幻想の普通を求めた男

ダークネスソルト

普通


 小さい頃からとあるテレビアニメが好きだった。

 

 主人公はおバカだけで勇気がある5歳児。

 父は足臭が特徴で家族想いなサラリーマン。

 母も家族想いで、二人の子供を育てる立派な専業主婦。

 妹はイケメン大好き、宝石等の光る物大好きな0歳児の4人家族のドタバタ日常を描いたアニメ。


 一軒家に暮らしていて、マイカーを持っていて、年に数回国内旅行に行く。

 絵にかいたような幸せな家族だった。


 俺はそんな普通な人生を送りたかった。


 俺は一人っ子で、両親は共働き。

 家族旅行に行った思い出なんてのはほとんどなかった。


 だからせめて、俺が家庭を作ったら家族旅行に連れてってあげて、子供達には思い出を作ってあげたかった。


 そう、あげたかったのだ。


 全部過去形だ。

 今の俺は狭い部屋で自家発電でもしながら、ネット小説を漁る日々。

 生きる屍みたいな存在だ。それでも不幸という訳ではない。

 求めていた普通は諦めた。いや最初から俺が望んでいた物は普通ではなかったかもしれない。


 俺は道を間違えた。

 いや、違う。最初から道は間違えてなかったのかも知れない、間違っているとすれば、それは世界の方だ。

 嗚呼、きっとそうだ・・・。

 俺は悪くない。


 目を瞑ると何故俺がこうなったのか記憶が駆け抜ける。


 当時15歳、普通に憧れた俺はそこそこ勉強して、それなりに偏差値のある公立の高校に入学した。

 当時18歳、普通に憧れた俺はしっかりと勉強して、親から入学金の頭金は貰いつつも、一部奨学金を借りてそれなりの偏差値の私立に入学した。

 本当は国立を目指していたが悲しいことに落ちてしまった。

 それでも悪い大学という訳ではないし、しっかりと勉強を頑張ろうと思った。

 当時21歳、頑張って就活に励み、超絶大手ではないものの、それなりに聞いたことはある一応大手の会社から内定がもらえた。

 心の底から嬉しかった。

 当時25歳、3年程働いたが給与は上がらず、仕事は増える。

 初年度は住民税を払わなかった為にまだ良かった。手取りで言えば月18万円、ボーナスは年2回払いで大体合計50万円貰えた。

 大学の頃のバイト代を考えれば非常に大きい額だ。

 でも、この時からふと普通が無理なんじゃないかという嫌な予感がしていた。

 そして、その嫌な予感は案の定であった。

 社会人2年目、住民税を払いながら奨学金の返済をして、初年度に夢のマイカーだと言って大学4年生の時のバイト代を使って買ってしまった軽自動車の維持費が重くのしかかった。

 社会人3年目、仕事に慣れたが、その分仕事が増える。終電に間に合わない時が増えた。給料は正直どうでも良くなってたが、仕事のストレスからか酒や風俗に消えてしまった。

 貯金をしようとは思うが俺には出来なかった。

 当時28歳。リストラされた。

 目の前が真っ暗になった。給与はほとんど上がらずに仕事は増えて責任は増えて大変だったが、まだ安定した大企業っていうのが心の支えとなっていた。

 それでもリストラという精神的ショックは酷く答えた。

 一人で酒を飲み、完璧に酔いつぶれた。


 ふと、昔の夢を見た。


 6歳の頃お父さんとお母さんの3人で少し遠く離れた遊園地に行った思い出だ。

 お父さんもお母さんも少し疲れた顔をしてたけど、俺が楽しそうに遊ぶのを見て嬉しそうに笑ってくれていた。


 涙が溢れて来た。


 急に自分が悲しく悔しくて情けなくなった。


 もう一度やり直そうと思い、再就職を決意した。


 当時30歳。再就職したがブラック企業だった。

 体を壊してリタイアして、今は病院のベットの上だ。

 ふと、通帳を見た。

 10万円ほどあった。

 奨学金は何とか返済していたが、ブラック企業のストレスを酒と風俗に発散していたつけが来ていた。

 取り敢えず乗らなくなった無駄に維持費のかかる車を売った。

 20万円ほどになった。


 普通を求めた俺は今30歳。


 それなりに努力をして、それなりの高校と大学を卒業してそれなりの会社で努力して、それなりの成果はあげてきたつもりだ。

 それでもリストラされて、ブラック企業に入ってしまい身体壊して今は30歳。

 家無し、車なし、彼女なし、子供なし、貯金は30万円。


 俺は普通を求めた。

 でも、俺の思っていた普通は普通じゃなかったことに今更気が付いた。


 そして、吹っ切れた俺は30万円で両親にせめてもの親孝行と旅行をプレゼントしてから、生活保護を取った。

 幸いなことに審査してくれた人が緩く、親族がいるうんぬんかんぬんの追及はされずに、資産0円でブラック企業に勤めて体を壊した30歳ということで普通に生活保護は貰えた。


 で、生活保護を貰って1年。

 今に至る。


 不思議なことだが、生活保護を取ってから貯金が出来るようになった。

 ストレスがかからないからお酒も風俗も行かなくなったのが大きいと思う。

 といっても貯金はタンス貯金ではあるが、今は転売ヤーの真似事をしながら、割と楽しく生きている。

 

 俺の求めていた普通とは違う生き方ではあるが、今の人生は幸せだ。

 

 幸せならオッケーなんて言っていた人がいたが、本当にその通りだと心の底から思う。






――――――――――


 因みに本作の主人公君は30年以上前であれば、終身雇用制度が上手く機能する&税金も今ほど高くなかったので、それなりに出世して年収も800万円くらいまでいって、それなりに可愛くて家事の出来る奥さんと結婚して二人の子供をもうけて幸せに暮らせますよ。


 作者は現在19歳の心理学を専攻する大学生です。

 高校の時は商業高校に通ってました。

 この情報提示に深い意味はありません。まあ、大学はガッツリFランですけど。

 受験戦争の敗北者たち(国立落ちた人とか偏差値60くらいの所落ちた人、Fランだけどそれなりに大きくて薬学部等もあるせい)を受験から逃げた者(作者やその友人、尚友人は多分来年にはいなくなります)が嘲笑う楽しい楽しい場所ですね。

 因みに自慢じゃないっすけど、作者はラノベを書いてたせいか、レポート課題がバチクソ得意でそれなりに成績が良い。草。まあ、Fランだけどね。

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幻想の普通を求めた男 ダークネスソルト @yamzio

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