第30話 制裁開始

 「バチッ」 トイレの中で狂気が弾け火花がちった。


 「邪魔くせえガキだな。俺を怒らせるとどうなるかわかってんのか!」


 言葉が終わる前に狂犬のような男の右足が、振り向いた涅(くろ)の腹にめり込んだ·······ように見えた。


 「ガッ」 涅(くろ)の左手が蹴り込んできた狂犬の右足首を無造作に掴む。まるで小さな子供のキックを大人が軽く掴むように。


 「しょうがないな。バカと遊んでる暇はないんだけどな」


 手加減して蹴り込んだ右足を軽く掴まれ、体勢を後ろに崩して、トイレの大鏡に背中をぶち当てた狂犬の顔面に涅(くろ)の右手が走る。


 涅(くろ)のしなやかな手の平が顔面を包み、指が狂犬の両こめかみに万力のような強さで食い込んだ。


 「グシャッ」 硬い何かが砕ける異音が空気を震わせた。


 「何だよ、可愛い姉ちゃん。居なくなるってどういう意味だい。」


 『ビビって訳の分からねぇこと言いやがって、ちょいとからかうつもりだったが、そうはいかねえようだな。』


 リーダーらしき男が、レジの魄(たま)に手を伸ばした。

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