何故、人は飛び降りるのか?

ウルトラサイダー

何故、人は飛び降りるのか?

 男は欄干の上に立っていた。下を見ると川が流れている。流れははやく、底は深い。頭から飛び降りれば、あの世に行くことができるだろう。

 それは男にとって素晴らしいことだった。男の人生はつまらないものだった。何もやりがいがなかった。仕事に行けば上司に怒鳴られ、家に帰れば親に怒鳴られる。まるで怒鳴られるのが仕事のようだった。

 男を褒めてくれる人は誰もいなかった。男を必要としている人は誰もいなかった。だから男は生きるのがつらくなった。はやく死んでこの悪夢を終わらせたいと思った。

 あの水面の向こうにはきっと素晴らしい世界が広がっている。素晴らしいことが待っている。あぁ、もう我慢できない!

 男は欄干から飛び降りた。その口元には笑みがこぼれていた。


 男は欄干の上に立っていた。下を見ると川が流れている。流れはゆるく、底は浅い。受け身をとればどうとでもなるだろう。

 それは男にとって素晴らしいことだった。ついさっき、自分の応援している野球チームが優勝した。男はこの喜びを表すため、川に飛び込みたいと思った。一緒にいる仲間たちも大喜びするだろう。

 男の人生は充実していた。妻と子にも恵まれ、仕事でも常に誰かに必要とされてきた。男からは生きる気力が満ち溢れていた。今から川に飛び込んで、仲間たちと盛り上がろう。そして家に帰って、妻や子供をハグしてやるんだ。妻や子はもう寝ているだろうか?だったら2人の寝顔をみてニッコリ笑いかけてやるだけだ。

 あの水面の向こうにはきっと素晴らしい世界が広がっている。素晴らしいことが待っている。あぁ、もう我慢できない!

 男は欄干から飛び降りた。その口元には笑みがこぼれていた。


 男は病室にいた。男が寝ているベッドの隣では家族が睡魔と戦いながらうとうとしていた。男はつけっぱなしになっているテレビを観た。テレビでは地方のニュースが流れている。

 「昨日、午後11時。男が橋の上から飛び降り死亡しました。一緒にいた友人達によれば、男は酔っ払っており、応援していた野球チームが優勝したため嬉しくなって飛び降りたそうです」

男はそのニュースを観てため息まじりに呟いた。

「いいなー」

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