第10話

真人へ


手紙、ありがとう。


もう返事はもらえないかなと覚悟していたから、嬉しいです。

確かに私と達也君は喧嘩していたイメージが強いかもしれない。達也君が男子代表、私が女子代表って感じで。でも、お互いにそれなりに尊敬し合っている所もあったから付き合っていてもおかしくはなかったと思う。傍から見れば仲が悪そうに見えたけれど、それはただそう見えたってだけでその実は本人達にしかわからない、なんてことは結構ざらにある話だよね。それに達也君はリーダーを気取って誰よりも泳げそうなくせに、実はカナヅチっていう欠点もあって、それが何だか可愛かったなぁと思って。あとは、私が迷った時に「それは違うだろ」って、正しい方にぐいぐいと引っ張って行ってくれたところも魅力的だった。そして、私が彼と付き合った一番の理由。本当は……達也が「もし、俺と付き合ったら、お前の姉の死の真相を教えてもいい」って言われたからなの。


これは、真人も知ってるよね? だって、真人が犯人なんだから。

七年前、姉と付き合ってた真人は、一緒に姉と川遊びに行った。そして、足を踏み外した姉は川で溺れて死んでしまった。真人がすぐに救急車を呼んでくれたのは知っていたけど、結局それも間に合わなくて徒労に終わって……ただの水難事故だったのなら私も多少あきらめがついたかもしれない。

でも、達っちゃんが教えてくれたのは、全く別の事実だった。真人が姉のことを川に突き落とした、と言ったの。達っちゃんはそれをたまたま橋の上から目撃したと。水に慣れているあなたが川で溺れている人を見捨てる訳ない、飛び込まない訳がない。確かにそう思えば不思議だった。

いつものんびりとはしているけれど、人を見殺しにするようなあなたではないということは重々承知していたから。

本当はあなたと付き合い始めたのは姉の事故の真相を調べたかったから。でも、なかなかその話題に触れることもないまま、ここまで来てしまいました。あのペンダントトップ、真人が嫌がっていたペンダントトップは、本当は姉がこのシリーズが好きで(誕生月の宝石が埋まっている十字架のペンダントトップ)集めていたそれをわざわざプレゼントしていたんだよ。それで何かを思い出したり、あなたが動揺してボロを出すんじゃないかと期待していたの。でも、何事もなく過ぎていった。


ねぇ、わかる? 残された家族の苦しみが。姉はあの頃とても幸せそうだった。その絶頂で命を絶たれたの、恋人だった真人の手で。

私も勿論そうだけれど、姉の気持ちはどうなるの? 

真人はそれを考えたことがあるの? だから、私は達っちゃんに頼んだのです。いつか水辺で真人と遊ぶことがあったら、事故に見せかけて真人を殺して欲しいと。姉の仇を取って欲しいとお願いしたの。そうしたら、達っちゃんは快く了承してくれました。それなのに、達ちゃんはあの鮎釣り時、事故に見せかけてあなたを殺し損ねてしまった。

だから、あの時に何があったのかを知りたくて最初に事故のことを聞いたのです。

もう時効だから、と。私の中では全然時効ではないけれど、あなたの口から何か糸口がつかめるかと思えば我慢できる嘘。

長くなってしまったけれど、姉を殺した理由が気になります。

もし何かあったら教えてください。


弥生より

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