第十夜 紡ぐ者

どこかの世界、いつかの時代。

どこかの国、どこかの地方。

そこに、「紡ぐ者」がいました。


「紡ぐ者」は名前を名乗ったり、自身の正体を他者に明かしたりはしません。

日々、ひたすらに紡いでいました。


それは一つの形ではありません。

いや、形がないこともありました。

でも、それは確かに存在しました。


「紡ぐ者」の存在を知っている人はいても、「紡ぐ者」の正体を知っている人はいません。

そして、紡がれたものを見たことがある人は、ほんの少ししかいません。

でも、それは確かに紡がれたのです。


「紡ぐ者」は、明るいうちには現れません。

日が沈み、静かになった頃に現れます。

そして、紡いだものを置いていくのです。


それは手に取れるものではありません。

けれど、それに気付いた人は、素敵な夢を見る事ができました。

辛い日々から目を背け、幸せな気持ちになったり、楽しい気持ちになれたりしたのです。


「紡ぐ者」は、自分が何者なのかわかりません。

自分という存在が何のためにあるのかも、知りません。

でも、日々たくさんのものを紡いでいます。


「紡ぐ者」が紡いだもの。

それは、今はほんの少しの人にしか知られていません。

けれど、やがて多くの人の目に止まるでしょう。

そして、人々の心を楽しませ、幸せな気持ちにしてくれるでしょう。


「紡ぐ者」は、何のために紡いでいるのでしょう。

それは、「紡ぐ者」にもわかりません。

ただ、そう遠くない昔まで、何か熱いものがあったような気がします。


それは、きっと気のせいではないのでしょう。

そして、そのために今も紡ぎ続けているのでしょう。


「紡ぐ者」。

それは、一人ではなく、たくさんいます。

それは、豊かで素敵な心を持っています。

それは、きっと人々のすぐ近くにいます。

それは、









ふう…やっと書き終わった。

後半は毎日更新になったけど、なかなか大変だったなあ。


え?わたしが誰かって?

…逆にわからない?

紡ぐ者、だよ。


わたしは紡ぐ者。

あなたは見る者。


ただ、それだけ。


わたしは紡ぐ者。

なぜ、紡いでいるのか?

それは、わからない。


あなたが、わたしをどう思うか。

あなたが、わたしの紡いだものをどう見るか。

それは、わからない。


けれど、わたしは紡ぎ続ける。

人の世で満たされぬ心が、満たされるその時まで。



さて、ここで今回の紡ぎものは終わりです。

でも、わたしの役目が終わった訳ではない。

また、新たなものを紡いでいきます。


それが、いつになるかって?

それはわからない。

わたしは、心に浮かぶままに紡いでいるから。


なんでこんなをするか、って?

それもわからない。

わたしは、苦しみ生きる存在。

けれど、空想の世界では楽ができる。


わたしは、紡ぐのが楽しい。

だから、これをやめるつもりはない。

けれど、ちょっと寂しい。

だれも、わたしの紡いだものを認めてくれないから。


わたしは、みんなに受け入れてほしい。


わたしは紡ぐ者。

もう、ここに現れる事はないかもしれない。

けれど、また別の世界に現れる。

そして、また新たなものを紡ぐ。


わたしの紡ぐもの、紡いだもの。

それは、まだ何の価値もない。

どうか、わたしの紡いだものに価値をつけてほしい。




そろそろ帰らなければ。

それでは、またいつか。

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10の夜の物語 白水カトラ @toukousya

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