モノローグ11 「お兄ちゃんすきだから…」
なのに、そう強く思えれば思えるほどいくつか狂ったなまりのように重たい石塊いしくれがみゃくに沿ってずっと伸ばして入ってもらって血の流れでぴくぴく動くような気分たちがまた重なり爆発してくれそうになった脳みそだったが、ダダっと背後のどこかからだんだんと近づいてきそうななんだかちぐはぐと言えるぐらいの物音、もう届けてくれた速さは早すぎるかまたは遅すぎるかとほとんどちっとも感じることができなくなりそうな物音、まるで胸でおどおどになっている俺の鼓動と、のどで焼け付いてたまらなくなっている俺の荒い息と、ひくひくするのを殺していながら立ち上がろうとする俺の身にまだ踊っている魂の歩調とシンクロナスするみたいな物音をうすうす教えてもらった気がしたのだけれどまだ気がつくのに間に合うか合わないかのうちに、いきなり有無を言わせず勢いよく俺の左手をぎゅっとつかまえてぐいと引っ張っていくらしい誰かの冷たくて小さいながらも強くしっかりとしている一つの手が差し伸べられたのだけれど。
「にげ…にげ、ろ!にげ…」
なのに、絶えずすたすた息を弾ませていながらよちよち歩き出してきてくれた弱いにしか見えない姿とは真反対、しがみついたら決して放さないほどにぎゅっと俺の左手を握りしめていながらも横へ突き放すようにするほどに俺の左手を振り回してそのままぱっと取り離してくれたすえに、うまく俺の体をそばに放り出して行って、うまくもともと俺が立っていた位置を取り替えてそのまままっすぐに立ち残されることになったのだけれどなお逃げろってなんてすらすら話せないだけれどたぶん心を込めて伝えたい言葉を精いっぱい教えようとしてみてくれそうなあの強い手のあるじ、なんと予定通りに身体検査に行ってまだ帰ってくるはずがないあの子。
なのに、対照的にあの叶わなければいけない願望のためにただひたすら絶え間なく答えを探し求めていながらも、傷つけばかりを探し当てて懲らしめられるという繰り返しのことになったすえに、出せてきた結末はなんだろうかと分からなかった今になって、進んだら間違ったで進まなかったら認められた罪の続きなのか、それとも進んだら認められたで進まなかったら間違った夢の続きなのかとまだ解かないだけじゃなくて、この俺を待ち受けているのはコースを外しつづける結末かどうかにさえ見分けがつかないでどこへ進められるはずなのかとずっと踏ん切りがつかなくてまだまだうろうろと悩んでいながら、すべての状況を把握していそうなコントロール感が満たした妖しい彼女の雰囲気と、俺の過去、俺の今をすべて見破りそうなときからずっと用意してくれていて狙ってくれている彼女の銃口と、悪魔にも等しい意味不明な言い分で迷わしてくれていてにたにたと咲いてくれている彼女のミステリアスな笑みに溺れていないように、緊張感がみなぎっていながら全身全霊をかたむけるのでまったく待ち構えない状態で立っていてあの手のまにまにぱっとしがみついて、追いかけてさっと突き放されることになったらしい俺。
そして、もともと瓜二つはずだけれど疑いを差しはさむ余地がなくて差し控えられる余地がなさそうにまるで正反対な方向へ足を速めていながら進もうとしているみたいに、一つの吸い込んでは一つの吐き出す間に絶え間なく漏らしてくれている喘ぎ声と、一つの立ち上がっては一つの落ち下がる間に息を継いでいながら指を揺れ動くにつれて伝えてくれている鼓動の高鳴りと、彼女の口元から優しく浮かべてくれているにたにたとする笑みと、あの子のぎゅっとつかまえてぐいと引っ張っていく小さい手が細かくにじみ出て立ち込めてくる、妖しいながらもしっとりしそうになっている雰囲気に細やかに包まれた空気を、まるで有無を言わせずコースを外しつづける結末を導いてくれるために薄くてはかない、シャボン玉みたいに流れのぼっている風船をさっと射抜いてしまった矢みたいに一瞬で引き裂いてしまって、かすかにほとんど聞こえないはずなのにはっきりと届いてきてくれた一発の銃音。
さらに、あの子から、さながら厚い黒雲が広く垂れこめている空の下で枝が生い茂った樹幹じゅかんにもたれて座り込むときに透けてにじみ出てくれた木漏れ日のような、ぽつりぽつりと伝えてきてくれたのだけれど、くっきり聞こえた気がする大きな声。
