第23話

 嫌な予感を覚えながらも思考が鈍っていた私はなんの対策もせずに授業に出席した。どうせ下らない悪戯か暴言なんだろうしやれることなんてない。今まで通り俯いて何も聞こえていないふりをする以外。

 体育館の端で私はクラスメイトがバトミントンの試合を行っている様を座って見ていた。以前は誰かが気を遣ってスコアボードの管理などを頼んでくれたが最近は誰も私に話しかけない。面倒ごとに巻き込まれたくないのだろう。

 ラケットがシャトルを弾く音、運動靴が床を擦る音、それを通り抜けるかのように雨の音は響いてくる。どうやら先ほどより激しく降っているらしい。

「……」

 なにかがおかしい。ろくでもないことを考えていたのは間違いないのにクスクスと笑ってたまにこちらの顔を窺うだけ。いつもなら近づいて触る振りをして脅かしたり、聞こえるように私の悪口を言ったりしてくるのに。それになぜかは知らないが姫川と取り巻き達はなぜか授業に遅れてやってきた。

 一体なにをしようとしているのだろう。いや、もしかして“しようとしている”のではなく…既に…

 予感は確信に変わり体を突き動かした。体育館の外に出て周りを見渡す。そしてここに来る途中にはなかったものを見つけた。

「………………は?」

 体育館と校舎を繋ぐ連絡通路の屋根のすぐ傍。黒くて四角いなにかが水溜まりに打ち捨てられている。いや、なにかじゃない。あれは間違いなく…

 雨に濡れることなんて構いもせず走り出した。泥に塗れることも気にせず膝を地面につけて手を突っ込んだ。

 訳の分からない言葉をぶつぶつと呟きながら必死に泥を拭ってボタンを押した。

 動く筈はなかった。あちこちに水と泥が入り込んでいる。修理に出しても手の施しようがないだろう。

 ゲラゲラと品のない笑い声が背後で弾ける。姫川が腹を抱えるような仕草をしながら笑っていた。スマホまで向けている。シャッターボタンも押さずに長時間構えていることから撮っているのは動画だろう。

「………なんで?」

 無愛想だったのが気に食わなかったのか、一瞬でも目立ったのが許せなかったのか、触れただけで吐かれて傷ついたのか、多分その全部だろうけれど。それでも分からない。どうしてここまで酷いことが出来るのだろう。

 どうして、自分はやられてばかりでなにも出来ないんだろう。

 冷たい雨に打たれながら声をあげて泣いた。悲しかったし、それ以上に悔しかった。

 けれど泣き声は雨音に掻き消されて誰の耳にも、自分自身にさえも届かなかった。

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