第2話 冬

「立石さんどうぞ」と呼ばれ診察室に入る。


医者は「淋病ですね」ちらりと俺の汚らしい姿を見て「内服薬にしましょうか。2~3週間で治りますよ」と言った。内服薬は淋病の治療で一番安価なものらしい。


会計は1万円近くかかった。500円ババアに頼まなければもっと有意義に金が使えたというのに情けない。

憤りの無い怒りが込み上げる。


どうせ周りの連中は病院に行かず放置して病気を繰り返すだろう。

そのループにはまりたくない。調べてはないが最悪、男として機能しなくなるのではないか。


俺は密かにいつか訪れるかもしれない運命的なものに憧れを抱いていた。


いつも通りに安い賃金の仕事を終え、空き缶を拾い炊き出しに並ぶ。

今日は平たい団子の入った豚汁だ。

どうも炊き出しは豚汁が多い。だが無料だしありがたく豚汁をすすった。


外はもう吐く息が白くなるほどに冷えている。

豚汁の湯気か吐息かはもうわからない。手がかじかんで痛い。

破れた軍手から豚汁の器に指を当て暖を取った。


翌日薬のおかげかむず痒さはほとんど無くなっていた。

その日は仕事にありつけず、空き缶の回収のみを行った。

夕方まで自転車を転がし480円。

明日は早く職業安定所に並ぼうと決意した。


テントにダンボールに小汚い毛布だけでそろそろ寒く寝れなくなってきた。

底冷えし、身体の内側から震えが出てくる。

まるで臓器が全て冷え切っているようだ。


こんな街にもクリスマスや正月がくる。しかし需要がないからか、イベント商戦は見られない。

中心部に行けばコスプレをした女の子がケーキを売っていたり、街も賑わいを見せているのだろう。


この街は、いつも変わらない。

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