はっ?どういうことだよ。今この瞬間にいったいなにが起こったのか。またもいったいなにをされたのか。この世界とさようならって言ってあげようとさせるじゃないのだろうか。
ずっとこの本当の俺にコースを外しつづけさせる「結末」がわけなくこのまま終わったのだろうか。ずっとこの本当の俺にあのどんな願望でも実現できる場所へ放らせる「審判」がわけなくこのまま終わったのだろうか。
しかし、もしこんな予想によると倒れてしまったべき人は俺なんかじゃないのだろうか。俺なんかしかないじゃないのだろうか。どういうことだよ。
分からなかった。分からなくなったのだ。
「な…なに…」
パリッとまるで薄くて柔らかい真白のティッシュがわがままに横に引っ張って引き裂いてしまったみたいな体に、胸のところからぼっと勢いよくほとばしっていながら噴き出してきた鮮やかな血潮ちしおの吹き上げが、まるで初成熟はつせいじゅくしたばかりのつぼみがわっと中心からほころんできてくれるみたいに、もともと明るみの空間へと純白のワンピースへと完ぺきに咲き誇っていながら、まるでさまざまできれいなかっこうをする花びらが桜吹雪に見えそうにちらちらと飛び交って舞い散ってきてくれるみたいに、もともと明るみの空間へと純白のワンピースへと完ぺきに染みわたってきたすえに、伝えてくれた熱気のような衝撃で苦しいだけれどよろよろと向き直ろうとしてみたあの子。
対照的にただひたすら瞳を大きく見開いて呆然たる顔をしているばかりで目の前に起こっていたすべてのことをきょとんと見かける以外には、ほぼ裂かれるほどに乾きすぎたのどとほぼ絶えるほどに詰まりすぎた息だけが感じれそうな気分さえほとんど応えられない俺なんだけれど。
だけれど、できる限り取り離してもらったあの子のところに届くように自分の手を差し伸べようとしてみたかったと勝手に思ったのだけれど、けっきょく触れれば触れるほど近づくことができなくなりそうで、まるでとある妖しい魔法に施されたみたいにさながら重たい砂が注ぎ込まれるように踏み出せなくなった足にも、さながら針がねがみゃくに沿って関節かんせつを突き抜けられるように伸ばし出せなくなった手にも、さながら寒い釘が十字架にかけるように動きがまったく取れなくなった胴体にも、もう一度何度も少しずつ深く襲っていて食い込んでくれた痛みと同じく少しだけ動こうにもびくびく震えることしかなにも差し控えられない気分が喉から口にかけて指から腕にかけて腹から心にかけて全身までさながら差し込むような痛みの感覚がぞくぞくと湧き出してきた羽目になったのだけれど。
だけれど、ゆさゆさと小さな体を引きずっていながらこっちのほうへと向き直ってきてくれて前へ一歩よたよた踏み出そうとしてみたのだけれどもう進むこともできずにふらふらになった様子で、一筋の明かりが胸のところからちらっと咲き誇ってきてくれた後でずっとこっちの前に立ちはだかってくれたシルエットから一発のきれいな弾丸が貫いてしまって、追いかけて地面にカランっと落ちたあの子でありながらも。
ながらも、もともと一つずつ絶え間なくどろぬまにはまり込んでいて重ね重ね絶え間なく立ち直ってみようとしていたすえに、もっと大きなどろぬまに深くはまり込むことしかできないだけじゃなくて、自分の手で探し当てた答え、選んだ道におもむいて、さようならにおもむいてしまったはずの俺はここに生き残っていながらも。
ながらも、もともとただ俺に「唯一の友だち」と呼ばれるのだけれどなにもよく知っていなかっただけじゃなくて、いま俺の手で探し求めることと、選ぶものとまったく関係がなくて、ただひたすらこの部屋にちゃんと生きつづけているはずのあの子はさようならにおもむいたことになりそうだのだけれど。
だけれど、はっ?どういうことだよ?!だって…
だって、これは俺が探し当てた答えじゃないだろうか。俺が、選んだ道じゃないだろうか。俺が、この線路に沿って踏み出さなければいけない結末じゃないだろうか。
本当に何度もそう考えていても何度もそう探し求めていてもこの線路のまにまに生きてくる結末の出来事だらけだったら、なのにいったいどうして、今さらまたこんなことになってくれたのか?
