モノローグ10 このままこの世界とさようならって言ってあげなければならない
俺の周りにしばしば矯めつ眇めつ見てみてからまた自分のベッドのほうへよろよろと歩いてきたあの子だったが、やっぱりたぶんその一言を伝えてくれた瞬間に優しく差し伸べてくれた目覚ましい感覚だけが俺の心の底からの捩じれと従いを調和できそうなのかもしれないのだけれど。
ただし、正直に言って、さっきからいくら考えてみても解けないあの一連の思いがいったいなんのものなのか。悪魔に取りつかれるみたいに抵抗感がちっともなかったままにあのミスミステリーさんから手に入れた言語はまたなにか意味不明な言い分なのか。それとも彼女から手に取った自分に寄り添う言い分なのか。
分からなかった。分からなくなったのだ。
「俺の中に…」
自分の中に本当にそんな答えがあるかって、もともとそれを完ぺきに解いてしまった結末に天と地ほど隔たっているみたいだが探し求めつづけたかった疑問だけれど、けっきょくここ一番に目に目えてそろそろたどり着けようとする夜明け前の暗闇にばったりとやむことになったのか。
ただ唯一の知っているのは、自己中で深く考えなおしかけたとたんにいくつか狂った針がねがみゃくに沿ってずっと伸ばして入ってもらって血の流れでびりびり痛むような気分たちがまた重なり爆発してくれた脳みそだったが、今度は深い海みたいな血の流れで体にその声を届けそうになったのだ。胴体も手も足もその声に少しずつ従いかけるらしくて、まだ砂がいっぱい注ぎ込まれるみたいで動こうにもびくびく震えるしかないのだけれどこう願いつづけてみれば自己中に一ミリ、一ミリ移ることもできそうになったのだ。
「俺の中に…」
自分の中に本当にそんな答えがあるかって、ふと何度も繰り返しようとしてみたのだけれど言葉の続きが出せない俺だったが、そんな言語に呪いがかかっているように、気がついたときにもうぞくぞくと考えまくっていながら考えまくるばかりでいそうなことになったのだけれど、あのミスミステリーさんから手に入れた言語はそんなに大事な言い分なのか。それとも彼女から手に取った自分に寄り添う言い分なのか。
分からなかった。分からなくなったのだけれど。
だけれど、もっとまじめに考えてみれば、俺の中にどうしても叶わなければならない願望があるって本当なのか。その答えは自分も探し求めているじゃないのだろうか。赤ん坊の頃からおとなしいと願われていた中で生い立ちつつあって、かろうじて学生の頃に頑張ったが使い走りがちにされたりトカゲの尻尾がちにされたりいっぱいしつつあって、ひたすら大人に習って一人でできることを一つ一つ増やしてみつつあったのだけれど、いつの間にかすさまじい姿に変わってしまった俺に、叶える願望はいったいなんなのか。
「笙くん、いい人になったら幸せになれるわよ」
いきなりどこから柔らかに伝わってきた懐かしくてたまらない一言。
そうか、なるほどね。早いうちに分ってくるはずだったことだろうか。子どもの頃から大人になりたい理由はやっぱりその一言を実行するベスト手本としてのお母さんとお父さんだから今日に生きてきた俺にたしかにそんな願望があるって本当なのだろうか。
知らず知らずのうちに見抜かれて、いや、たぶん見え透いたはずの俺の中から思い浮かべたシーンにそんなのどうしても叶わなければいけない願望があっているのだろうか。それにあのミスミステリーさんにいっそうずつ割かれて取り出されたのだろうか。
分からなかった。分からなくなったのだけれど。
ただ、なるほどね。早いうちに分ってくるはずだったことだろうか。ずっと前から、おばさんに養育してもらったあの日から仕事終わりにすぐ帰ると約束してくれたお母さんとお父さんの帰るのを待っていてそして迎えてくる願い、二人を帰らせたい願い、そんなどうしても叶わなければいけない願望がたしかにあっているのだ。
自分の中にそんな願望がありそうだけれど。
だけれど、もっとまじめに考えてみれば、学生の頃からひたすらテレビによって猫を真似て虎を描いていながら、みんなから捨ててもらった訳が分からない言い分に猫をかぶりそうな性格を形容されたきっかけで後から後からよりいっそうしきりに求められることになった当時に、いくらその求めの基準を満たして自分の状態を変えようとしてみたのだけれどけっきょく褒めるどころか、後から後からよりいっそうしきりに責められることになった俺に、たとえそんな願望を叶えるために出来上がることでもすべては正しいじゃないのだろうか。
