第14話 不意打ち

翌日。


俺の村を訪れたユージンの顔は既に死にそうだった。


(村の中でぱったり倒れたりしないだろうな?こいつ)


さすがに勇者が村の中で倒れたとなれば俺になにかあるかもしれないし勘弁して欲しい。


だから俺が心配するみたいな変なことになってる訳なんだが。

頼むから倒れるなら村を出てからにして欲しいものだ。


俺はそう思いながらユージンとの決闘を行うこととなった。


ルールはどちらかが動けなくなったと判断されたか、降参を宣言した瞬間に勝敗が決定するというものだった。


ユージンは口を開いた。


「いいか?土人共。俺がこいつに勝てば今日から俺が新たな主人だ。覚えておけ」


そう言ってから俺に目を向けてきた。


「俺をぶん殴ったお前ももちろん、同じ階級にしてやるよ」

「じゃあ俺が勝った時はどうしようかな」

「は?お前が勝つことなんてないからな。よし、じゃあスタートだ!」


完全に自分のタイミングで決闘を始めてきたユージン。


不意打ちに近いような一撃が迫ってきたが。


「そんなものか」


俺はユージンの剣を避けて腹を殴っていた。


「がっ……」


俺はそのままユージンの顔面を殴った。


あのときのように吹っ飛んでいくユージンに近付きながら聞いてやる。


「まだやるか?」


よろっ。

立ち上がってきたユージンをまた殴ってやった。


それからユージンは白旗を上げた。


「負けです」


俺はこんな簡単に諦めたユージンを見て思った。


(なにしにきたんだよこいつ)


試合を見てたメイサが口を開いた。


「すごっ!勇者のことボコボコにしてる!腐っても勇者なのに!強いよねルイスくん!」


そのときユージンが聞いてきた。


「……貸してくれ」

「なに?」


よく聞こえ無かったのでもう1回お願いした。

すると、予想外のものを貸してくれと言っていた。


「なぁ、トイレ貸してくれ」

「はぁ?トイレ?」

「も、漏れそうなんだ。昨日食ったものが当たっちまったみたいでな」


そのときギュルルルルルルルルとヤバそうな音がユージンの腹から聞こえてきた。


「やばそうな音だな」

「やばいんだ。トイレ貸してくれ」

「え?やだよ。その辺でしろよ」

「お、おい……俺は貴族だぞ。貴族が野グソなんて出来るわけないだろ?!お前も野グソなんてしないだろ?!」

「知るかよ」

「た、頼む!俺は便座に座ってじゃないとクソができないんだよ!」


それを聞いて俺は口を歪めた。


「じゃあ漏らせば?俺困らないし」


この広場にこいつの汚物が垂れ流れても虫が勝手に処理してくれるから俺は困らないんだよなぁ。


「お、おい……お前俺に漏らせと言ってるのか?勇者に漏らせと言ってるのか?!」

「うん。漏らせば?糞漏らし勇者くん?あ、君の家のほうに清掃代は請求しておくね。糞漏らしの清掃代ですって」


俺がそう言って歩いていこうとしたとき


「あっ……」


ユージンから全てに絶望したような声が聞こえた。


そして、その顔は絶望に染まっていた。


「うわ、きったねー」


俺がそう言うと勇者の仲間のメイサですら蔑んでいた。


「さいあくだよねーこれはちょっと。しかも不意打ちしといてあっさり負けるって逆にすごいね」

「め、メイサ……お前どっちの味方なんだよ」

「えーっと、少なくとも漏らすような人の味方じゃないかな」


そう言って俺の腕を組んでくるメイサ。


「ねぇ?ルイスくん!私やっぱりパーティ組むならルイスくんみたいな人がいいなー」


「あぁ……うわぁ……」


ユージンからそんな声しか聞こえてこない。


村人も俺もユージンを軽蔑したような目を向けていた。


俺はそこでユージンの仲間に目をやった。


「早くこいつ連れてって村から出ていってくれよ。それで二度と近付かないでくれる?」

「お、おう!いくぞ!ユージン」


ユージンは仲間に担がれて運ばれていった。


ユージンは完全に村の外に出ていくとティターンが出てきて話しかけてくる。


「あ、ありがとうございましたルイス様」


べこっ。


頭を下げるティターン。


「あの男に追われていて本当に大変だったのです!本当に助かりました!」


何度も何度も頭を下げるティターンに口を開いた。


「いやいや、別に気にしなくていいよ」


俺はそう言ってからティターンに聞いた。


「君はこれからどうするつもりなの?」

「この村にもう少し住んでみたいと思っているのですが、どうでしょうか?」


ニッコリと笑って聞いてきた。


「別に君が住みたいって言うならいいけど、王女なんでしよ?」

「第三王女はそこそこ自由な立場なのです。ですので問題はありませんよ」

「ふーん。それなら好きにするといいよ。空き家はあるからね。なんなら俺の家とかまだまだ部屋は余ってるし」


一番いい家を貰ったのだけど1人じゃ使い切れないからなーあの部屋の数は。


そう思っていたらティターンは住むことに決めたらしい。


それから


「私も住んでいい?ルイスくん」


メイサが聞いてきた。


「メイサは勇者について行かなくていいの?」

「あんなのについていってたら人生終わっちゃうよ。あははは」


そう言って笑ってた。


どうやら勇者のことは既に見切ったらしい。


「あー、んじゃー宜しくね。ふたりとも」

「はい!」

「うん、よろしく」


これで俺の村の住民がふたり増えることになったのであった。


それにしても全然意識してなかったけどすっごいハーレム状態ってやつになってない?これ。


それとこれは余談だけど、この後ユージンは【クソ漏らしの勇者】と呼ばれることになった。


風のうわさによると勇者の資格の剥奪も考えられているそうだ。






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