七稿目 上杉君は好かれたい? 〜イケメン同士の美少女争奪戦〜


「皆さん、もう来年から三年生です。単位を落としている場合じゃないですからね~補修の人は、ここまでしっかりとってくださ~い」


ホームルーム担当の先生が、生徒全員に言う。

わいわいと周りの生徒がざわめきだす横で、俺はひそかにため息をついた。


年を越し、いよいよ大学二年の講義がすべて終わろうとしている。

最後のテストとだけあって、難しい科目の方が多かった。

幸い、補修を受けるまでには至らなかったが……


「また全教科赤点とは、お前も懲りねぇな」


「……ふん、平均点ばかりのお前には言われたくない。彼女ができてさぞ幸せなことだろうな」


「普段から勉強してないお前が悪いだろ。日頃の行いの差だ」


俺がたしなめるように言っても、響かない様子の北斗は小さく解せぬとだけつぶやく。

彼にはすでに、彼女ができたことは報告した。

相手は誰だとかどういう経緯だ、とかで尋問が激しかったが……今となっては過去の話だ。

まあ当然、ここにはいない彼にも話したのだが……


「ねえ上杉君! 毛利君! 毛利君知らない!?」


「え、あいつなら今朝からあってないが……」


「うそ、マジ? やっぱ噂ガチなのかな……ありがと!」


数人の女性が、忙しそうに去っていく。

そう、俺のもう一人の友人である昴は、俺と違ってモテモテだ。

行くとこ通るとこ、いつも女性が話しかけてくる。

俺がいつも一緒にいるせいなのか、いない時はこうやって聞いてくるほどだ。

噂ってなんのことだろう。

確かにあいつの姿が未だ見えないのは、少しおかしいとは思っていたが……


「そういえば、噂になっているらしいな。昴にはすでに、好きな相手がいるのではないかと」


「は? なんだそれ。そんなことあるわけ……」


「あれだけ女子に求められていても尚、彼女を作ろうとしない……その理由を、お前は聞いたことあるのか?」




「初めまして、確か同じ学科だよな? 先週からここで働いてる毛利昴っていいます。色々とよろしく」


忘れもしない、あいつと出会った瞬間に俺は、絵に描いたようなイケメンだと思った。

見た目だけじゃなく、性格もいい。本当にこんな奴がいるのかと疑ってしまうくらい。

それこそ女子の方から向かってくるほど、こいつにはかなわないとさえ思ってしまう。

だからといって北斗のように彼女を作ろうともしないし、好きな人ができたなどの話さえ聞いたことが無い。


興味がないだけなのだと、思っていた。

確かに彼女を作ろうとしないちゃんとした理由を、聞いたこともない。

それが、誰か1人すでに好きだとしたら……?


「へぇ〜星の観察スケッチ大会? 面白そう〜誰でも参加できるの?」


聞き慣れた、声がする。

徐に歩いていた矢先の廊下に、九十九がいた。

どうやら自然と、彼女の元へ足が向いていたらしい。

なんの話をしてるのかと、向かおうとした時ー


「もちろん、誰でも参加できますよ。この日、実は流星群が見られるんです」


「すご〜い、さすが天文サークル。でもどうしてこの話を僕に?」


「文化祭の時にプラネタリウムを見に来てくれたから、好きなのかなって」


昴がいた。

一眼見ただけで感じた、2人の仲のよさを。

なぜ、彼が九十九と一緒にいるのだろう。

昴に好きな人がいるかもしれない。それが仮に、あいつのことだとしたら……?

いやいや、そんな都合よくあるわけ……


「ねえねえ九十九さん! この人誰!? 超イケメンじゃん!」


「ああ、彼はえっと、教養学科の後輩で……」


「もしかして、話してたら 例の彼氏!? 残念なイケメンって言ってなかったっけ? 九十九さんのイケメンレベル高くない!?」


おそらく、クラスメイトの人に否はない。

純粋に、そうみえたのだろう。

何も知らない人は、きっとそう思う。

現に俺だって、同じように思ってしまいそうでー


「あはは、ごめん。確かに同じ学科だけど、違うんだ。僕の彼氏は、こっち。ね、残念なイケメンでしょ?」


腕が、ぐいっと引き寄せられる。

気がつくと、そこには九十九がいた。

びっくりして何も言えない俺に、彼女は行くよとだけ呟いて……


「ちょ、待てって! いいのかよ、お前!」


「いいって、何が?」


「友達に話したことだよ! あのまま昴を彼氏ってことにしてた方が、よかったんじゃ……」


「なーんで僕が、君の友達を彼氏ってことにしなきゃならないの? 僕の彼氏は君でしょ? そもそも君が言ったんじゃん。自分の前では嘘つくなって」


その言葉に、はっとする。

思えばこいつはいつも、嘘ばかりついていた。

クラスメイトにも、自分自身にも。

そんな彼女が初めて嘘じゃなく、本当のことを言ってくれた。

俺が彼氏という、大事なことを。

それが俺にとって、どんなに嬉しいことか……


「ってお前、俺のこと残念なイケメンって紹介してなかったか?」


「だって事実じゃん? 男に惚れかかったり、肝心なとこはヘタレるし」


「お前なぁ……」


「大丈夫、負けてないよ。君は、僕の王子様なんだから」


ああ、頼もしいな、こいつは。

こんなふうに愛されるなんて、俺はなんて幸せものなのだろう。

そんな幸せを噛み締めながら、彼女の手をそっと掴んでみせる。

驚きつつも照れたように笑う九十九は、そのてを優しく握り返してくれたー


(つづく!!)

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