「れい…か…しょう!」
いきなりどこから柔らかに伝わってきたリアリティでたまらない一言。
そうか、なるほどね。早いうちに分ってくるはずだったことだろうか。学校の頃から一歩ずつさまざまないい人になった方法を踏み出してみてしまった理由はやっぱりお母さんからの人生信条だから今日に生きてきた俺にたしかにいっぱい正しいことの中でいっぱい間違ったこともあるって本当なのだろうか。
そして「病気」の頃からやはりそう探し求めつづけたい理由は俺の心の底からの捩じれと従いを調和できそうなその声が聞こえてきたからすぐさまいったいなにを手に入れたいのか、なにをしたいのかと、いったいなにをしたのか、なにをすべきのかともう一度うすうす分かってきてくれるのだろうか。
それにもし本当にあんな「どんな願望でも実現できる」場所があるのなら、たとえその場所に至ろうとも自分でまた願望を叶える方法を探し求めつづけていってもいいのだろうか。偽りの善良とたしかなあやまちだらけの答えだとしてもいいのだろうか。間違っただらけの人生だとしてもいいのだろうか。こんな地獄に近いところへ突き落としてもらって永遠に懲らしめてもらってもいいのだろうか。そんな答えを、そんな人生を認められてもいいのだろうか。その声が聞こえてきてくれるのさえできたらいいのだろうか。
分からなかった。分からなくなったのだ。
ただ唯一の知っているのは、自己中で深く考えなおしつづけたとたんにぎゅっと頭の皮膚をかきむしる俺の両手がだんだん震えなくなったり、何度も浸っては冷えて凝り固まった背中の肌に激しい冷や汗が感じれなくなったり、砂を重く注ぎ込んだみたいな足が少しずつ柔らかくなったり、針がねがみゃくに沿って入ってもらって血の流れでびりびり痛むような気分に灯された脳みそがかすかな腫れた膨らみしかすっきりもみ消されてほとんど痕跡こんせきも残っていなくなったりすることになった全身にもう一度敏捷びんしょうに動ける能力が戻りそうだ。
あの願望を叶えるためにぞくぞくと探し求めている中で探し当てた答えに偽りの善良だらけのがあってもいいのだろうか。そんな答えであやまちだらけのがあってもいいのだろうか。罪の続きを引き受けている中で施された懲罰ちょうばつにそんな答えが改められようとしたらいいのだろうか。
自分の中にそんな答えがなくてもいいのだろうか。
いくら試してみても効けていなくていくら見つけてみても当たっていない今になって、本当にどうしようもない境さかいに進んでいるだとしても「コースを外す」のうちにさして入らないのだろうか。たとえこの地獄に近いところへ差し伸べてきてくれた蜘蛛の糸であれ、自分で探し当てて掴み取ったほうがいいのだろうか。
こうしっかりと考えていながら無意識にあの子のほうへひそやかに見やってあげた俺にできることは、たぶん静かにあのミスミステリーさんに言われる一週間後のことを待っているしかないかもしれないのだろうか。
一日目。いつもながらの精神安定剤せいしんあんていざいみたいな薬を分け与えてもらったり、日決めの身体検査を受けさせてもらったり、精神治療みたいなカウンセリングを受けさせてもらったり上手にしている朝ご飯からの昼前じゅうに、あの「先生」の男にでもナースのお姉さんにでも目つきに怪訝がちっとも出てきてもらえない結果から見ると、やっぱり馴れ合いで人を騙すことで突き落とされた俺の身に搾り取ろうとする連中なんかじゃないだろうか。少なくとも彼らじゃないはずだけれど、そっちの顔色を伺うことも必要だし、二人の前にできる限りはじめて入院するときにある顔言葉を持ちつづけるほうがいいのだろうか。
二日目。知らず知らずのうちに恐る恐る探りを入れようとしたのだけれどたいして掘り起こせないわずかな情報にどうして俺の事情が掘り起こされた結末ばかり振ってきてくれたのか。俺の過去だけじゃなくて、俺の今すら見えるらしい場合にいったいどこからあんなささいなところまで尋ねたのか、それにいったいどうして俺を選んだのか。あの日ののんびりとした語調、ミステリアスな笑み、すべての状況を把握しているコントロール感が満たした妖しい雰囲気を目に物見せそうに醸し出してくれた彼女に、いったいどんな達成しなければいけない目的があるのか、やっぱりただの俺の願望を叶えることだけのはずがないのだろうか。そっちの思い浮かんでいながら想定することも必要だし、俺の周りをよりいっそう考えてみるほうがいいのだろうか。
