第11話

弥生へ


 手紙を貰って、こんなに恐ろしい気持ちになるのはこれで人生最後になって欲しいとこの手紙を読みながら思ったよ。

君が僕のことを好きだと言ってくれていたのは、全くの嘘だったんだね。

泣いてくれたことも心配してくれたことも、(一緒に笑い合ったことも)全て。

そう思うと多分、これ以上精神が保ちそうにない。

これが最後の手紙になるかもしれないとこれだけは先に書いておきます。

弥生のお姉さんの如月さんと僕は確かに付き合っていた。そして、身体の関係も持っていた。早熟だと言われればそうかもしれないけれど、僕らは愛し合っていた。中学生と高校生の恋愛なんて今時では全然珍しくはないけれど、当時はセンセーショナルだった。テレビ番組でするような恋愛―――そんな風にどこか遠くのことでの出来事のように思っていたはずだ。特に僕らが住んでいるような閉塞された村では。

だから、彼女とはこの関係は秘密にしようと一緒に決めた。でも、それがよりにもよって一番知られたくない君に知られていただなんて、自分の詰めの甘さを悔やむよ。当時、如月さんとは色々な場所へ遊びに行ったし、泊りにも行った。泊りに行くといっても、親の了承を得てからの話だから(当然、如月さんと一緒に行くことは伏せて)たいしたところへは行けなかったけれど。

その時によく君の話も聞いたよ。私の妹は気が強いけど、愛情深い子でとても優しいんだって誇らしげに話していた。正直、同級生で同じ学年に居る君を見ても如月さんから聞いているイメージとあまりにもかけ離れていたから「これが家族の欲目か」と話半分に聞いていた。僕は如月さんのことが本当に好きだった。優しくて、聡明で、明るくて、包容力があって。いつもうつ向きがちで無口な僕を「感受性が強いのね」といって決して否定なんかしなかった。


だから、せめてもの償いとして彼女の死に関わった人間として、真実を話そうと思う。


あの日―――川で起こった事故の顛末を話すよ。


僕はあの日、如月さんに呼び出された。「とても大事な話があるから川のほとりに来て欲しい」って。大事な話の見当もつかなかった僕は、少し先の誕生日の相談か何かだと思って川辺に行ったんだ。そして、彼女の口から出た言葉は「妊娠したの」。最初は訳が分からなくて、しばらく突っ立っていたんだと思う。呆然としていたんだろう。反応がない僕を見て彼女の方が焦り出し「ねぇ、真人。嬉しくないの? 赤ちゃんが出来たんだよ?」と僕の肩を掴んで揺さぶって来た。僕はそのお腹の子どもをどうするのか、ということを尋ねたんだと思う。(記憶が曖昧なのは許して欲しい。)すると、彼女はきっぱりと産むつもりだと答えた。僕は焦って混乱した。まだ僕は中学生で、彼女は高校生。大学に行くという未来も就職するという夢も捨てざるをえなくなるうえに、何よりも僕は親に知られることが怖かった。だから僕は「子どもはおろして欲しい」と伝えた。「また何度でもやり直せるから」とも伝えて。

すると彼女は半狂乱になって、僕の胸をドンドンと叩いた。いつかの君のようにね。「やり直せるはずがない、今ここに宿る子の変わりは誰にも務まらない」んだと言いながら。僕はあまりのことの重大さに恐れをなして、今にも腰が抜けそうだった。そうすると如月さんが僕の胸ぐらを掴んで、浅瀬に突き飛ばしたんだ。ザブンと水飛沫が上がって、僕は尻もちをついた。「お腹の赤ちゃんを産めなくなるくらいなら、真人を殺して私も赤ちゃんも一緒に死ぬ」そういった如月さんの目は赤く充血していて、まるで鬼のようだった。

それから先はあんまり覚えていない、多分揉み合いになったんだろう。最後は僕が如月さんを川の深い所へ突き落した。もがきながら流されていく姿を見て、「助けなければ!」と思う一方、このまま彼女を見殺しにしてしまえば将来の夢も希望も捨てないで済むんだと心の隅でそう思った。

兎に角、見に起こっていることが全て噓のように思えて足が震えて……でも、途中でハッと我に返ったから救急車を呼んだんだ。もう彼女は随分と遠くに流されてしまっていたから助かるかどうか望みは薄かったけれど、とりあえずやるべきことはやったと心の中で思いながら彼女が助かりますようにと祈った。アリバイに関しては、君に僕らの関係を知られていたことを除けば、誰も知らなかったから上手い言い訳はいくらでも思いついたよ。君が黙っていてくれて好都合だった。

これでいいかな? きっとこれが君の知りたかった真相、如月さんの死の真相だと思う。


追伸:僕はもう二度と故郷に帰らないと思う。新しい生活、新しい人との出会い―――この東京で暮らしていくよ。


真人

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