第4話 それってもしかしてデート?
純情な男をからかうのは面白い。
それからの毎日はいつも通り……とは残念ながらいかなかった。
時間とは不可逆なものである。
滝沢と友達になる前と後では、同じ学校生活を過ごしても同じ時間ではない。
具体的にはちょくちょく話しかけてくるようになった。
クラス委員同士なのだから元々少し会話することはあったのだが、それがとても多くなった感じ。
由美の目から見ても滝沢はまあまあ顔がいい。
成績優秀で、スポーツもやっている。
つまり、クラスの女子の話題に上ることが多い。
そんな対象と話すことが増えたせいで、クラスの女子に捕まることが多くなってしまった。
これはこれでクラス内のコミュニケーションを高められるので悪いことではないのだが、人と関わるのは良くも悪くもエネルギーを使う。
日々ポテンシャルを上げるためにリソースを消費している状態で対人にも気を遣うのは中々ハードだった。
由美の現在の能力は、殆どが努力で身に着けたものだ。
根っからの秀才型である。
才能がある分野は中学校でやり尽くした。
その根源にあるのが見栄なのだから、それは家族にすら理解はされなかったが、由美が優秀なのは事実である。
負荷が増えたら対応し、消化する。
高校一年生というあらゆることに対応しなければならない立場だったが、見事に成し遂げた。
そして迎えた週末の金曜日。
滝沢が拝み倒してきた。雑用を押し付けるために。
「神崎さん、これお願いできない?」
「え、また?」
クラス委員の仕事は多い。
課題のプリント集めや学内催事の会議、クラス委員会。
二人いるのだからそれぞれ分け合えば負担は半分なのだが、滝沢は部活動もある。
自然とその分もしわ寄せが由美にくる。
対等な立場になったとはいえ、秘密のこともある。
最初はいいよいいよと請け負っていたが、毎度となると限度があった。
「お願い。今回だけだから!」
「それ滝沢君前も言ったよね……?」
由美にもキャパシティはある。
際限なく仕事を回されれば日常生活を圧迫するのだ。
そしてそれは見栄のための自己研鑽に影響する。
「私のこと便利な女って思ってないかな、君」
「その言い方はいくらなんでも誤解を生まない?」
「ごほん」
周囲を見渡す。
幸い教室の中ではなく廊下だったからか聞いている生徒はいなかった。
とはいえ、あまり長々と話している注目を集めてしまう。
「じゃあこうしよう。今度お詫びに何か奢るからそれで手を打ってくれない?」
「ふーん?」
由美の小遣いは基本的に殆ど固定費で消える。
裕福ではないが貧しくもない。
父はちゃんと働いているので小遣いは一般的な額は貰っているのだが、見栄のためという名目でどうしても出ていってしまう。
父との協議の結果日経新聞は折半になったのだが、プロテイン代や履き潰すランニングシューズ、テキスト代などかかってしまう。
ジムや塾には通っていないので、かなり安く済ませているのだがおけらなことには変わりない。
ちなみに友達と遊ぶお金くらいは確保している。
というかお年玉などはそのために貯金して一部投資に回していた。
これも見栄の為だ。
お金がないなどと思われるような振る舞いは断じてNGにしている。
ただ、奢ってくれるというなら話は別だった。
ここ最近滝沢の仕事をかなり肩代わりしているので名目も立つ。
「そういうことなら、いいかな。次からはちゃんとしてよね」
「分かってる。助かるよ、ありがとう! 詳細はまたメールするから」
滝沢はそう言うと足早に去っていった。
やれやれ、仕方ない男子だなどと思いながら教室に戻る。
……あれ、もしかしてこれって二人で遊びに行くってこと?
いやいや。これはただのお詫びを受け取るだけだから。
そういんじゃない。
詳細はその日のうちに来た。
学生らしく慎ましいプランだった。
気になる映画を見た後に喫茶店でパフェでも奢るよ! と顔文字付きでメールが届いた。
映画は悪くない。
コスパはあまりよくないが、話題作りのインプットとしては強いし今やってる映画は純粋に面白そうだ。
二人でというのが気になったが、奢られるためだけに行くのも確かにちょっとどうかと思うし。
「姉さん、携帯を眺めてどうしたの? もしかしてデートとか」
「里奈、ちょっとあっち行ってて」
妹の里奈が後ろから覗き込んで来ようとしたのでしっしっと追い払う。
油断も隙もない。
「え、本当にデート!? 見栄の見栄による見栄のための姉さんが?」
「私はリンカーンか!」
確かに見栄の為に生きてはいるがそこまでひどくはない。
ないと思う。
ないよね。
「相手は誰よー、教えて」
「鬱陶しいったら。もう寝なさいよ」
「いやいやまだ20時過ぎだよ。小学生でも寝ないよ……」
甘い、甘いよ里奈。睡眠不足はお肌にも頭脳にも悪い。
そもそも睡眠不足にならなければ滝沢に醜態をさらす事もなかったのだ。
……とはいえ、少し楽しみにしている自分に由美は少し驚いていた。
という訳で携帯をオフにして布団にもぐる。
今日のノルマはすべて終えているので、後は寝るだけだ。
「姉さん本当に寝ちゃった……花の高校生なのに信じられない。ああはなりたくないな」
うるさい。聞こえてるのよ里奈。
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