三日目。ただし、いくら如何なる方向にとっくり目を通していてもすべての往事をことごとく知悉ちしつできると認められる人がいなさそうな結果から見ると、またおじさんのところにもこの病院のところにも学校のところにもまったく関係がないらしい、なにか物語にしか存在していない人間の中にずっとひそめている思いをすぐむざむざに見破ることができる悪魔みたいな別の人なのかという疑問に戻っていくかもしれないのだ。
それに恐る恐る探りを入れれば入れるほどあのミスミステリーさんのわなにかかっていかずにはおかなさそうな気がしたのだけれど、やっぱり自分の中でこっちにも物足りなくてあっちにも物足りなくて答えが欲しい俺にそんな人を知りたくなりかける気が盛り上がってきたのだろうか。運命を変えられる答えを追い求めすぎるだろうか。
四日目。そうかもしれないだけれど、何といってもコースを外したことに見えそうな結末と、ひたすら受け身のカタチでそれを見かけていながら無駄な応えでそれをこじらせていることになった自分の間にできることはどうもできるようにいかなくて、まるで透明プラスチッククローシュに囲まれたように逃げ出せない俺に唯一のそのクローシュをかっと打ち砕いた方法は、その長い時間で積み重ねていた思いからの答えは、間違っても追い求めすぎないのだろうか。
それにいくら見晴らしていてももっと大きなクローシュに囲まれたみたいな今の場合に出来上がることは何の答えだろうか。もう一度そのクローシュをかっと打ち砕いた方法を探し当ててみようとするのだろうか。そうしたら間違ったじゃないと認めていくのだろうか。
へっ?そんな答えが自分の中にあっているのだろうか。
五日目。いや、そんなはずじゃないのだろうか。たとえ何度も一人で孤独に踏み出している途中でつまづいても二度と傷つかない方法を見つけられるのだろうか。何度もクラスで手を差し伸べているプロセスでやりきれなくてもいつかやり遂げる方法を見つけられるのだろうか。何度もコースを外す結末の後でいずれただした軌道に乗ってあげるのだろうか。
ただし、そんな結論より現実のほうがもっと堅いのだろうか。いくら頑張って前へ進もうとしてみたのだけれどけっきょく見つけられた答え、乗ってあげた「正した」軌道とも何度もやり遂げたものだとしたら、少なくとも間違ったじゃないものと言えるぐらいのだろうか。少なくとも俺とどこかで似合うものと言えるぐらいのだろうか。
はっ~けっきょくそんな答えが自分の中にあっているはずのだろうか。
六日目。何度も見つけられたそんな答えに、乗ってあげた「正した」軌道にきっとなにか俺とぴったりとあてはまるところと言えるぐらいのものがあるのだろうか。そのまま押しとしてみたらきっとなにかもっと新たな認められる結末が出来上がるのだろうか。
ただし、何度も出来上がることは突き落とされたドミノみたいに一つ一つ差し控えられずにトリガーを起してシグナルを出すのを繰り返していながら傷つけ合っているのだろうか。たとえ本当にあのミスミステリーさんの話にしたがってあの願望を叶える場所に至ろうともそんな答えの続きができたらまだおんなじ結末のだろうか。車は海へ舟は山へじゃないだろうか。過去のお母さんの声にも、現在のあの子の声にもそんな「いい人になったら」という思いが伝えてもらった俺にずっと悩んでいながらうろうろしてきたのだけれど。
前へ進めばまた正しさが見つかるのだろうか。前へ進めば進むほど見つけられたのは認められない結末だろうか。それともそれこそ認められた正しさだろうか。
分からなかった。分からなくなったのだ。
そんなさまよう続きとともに、ついにあのミスミステリーさんに、あのなにも知っている人に運命を決めてもらわなければならない日が来た。
「よ~、坊や」
同じ曜日、同じ午前、同じ俺の前に何度も現れたあの「先生」に、俺に唯一の友だちと呼ばれるのだけれどよく知っていなかったあの子が、またなにか身体検査という理由で呼んでもらった場合。
