幻の山

しかし誰かが私を見たとき

私は 何もないところで うめき 

もがいている 変人にしか見えないだろう

奇なるものに、映るだろう


だが実際は 私は

誰にも見えない 幻の山を登っていて

崖をつかみ 道なき道を進み

歯を食いしばって山頂を目指しているのだ


それでも誰かが私を見たとき

誰もが私を阿呆と思うだろう

何もないところで何をしているのかと

そんな奇行に走らずまともに生きろと


嗤うだろう

後ろ指を指すだろう

呆れるだろう

だが


誰にも見えない

この血と汗の跡も

誰にも見えない

あの雲の向こうの山頂も


結局 この幻の山は 誰かが登り切らないと

誰にも見えないままなのだ

誰かが登り切るまではこの世に存在しない

どこにも存在せず、ただ

登っている人にしか見えない 登れない 幻の山


私は今 その幻の山を登っている

道半ばで果てるのか

それとも山頂に辿り着くのか


分からない

ただ 登っている

登りつづけている

この 幻の山を

私は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る