だからどうして、おばさんの家に養育してもらった後はお母さんとお父さんの帰ることを待っていながら成長してみるばかりになっている俺の目の前に現れたのは、まさにゴミを捨てるみたいにぱしっと打ち寄せてくれた意味不明な言い分、それとおばさん、弟、先生、クラスメイトの一人一人の気持ち悪がる目つきと表情でしかないのか?
だからどうして、自分一人で孤独にあの明るみに踏み出してあげた後は無力に探し求めては無駄に探し当てることを繰り返すばかりになっている俺の目の前に現れたのは、まさに果し合いを申し込むみたいにぐさっと深く突き刺し合ってくれたいろいろな行い、それとおばさんのぐにゃぐにゃと倒れてびくともしない様子でしかないのか?
だからどうして、間違った答えだらけのどろぬまに沈んでいながら浮くように溺れていながらもがいてあげた後は懲らしめを引き受けるばかりになっている俺の目の前に現れたのは、まさに巧みに仕組まれたトリックを細かく設けるみたいにぐっと突き落としてくれたわなのような「病院」、それと永遠に温かさを見つけられない「審判」でしかないのか?
だからどうして、罪の続きの中でもう一度自分で探し求める道をためらっていながら進んでみようとしかけてあげた後はたぶんもともと選択肢がなさそうに必ずこの線路に沿って踏み出すばかりになっている俺の目の前に現れたのは、まさに改めて生み出した微光びこうみたいな夢の続きを粉々に打ち砕いてしまってくれた「結末」、それとどうにかこうにか見つけたのだけれどみるみる見失った「宝物」でしかないのか?
だからどうして、何度も何度も俺の願望を絶やさねばならないのか?
だからどうして、何度も何度も俺の努力を絶やさねばならないのか?
だからどうして、何度も何度も俺の答案を絶やさねばならないのか?
だからどうして、何度も何度も俺にコースを外させねばならないのか?俺一人を地獄に追放しねばならないのか?
だからどうして、静止も運動もなにもかも一切の反応すらされずにいる俺に、こんな間違った姿を見せねばならないのか?
分からなかった。分からなくなったのだよ。
ああ、誰でもいい、教えてくれよ。
「…」
伸ばし出してみようとすればするほどきりりと強張るようになっている手も、踏み出してみようとすればするほど凝り固まるようになっている足も、まるで生気が冷たく溢れなくなった花みたいな心も、だんだん周りの神経が寒くしぼむとともに壊れるようになっている頭さえもただひたすらびくびくガタガタするしかない俺が置き去りにされた。
「ばたん!!!」
すぐ目の前にきらきら光っている真っ赤な瞳も、潔白けっぱくのワンピースの上にさんさんと咲き誇っている大きな花も、空中にはらはらと飛び散っている鮮血の涙のしずくも、一生懸命だけれどゆるりと力が尽きるほどに向き直っている体さえも、まるで空気の抜けた風船みたいな様さまのままに地面にどっかりとずっこけてくるあの子の涙が、俺の身まで舞い落ちてねばついて染みこんでくれそうな気がする。
あれは俺のために咲き誇っている鮮血だろうか。
俺のためにあのミスミステリーさんの拳銃から噴き出した弾丸を受け止めたのだろうか。
俺を守り抜くためなのだろうか。
友だちだからこそお互いに助け合うことをすべきのは当たり前のところだろうと、そう考えてきてくれるあの子がここにいるのだろうか?
本当の善良をずっと持ち合わせているあの子がここにいるのだろうか?
本当の善良は一体全体どんなものなのか?
あの子が立ち残っているところに現れたそういうものなのか?
だったらどうして、ただひたすらいい善良を抱きかかえていながら、手を差し伸べていながら、俺の目の前に立ちはだかっていてまったく部外者としてのあの子に幸せは微塵も給えないのか?