そして、解けぬ謎みたいなふうに前回ながら群がって一瞬で晴れてきた淡い淡い霧から、まるで魔法使いっぽく見えるように同じ妖しい雰囲気を持参するしぐさで現れたのだけれど先手を握っているみたいにゆっくりと話しかけてくれる彼女。
「おいっ」
ただし、さながらローラーコースターに七日間、百六十八時間、六十万四千八百秒間に絶え間なく乗っていながら手の気持ちも足の気持ちも胴体の気持ちも、頭の気持ちも吹き上げられたり押し下げられたりずらずらとしているようになってしまった俺に今さら持ち合わせると言えるぐらいの気分とはどうやってアイツに向かったり探りを入れたりしていながら本気で自分の答えを確認してみようとするしかないかもしれないのだ。
「おや、いい顔わね、まさか準備ができたの?」
注意深く軽くうなずいてなにもしゃべらずにこぶしを握っている様子で立っている俺。
対照的にこっちのなんだかちょっと思い通りにいかない返事に気づいてかすかに眉を寄せたのだけれどすぐさま開いて口元から小さな弧線を描くことになってにたにたと笑ってくれた彼女。
「念のため聞いたけど、ほんとに願望を叶えるのに行ってみようかな」
ただ、そうだな。本当にあのいわゆる願望を叶える場所に行かなければいけないのだろうか。気がついたらすでにどこにも進めずに生きる人生の道を上がっているらしい結末というなら行かなければなんての話が全然始まらないじゃないだろうか。もともと選択肢がほとんどないだろうか。
そう思いついてしまってにがいつばを飲み込んでいながらかすかにうなずいた俺。
「ほ~、さあ、あたしにつれて行こうのよ」
いかめしい語調にともない色っぽい笑みを出してくれた彼女。
ゆっくりと向き直って踏み出しかけて、一目でかえりみもしない彼女に、自分がしたがうかしたがわないかとつかう心もなさそうだのだけれど、自分を引いてあの自分と似合う「願望を叶える」場所に行かせるほかには、たしかになんの余計な情報は知られなかったお姉さんはずなのに、こんな間違ったものだらけを帯びていながら人を傷つけてしまった自分を騙せずにはいけない意味をどう探していても見つけられない俺にとっては、いままで見知らなくて落ち込まざるを得ない「病院」と言われる場所に罪の続きを引き受ける名のもとにずっと禁固きんこに生きられる始末を明らかにして打ち砕ける答えを探し当てる唯一の方法かもしれないのだ。
「間違ったじゃないと言ってるだろ!ほら、ついていこう!」
そっけない、けれどきわめて色っぽい語調でわけがない、けれどきわめて密っぽい言葉で浮き彫りにしている彼女。
殺しそうな、けれどきわめて放しっぽい気分で揺れそうな、けれどきわめて決めっぽい意識で付き従いにしている俺。
彼女からの心を見破る出来事に少し溺れそうになりかけていながら怖くこぶしを握っている俺が住む部屋から出かけると、すぐ前の廊下に沿ってパタパタうろうろまっすぐに歩き出してきて、ちょうど二度目の角を右折して、すぐ目の前に現れたのは、誰一人もいないすみで佇む、たった一つの温かく懐かしいだけれど冷ややかな恐怖の気がこみ上げそうな真白のドアはずだ。
いや、懐かしさに近寄せようとしていながら物恐ろしさに立ち止まろうとするのはこの誰一人もいない佇まいじゃなくて、真白のドアそのものはずだ。
二人と十センチ足らず隔てるドアの片側にすっと湧き出す泉みたいに表れてきた一つの銀色に塗られたドアノブが無言のままなにか伝えてくれそうな肌寒さにちょっと怖がっているのだけれど恐る恐る近づいた俺に、いままで見たり触ったり、もちろんよく使ったりもしたものの中で、白いのもいっぱいあって本来ならばびくびくしていながら怖がるなんてのことはしないはずが、軽くそのノブに手を当ててつかまえてほやほやと回しとまってそっと押し開く瞬間に一枚の明るく場面が口を開けるように左へ、右へ上へ、下へ自分が立っているところの景色をがりがりと嚙みこなしたことがすぐ分からせてもらったのだ。
正確に言うなら、平日に出会った乳白色のような暖かい色と真反対、されこうべの表からなるタイルのようなものにきれいに嵌められた壁と天井から包まれてくれたのは、ぎっしり立ち並んでいるステージと周りへおもむろにはみ出ている淡い霧にきれいに飾った、まるでどこかの豪華なシアターの個室みたいな肌寒く閉め切った明るみの空間だ。
