第9話 ご神水

「多過ぎるね·····」

「魂(たま) 何が???」

「めんどくさいことが ·····ね」

「そうだね 馬鹿な奴らが多いから」

「涅(くろ) 行かないの?」

「行かないよ 昭島市民じゃないしね」

「市民なら こんな時間に出歩かないもの」

「しかも魔宮沢なんて·····」


『ガリッ!バキッ!』

 固いものを噛み砕く音が、甘い血の香りとともに闇を漂う。ほんの15分ほど前に起こった奇怪な自動車事故、被害者である他県在住の若者2人、もう既に命ある時の形さえ失っていた。


 古より日本各地で人が忽然と消失する『神隠し』、その大半は妖奇事件ではあるが、人智さえ届かぬこれら事件は、表立つことなどない。為すすべさえ知らぬ時の施政者が、震えながら闇に隠匿するのみである。


 魔界都市昭島市民といえど、日が落ちてなお出歩くことはある。しかし魔界市民は多少の妖奇事件では被害を受けることなどない。その理由は、日常的にご神水を体内に取り入れているからと思われる。

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