第13話
誰も立ち入らないような暗い路地裏。人の営みから外れた場所に男は座っていた。ブツブツと不鮮明な言葉を吐き出し続けており、視線は虚空を彷徨っている。
傍らには空の注射器。中には微かに黒い液体のようなものがこびりついている。
重度の薬物中毒者のような様を見せるその男を二つの影が見下ろしていた。
「おい、こんなものが使い物になるのか?ただの廃人じゃないか」
「まあまあ。ちゃんと言うことは聞いてくれるし、結構強いんですよ」
一人は中性的な顔立ちをした茶髪の少年、もう一人は背が高く神経質そうな顔つきをした、少年と青年の中間にいるような男だった。
「こんなヤツを放し飼いにしたらすぐ捕まるだろう」
「分かってますよ。だから先輩の力が必要なんです」
少年はニコリと笑って一歩下がった。背の高い男は舌打ちし、懐からペットボトルを取り出す。
蓋を開けて水を地面に零し続けた。容器が空になるころにはマンホール一個分程の大きな水溜まりが出来上がった。
「ほら、入って入って」
少年が廃人と化した男に声をかけると、それはぎこちない動作で立ち上がり、水溜まりの上に立つ。
水面がきらりと輝いた瞬間、男の姿は消え失せた。まるで最初から存在していなかったかのように。
「こいつは使ってもいいんだよな」
「どうぞ。ボクはアナタの世界を貸してもらう、アナタはボクの駒を借りる。そういう約束ですから」
フンと鼻を鳴らし青年も水溜まりの中に消えていった。少年は肩をすくめてため息を吐く。
「ボク、あの人苦手なんだよなぁ」
そう小さくぼやいた時、水面に波が立った。少年はそれをじっと眺める。そして大きな雫が周りにいくつも落ちて、コンクリートの地面に小さな水溜まりがいくつも出来たのを見て、ようやく雨が降っていることに気づいた。
「……」
少年は濡れることを気にしていないようでその場から動くこともせず、ただぼんやりと空を眺めていた。
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