もうどこにも進めずに生きているらしい自分にとって、たぶんガチャっとノブを手ずからつかまえて回しとまってこっそりとドアを開けるのを皮切りに、俺について、俺が選んだ新しい道で入る新しい物語がまさに幕を切って落としたかもしれないのだ。
「ここ、ですか?」
「そうだよ、今まで知らなかっただろ、こんな素晴らしい場所」
「へっ?」
「緊張しないで、ただお前に用意しておいた儀式を行う場所のよ」
「…?」
やや惹きつける声で「お前のために」みたな褒め言葉の下からすっと左手を挙げて、俺のひたいにじかに狙う身構えをしている彼女。
山場に差しかかりそうになった場合はずなのにまた意味不明な言い分とにたりと咲いた笑みがぐんと増えてくれた彼女の顔を見ると、なにかになろうとしたとうすうす分かりそうだけれど、なにかがあろうとしたとうすうす分からなさそうで歯を食いしばって待っているしかない俺。
「おやおや、そんな顔はしないでよ、あの場所に送り届けるために行わなきゃだから、大丈夫、これで一発お前の願望に届くのよ」
そうか、なるほどね。早いうちに分ってくるはずだったことだろうか。頭から俺の過去、俺の今をすべて見破ることができるとこんなものをずっと用意してくれたのだろうか。この悪魔みたいなミスミステリーさんに謀られたのだろうか。この前に話してくれた答えのことなんかも謀ったのだろうか。それともこのままでもいいのだろうか。
分からなかった。分からなくなったのだけれど。
だけれど、そう考えれば考えるほどもう後がなさそうな自分ともう進めずに生きそうな自分が溶けていくことに気づいた俺に、見破られることも答えを探し求めることもたぶんどうでもよかったらしい話だから、コースを外すときから必ずこの線路のまにまに生きてくる結末になったのだろうか。
分からなかった。分からなくなったのだ。
「ほら、いこう」
「…」
また有無を言わせずに俺の考えを導いてくれる彼女。
まだうろうろと歩き回る考えを抱きかかえてあげる俺。
ただ、なるほどね。早いうちに分ってくるはずだったことだろうか。ただ俺に用意しておいた儀式を行う場所だなんて、俺を撃とうとすることを行うために用意しておいた場所なんだろうか。あるいは正確に言うならまたどこかの地獄に追放してくれるのだろうか。あのミスミステリーさんが悪魔として存在する地獄にね。
目の前にきれいな銃口がはっきり現れてくれる俺なんだけれど。
そうか、なるほどね。早いうちに分ってくるはずだったことだろうか。両親を帰らせられなくて、クラスメイトに手を差し伸べられなくて、おばさんを怒らせて傷つけて刺し殺したばかりで、とんでもないことだらけをしでかしたばかりで生きてきた俺に、前へ進むであれ進まないであれまるで巧みに仕組まれたトリックのように必ずこの線路に沿って踏み出した結末を迎えに行かざるを得ないのだろうか。
なにか願望があるのか。お母さんとお父さんを帰らせる願望がありそうだ。
その願望を叶えるためにどうすればいいのか。実現できる答えをずっと探し求めていそうだ。
探し当てたのはどんな答えなのか。偽りの善良からのあやまちでありそうだか。それともリアリティの本音からのたまものでありそうだか。
あんな過去の答えに変わった「懲罰」をされた、「病院」に突き落とされた現在で探し求めつづけてみればまたなんの答えが出てくれたのか。なお間違ったのか。それとも認められたのか。
今さら選んだのは夢の続きなのか。罪の続きなのか。
分からなかった。分からなくなったのだけれど。
ああ、誰でもいい、教えてくれよ。
だけれど、本当の俺を待ち受けているのはコースを外しつづける結末でなくてなんだろうか。審判するのだろうか。それともどこへ放るのだろうか。はっ、これは異なるなんかじゃないだろうか。
知らず知らずのうちに背中でびしょびしょになっている冷や汗、胸でドキドキになっている鼓動、のどで抑えられなくなっている荒い息、眼鏡を通してまっすぐに見つめている彼女の銃口、俺をまっすぐに狙っている彼女のにやにやする笑顔。すべてが静かに述べてくれたこの際、人生の中で初めて断然に頭をあげるなんて、俺にもできるかもしれないのだろうか。
このままこの世界とさようならって言ってあげなければならないと、今度はそう思えた人ごみの中に入り込める人としての俺がここにいるかもしれないはずなのに。
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