だったらどうして、まだまだ善良が分からなかった俺に、またこんな間違った「結末」を見せねばならないのか?また罪だらけの続きを背負わせねばならないのか。
はっ、分かりそうだった。分かるようになりそうだったのだよ。
これは俺が探し当てたものだ。俺が選んだものだ。俺がこの線路に沿って踏み出さなければならないものだ。
これは前へ進むであれ進まないであれ生きていればコースを外しつづける出来事ばかりに出会うものだ。
お母さんとお父さんの帰ることも、いい人になる方法を探し求めることも、おばさんを突き刺すことも、そしてあのミステリーさんの話にしたがうことも、初めから「コースを外す」と言えるぐらいのちがう道を選んで踏み出したものだ。
これは…
我に返りそうだけれど、気がつくうちにもうゾンビのように苦しく身もだえしていながらあの子のところへずらしていく俺のいわゆる俺。
凝り固まるようになりかける周りの空気で何も聞こえなさそうで、感じができなさそうだけれど、一歩ずつ踏み出してみようとする俺のいわゆる俺。
ただ間違いそうだった今回は、一歩を踏み分けて進むごとに一つの長い間に生まれてくれた疑問が心の底からの本音を乗せて吐き出されていながらあの妖しいながらもしっとりした雰囲気で淡い白い霧のように溶けていくらしいのだ。
ただ、なるほどね。早いうちに分ってくるはずだったことだろうか。されこうべの表からなるタイルみたいな真白の明るみ、淡い白い霧が絶え間なく溢れ出すステージ、お母さんとお父さんが離れ去った後ろかげ、クラスメイトたちが起こした笑い声、先生が振り捨てた責め声、弟がつれて行った冷蔵庫、おばさんが倒れて動かなくなった様子、それといま選んでいる分かれ道のこの空間、すべてのすべてがこんなになじみ深そうで懐かしそうで恋しそうなのは俺が進むであれ進まないであれずっと生きているところだからこそ、こんな答えを探し当てたものだろうか。
ねえ、このとてつもない答えでもいいのだろうか。
何度も何度も頑張ってできる限りいい人になってみたのだけれどけっきょくこの線路に沿って踏み出した結末を迎えに行かざるを得ないでもいいのだろうか。
何度も何度も頑張ってできる限りいい人になってみたのだけれどけっきょくなにも手に入れなかったってもいいのだろうか。なにも認められなかったってもいいのだろうか。
ねえ、この自分で選んだ続きでもいいのだろうか。ここから生きつづけていればどんな答えでもいいのだろうか。
めちゃくちゃごしゃごしゃすることにだんだんと沼にはまっているところを、かすかで途切れ途切れだけれどくっきりな声が聞こえてきてくれそうな気がするのだけれど。
「好き…」
「お兄ちゃん好きだから…」
「お兄ちゃんのために…死に赴く…」
「好き…だから…」
わずかな瞬間で柔らかに届いてきてくれた一言はずだったが、軽く耳に流れ込んできてくれているうちに、まるで抱き寄せてくれる温かいさざ波みたいにさっと俺のうろうろした息と手と足と心を一つに、明らかに灯すことになったらしいのだけれど。
だけれど、そんな温かいさざ波に柔らかに包まれた、凸レンズに映るように柔らかに突き出ることになったくるくるのハローの中で、俺の五感もだんだんとつながらなくなりそうだったのだけれど。
「あ…」
「なに…いまの…」
「あっ、あたま…いたそうぉ…」
だけれど、靄もやが濃く立ちのぼってきてかすんだままに沈みこんでなにも見えない真夜中はずなのに満ち溢れる緋色のような窓の外からの景色がうすうす透けて染みそうなシーンに生き残っているのは、ただ何度も浸っては冷えて凝り固まった背中にねばついている激しい冷や汗と、何度もガンガンしてはしぼられった頭に流れっぱなしのひりひり痛む気分にうなされていそうなので膝がへなへなになってべったりと座っている俺のいわゆる俺一人しかないんだ。
それと、「すき」とか言えそうな、夢のまた夢みたいな、はかないのだけれど、かなり温かい優しい言葉。
無規則世界・again篇 Tei @Dinshin
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