第8話 再び

「細かい手続きとかは…?」

「後々でも結構ですよ。引っ越して、落ち着いてからで」


「なら、ここに決めようかな…」

「ありがとうございます。月末が家賃の振り込み日なのでお忘れなく。あと今月一か月は家賃がかからないキャンペーンをやってますので」


不動産屋いに戻り、簡易な書類にサインをする。

ペット可だそうだ。どうりで部屋からほんのりと獣臭がしたわけだ。


家を借りるという事は、ある種の首輪のようで、まどかが来なくてもこれからはしっかりと働かなければならない。

バイトを掛け持ちしたりすれば何とかやっていけるだろう。


もうすっかりと辺りは暗くなっていた。テントに戻り、荷物をまとめる。

大きなバッグ二つ分でとりあえずは片付いた。


早速新居に荷物を運び入れる。

新しく急遽買いそろえなければならない物はなさそうだ。


屋根と壁があるだけで随分と暖かい。

きっとまどかは喜んでくれるだろうと口の端が緩む。


夜になり寝ようとするとまどかから着信が入った。

「遅くにごめんね。またお邪魔してもいいかな」声はか細く震えている。 

「いいけどまた殴られた?」電話の向こうで小さなため息が聞こえた。


駅まで迎えに行き、見たまどかの目はやはり腫れあがっていて青あざができていた。痛々しい。

コンビニで飯と飲み物を買って、新居に案内をした。


「家、借りたんだ」まどかは腫れた目をパチクリとする。

「うん、まどかちゃんあんな所に寝かせてらんないし」俺は何だか恥ずかしくなって下を向いた。


「明日は布団も買ってくるから、それで、その傷は…?」

「二日間家に帰らなかったから、浮気だって言われて」手で前髪を目の上に被せるような仕草をする。

「また出てきても大丈夫なの?」

「ん。もう帰りたくない」と出会った時と同じ、寂し気な顔で笑った。

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