仮に局地的な異常気象だとしても日本国内でこんな暑い場所は無いと思います」
「……なら外国だって言うのか? 確かに写真で見た中東とかナスカの地上絵のあるところがこんな感じの景色だったと思うけど……ナスカってことは近くにマヤとかアステカの遺跡もあるのかな!? 死ぬまでに一度は行ってみたかったんだけど!!」
「この状況でパック旅行に来た観光客がオプショナルツアーを申し込むようなことを言える貴方はもしかしたら中々の大物……いえ、ただのお馬鹿さんですね。それよりも貴方、もしかして超能力者だとか……ああっ、貴方のその年齢を鑑みると……さては魔法使いですね?」
「小首を傾げて可愛く言ったからって何でも許されるわけじゃないんだからなっ!? 俺はまだ26だよ! ヤラサーまで数年の余裕があるんだよ! いや、そもそもどうしてDTだと決めつけたんだよ!」
「だって貴方、黒髪ロングが好きなんでしょう? 私を誘拐するくらいに」
「その、『俺が君を誘拐した』って前提をまず取っ払ってくれるとお兄さん嬉しいんだけどな?」
もちろん黒髪ロングが好きなのは否定しないけどな!
何なんだよその黒いニーソ、否、オーバーニーソックスは!
そんなん嫌いなオッサン絶対にいないだろ!
あと、俺はオッサンじゃない! ギリギリまだお兄さんのハズだから!
「とりあえずあれだ、こんなとこで立ち話なんかしてても暑いだけで何も解決しなさそうだし俺は行くわ。ここが日本でも外国でも車で少し走れば、そのうちどっかの大きな道路に通じてるだろだぶん、知らんけど」
見てくれはいいけど、ちょっと性格に難の有りそうな女の子の相手をしたことで、多少なりとも冷静になれた俺。
トラックの運転席側のドアを開けて乗り込……もうとしたら『ガッ!』と強い力で腕を掴まれた。
最近の女子高生って握力高いんだな!?
「……えっ?」
「……えっ?」
突然の相手の行動、何故いきなり女子高生に引き止められたのかと困惑する俺と、
「貴方……もしかして、もしかしますが……今、私のことをここに置き去りにして、そのまま車で走り去ろうとしませんでしたか?」
「ええ、いたしましたけれど、むしろ現在進行系でいたしておりますけど何か?」
「信じられない……黒髪ロングですよ? 女子高生ですよ? それを見捨てるつもりですか?」
「たとえ好みのタイプ、外見が100点満点……92点だったとしても、地雷臭しかない女子と一緒に行動するのはちょっと……」
「何故100点から8点減点したんですか!? いえ、そうじゃなくてですね! こんな右も左もわからないところに、こんなに愛らしい私を置き去りにするとかどういう了見なんですか貴方!? あと言うに事欠いて地雷とはなんですか地雷とは!!」
「うぜぇ……置いていこうとしたのは半分冗談だよ?」
「半分本気だった事実が信じられません!!」
なにやらご立腹らしい女子高生。
もちろん全部冗談……地雷臭の部分以外は冗談なんだけどね?
……もしも彼女に腕を掴まれてなければ、100%冗談じゃなかったかもしれないのは墓場まで持っていく予定の秘密である。
てかこの子、こんな短時間の会話からでもわかる『重い女』、『めんどくさい女』の気配半端ないって!
「あれだよ? ほら、暑いから車に乗ってクーラーかけようとしただけなんだよ? 砂埃が舞ってて外で喋ってると口の中がジャリジャリするしさ。知らんけど」
「とりあえず関西人特有の語尾に『知らんけど』を付けて会話の内容には責任を持たないという遠回しな表現、私、止めたほうがいいと思うんですよ!」
「だってヤンデレに言質取られたりしたら後々何されるかわかったもんじゃないしさ」
「私は重い女でもヤンデレでもありませんっ!!」
いや、だから本当に話してるだけで口の中に砂が入るんだって。
さすがに女の子の前で『ペッ!』とか出来るのは無敵の人(常識がなくて世間体を気にしなくていい、暴力ですべてが解決できると思ってる無職の人)くらいだよ?
あっ、女子高生がペッ! ってしたのは、金額によっては購入を考えないでもないからねっ! ド変態か俺は。
「てことで外で立ち話をするに適した環境じゃないからさ。このまま話をするにしても、ここから移動するにしても、とりあえずトラックに乗らない?」
「それはアレですか? 『同意を得た』という事実が欲しいがための発言ですか? 男の人っていつもそうですね!! 私たちのことなんだと思ってるんですか!?」
「ではごきげんよう」
「わ、わかりました! 乗ります、私も乗りますから見捨てようとしないでください!」
なんか聞いたことあるセリフで捲し立ててくる女子高生。てかマジでめんどくさいぞこいつ……どうにか言いくるめて別行動を考えるべきではないだろうか?
でもこんな外国で一人ぼっちとか精神的にキツそうだしなぁ……主に俺のメンタルが。
ほら、彼女、頭とか良さそうな感じじゃないですか?
見た目からして英語の成績『5』って感じじゃないですか? 下手したらスペイン語とかも話せそうじゃないですか? 帰国子女的な雰囲気も漂わせてるし。
言う必要もないだろうけど、色んな国の挨拶以外の外国語なんて俺はほぼほぼ話せないからね?
挨拶だけは昔聞いた『もしも世界にタ○キがいたら』ってレコードで覚えた!
さて、冗談はこれくらいにして……わけの分からない状況に陥っている現状では結構重大な選択肢だぞ、これ?
今の時点で俺が取れる選択肢としては、
1:なんか面倒くさそうだし、女子高生のことは見なかったことにして『一人で立ち去る』。
2:なんか面倒くさそうだけど、一人ぼっちは寂しいし『とりあえず一緒に行動する』。
うーん……。
「えっと、私、トラックに乗るって言いましたよね? それなのにどうしてそんな考え込んでるんですかね……?」
「1番……と言いたいところだけど、次にここを通りかかった時に死体が転がってたら三日間くらい寝覚めが悪くなりそうなのでギリ2番……かなぁ?」
「何なんですかその1番とか2番とかいうのは!? 『次に通りかかった時』とか『死体が転がってたら』とかいう不穏なワードが含まれてるのが聞き捨てならないのですが!?」
「何でもないよ? とりあえずこのままここに立ってたら干物になっちゃいそうだし車に乗ろうか?」
少なくともお互いに友好的な雰囲気を一切感じない、野良猫が餌場で偶然顔を合わせたような警戒感バリバリの出会い――俺『水玄 光(ミナモト ヒカル)』と、彼女『御鏡 葵(ミカガミ アオイ)』は知らない世界で一緒に行動を開始したのだった。
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