父のいない砂浜

消えた背中を追うことはかなわず

その歩みを知る術もない

私は彼の呼吸の意味も問わないまま

死が彼との袂を分かつに任せた

それは自然だった 波だった まるで一時まばたきあるいは――

気付けば彼は いなくなってしまった


砂浜に遺された彼のいくつかの足跡こんせき

波紋が拡がり 何かを伝えようと震える

私は その横を通りすぎてきた

だが 果たして 本当にそうだろうか

気がつけば私も 同じ足跡を辿ってはいまいか

残してはいまいか


風は 吹いていない

凪の砂浜で私はきっと

しるべのない迷子になったのだ

ああ そうだ

私はきっと 彼に導いてほしかったのだ

どう進めば自分だけの人生を歩めうるのか

あなたと違う人生を送りえるのか

私は 彼と 異なる未来へ至りたかった

しかしきっと 彼も答えは持ちあわせていなかっただろう

この砂浜は無言で満ちている


音のない波の向こうへ 彼は黙して渡っていった その足跡こんせきは波にさらわれることなく遺っていて そしてそこで途切れている

たぶん息子の仕事はその父に違った人生を垣間見せることではなかっただろうか

だが私は 新しい彼を 彼に見せてあげることができなかった

新しい足跡を 波紋を 未来を 可能性を

見せられなかった 私は、間に合わなかった

ああ 彼の足跡は ――父の背中は 海へと既に消えている

私が彼を 知ることができなかった その永遠の証として


ずっと

ずっと

ずっと

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