第7話 居住

「そろそろ帰った方がいいよね。荷物とかもあるし」

まどかは何だか憔悴した顔で言う。

「いつ帰るかは任せるよ。でもうちならいつ来ても大丈夫だから」と伝えた。

「一回明日帰ってみる」

「わかった。大丈夫?」


「うーん、旦那いない時間に帰ろうと思うから多分大丈夫…」伏目がちで斜め下を見ている。


その日はいつもよりも強く手を握って寝た。

これからどうするのだろう。

早朝また朝早くに並び、割のいい仕事につく。


夕方にラインが入っていて、まどかは昼過ぎに帰ったようだ。

夜は旦那に殴られたりしていないだろうか。心配で何も手につかない。


仕事が終わり、近所の不動産屋にぶらりと行く。

少し狭くて汚いが、敷金礼金なしの物件がちょこちょことある。

家賃にして、安い所で月3万6千円だ。


それなら何とか払えると思う。

だが食費や光熱費を考えると今のままの仕事では厳しいだろう。


切り詰めればギリギリの生活でやっていけるかもしれない。

それに、まどかをもうテントに寝かすのは可哀想だ。


意を決して、不動産屋に入る。

スラム街だからか、保証人も働き口も必要なかった。

「すぐそこなんで、今からでも見に行きますか?」と不動産屋に言われ。ついていく。

徒歩5分ほどのところに木造2階建てのアパートメントがあり、かなり年季は入っているが住めなくはない。というか今の俺のテントよりははるかにマシだ。


中は六畳一間で和室だ。ハウスクリーニングが入っていないようで、前の住人が置いていったであろうテレビや布団があった。


「ここは安いし、職安も駅も近いしいいですよー。スーパーも3分も歩けばありますし」

「決めたらいつから入居可能ですか?」


「明日からでも大丈夫です」とにこやかに返事をされた。

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