第31話 ゴキャッ

 リーダーのごつい手が白く柔らかな魄(たま)の腕を掴む寸前に、魄(たま)の細いしなやかな指が手首を掴む。


 「あんたバカなんじゃないの?」


 まるで大人気のアイドルのような美少女、可愛い桜色の唇から漏れる言葉が甘く流れた。やさしく掴んだリーダーの手首を逆方向にグィッと撚る。


 「ゴキャッ」 硬いものが折れて砕けるような破砕音が耳に流れ込む。


 「ウッ、痛え」 あまりの激痛に腰が崩れ落ちそうになる。しかし手首は魄(たま)に握られたままで、床に膝を落とせない。


 「な、なんだ。どうした?」


 目の前で突然起こった出来事に、グループの何人かの声が店内に響いた。


 ブックスタンドの前では、皓(しろ)をからかって手を触れようとした瞬間に、頭に響いた人間のものとは思えない声に、取り囲んだ4人が硬直していた。


 「なんだよ、皓(しろ)も絡まれてんの?」


 トイレから出てきた涅(くろ)が、ブックスタンドの前で動かぬ5人を見かけて、のんびりとした声をかけた。唇を赤く濡らしたまま·······

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る