第4話
「ねえ音羽さーん音羽さーん?」
甲高い声が何度も私を呼んでいる、本当は無視したかったがその勇気もなくて振り返った。
同級生の姫川愛とその友人二人、というよりは取り巻き達が私の方を見ていた。姫宮はそれなりに整った顔立ちをしているが下品な笑みと異性相手にすり寄る態度がどうも鼻につく女だ。取り巻きの二人は、よく分からない。姫川にくっついていていいことでもあるのだろうか。
「…ごめん、なさい。聞こえなかった」
「音羽さんいっつもイヤホンつけてるからね。そりゃ聞こえないでしょ。あっ、でも困らないよね、話す相手いないんだから」
姫川の言葉に二人は笑っていたが目の奥はどこか申し訳なさそうだった。嫌々従っているのだ、分かってくれと言外に告げているようだ。そんな顔をされると余計に腹が立つ。
私が表情を変えないままにいると姫川はつまらなそうに舌打ちした。
「まあいいや。聞きたいことあってさ」
「…なに?」
「音羽さんって体育いつも見学してんじゃん。あれなんで?」
ギリと胃が荒れるような感覚がする。イヤな質問だ。言いづらい理由があると察してくれればいいのに。いや、だからこそ聞いてくるのか。
仕方なく用意していた答えを口にした。本当の理由は別にあるが人に話すときどう答えるかは決めていた。
「……私生まれつき肺が弱くて運動出来ないの…それが理由」
「…ふーん。なんかうそくさ…」
もうやめなよ、と小声で取り巻きの一人が耳打ちする。それでようやく三人は席を立ちどこかに去って行った。
苦痛な時間が終わって安堵の息が漏れる。あと数時間やり過ごしさえすれば家に帰れる。
そう自分を慰めた時、ある思いが過ぎった。
『自分は何のためにいるんだろう』
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